第四話「バースト・オン」
「遅い、遅すぎる!」
あれから更に一週間、卒業から数えるともう二週間以上経っていた。
和人が聞いた話では他のクラスメイト全員が既に戦役投入されているという。
中にはオルギアを使いネビュラを倒した者までいると聞く。
「ああ、くそ!」
和人以外は長くても一週間以内には連絡が来ていたらしい。
周りの活躍に焦りが出る和人。
「どうした? 随分イラついてるなぁ」
そんな和人にデルタが語りかける。
「別に早くネビュラと戦いたいって訳じゃ無いんだ……でもいざこう、周りとの差を感じると……」
「焦るって訳か」
「まあな」
焦っても仕方ない。
わかってはいるが、どうにも焦ってしまう。
力無くベッドに横たわっている和人に目掛けデルタが言う。
「暇つぶしって訳じゃねぇが、今後の為でもある、俺の力を試してみないか?」
デルタの提案は和人をベッドから起き上がらせるには十分過ぎる内容だった。
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「よし、ここら辺ならいいだろう!」
和人はデルタの指示通り、出来るだけ民家から離れた空き地へとたどり着く。
「こんな所まで来て、お前の力はそんなに危ないのか?」
「危ないか危なくないかは和人、お前次第だ! だが初回ってのもあるし、要人に越した事はねえからなぁ」
いまいち要領が掴めない和人にデルタが自分の能力について説明する。
「まず、前提として俺の能力は『炎』だ」
「へえ、炎だったのか……成る程民家から離れた訳だ」
「そう、そこら辺の配慮も出来るのが俺様だからな!」
身体があったならきっとえっへん!とポーズを取っているだろうと思う程にデルタは得意げだった。
「だが俺様の能力は少し違う、種類で言うと『魔力武装』に当たる」
「魔力武装? 授業でも聞いた事ないな」
魔力武装という始めて聞くものに不信感を露わにする和人。
見兼ねたデルタが善は急げと行動に移る。
「まあ、一回やってみようぜ!」
「あ、ああ……」
デルタに言われるがままに左腕にデルタを近づける。
すると、腕時計の様にベルト状の物が巻きつき、和人の左腕とデルタを固定する。
「おい! なんだよこれ!」
「落ち着けって! 大丈夫だから!」
慌てふためく和人を必死デルタが宥める。
暫くして落ち着いた和人は改めて今のデルタをマジマジと見る。
巻きついている以外、特に変わった部分は無い。
「で? どうするんだ?」
落ち着いた途端に和人がデルタを急かす。
「ハハァ、調子いい奴……いいか? オルギアってもんはメリットを得るにはデメリットが必要になるんだ」
「それは習った」
「なら話しは早い、じゃあ今回で言うデメリットに値するものは何かと言うと『テンションを上げる事』だ」
「は?」
デルタからの説明に頷いていた和人も、肝心の条件を聞いた途端間抜けな顔で思わず聞き返してしまった。
「だから! テンションを上げないと無理なんだって! そうしないと俺様は使えないの!」
「いや、全くわかんねえわ……」
デルタなりのジョークだろうか、和人にはデルタが冗談を言っているとしか思えない。
「あー、とりあえずやってみようぜ!」
「ああ……」
半信半疑だが、デルタの指示通りにする。
「おっといけねえ! 俺様とした事が合図の事を忘れてたぜ!」
「合図?」
「おう! これから先、今から能力を使うぜって言う合図だ。それを言ったら能力を使う、いいな?」
「おう、わかった……けどどういうのにする?」
何気に無しに聞いた和人だったが、和人が思っていた以上に悩むデルタ。
内心そんなに重要か?と思った和人だが、それを口に出す事は無かった。
「うーん、こう、カッコイイ感じの……」
ブツブツと独り言を述べるデルタに和人はヒントを出す。
「なあ、デルタの能力って炎だろ?」
「ああ、そうだが?」
「だったら、バーニングとかバーストとか入れたらいいんじゃないか?」
「それだ!」
途端に元気になるデルタ。
しかし、相変わらずひとりの世界に入ってしまっている。
暫くして、デルタの中でしっくり来るものがあったらしく「決まった!」と急に大声を出す。
「決まったぜ和人!」
「うるさっ! 何が?」
「何がってそりゃ合図だよ合図!」
よりハイテンションで話すデルタに圧倒されながらも、要領を聞く。
「いいか、合図は炎魔装甲だ! それをテンションを上げながら言え!」
「ええ……」
困惑しながらも、デルタの指示通りテンションを上げながら合図を言う。
「炎魔装甲!」
その途端に和人を中心にして半径1m程が焼け散る。
幸い空き地だったので、火が燃え移り等はしなかったが、それでも予想外の出来事に和人は驚きを隠せなかった。
「ちょっ! デルタ!? 一体何が!?」
「おいおい、少しは落ち着けよ和人」
先程まで左腕の方から聞こえていたデルタの声が突然和人の頭の中に響く。
それによって和人は更にパニックになる。
「おい! だから落ち着けって……はあ、ほんとに大丈夫かよ」
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暫くして落ち着きを取り戻した和人。
デルタが空き地近くの川へ行くように言う。
言われがまま和人は川へ行き、覗き込む。
「うおおおお!」
先程とはまた違った驚き、歓喜の声を上げる和人。
水面に映っていた自分はいつもの自分では無く、頭からは太いツノが左右に生えており、全身が黒くなり、肘や膝からは鋭い牙のような物が生えており、利き腕である右腕は左腕に比べ、ふた周りほど大きくなっている。
側から見ればまるで『悪魔』の様だ。
「すげえええ!」
「だろぉ? これが俺様の能力だ。今和人は炎の魔人となったって訳さ」
デルタが和人の左腕から離れると、自然と能力も解除され和人も元の姿に戻る。
未だに興奮冷めやまぬ和人に対してデルタも得意げだった。