第三話「デルタ」
「最後の最後ぐらい笑顔で撮りましょう!」
吉澤の提案でクラスの集合写真を撮る事になり、現像は後に写真データだけは全員のスマホに入れた事を確認した後、最後の別れの言葉を言ってから卒業式は終了となった。
その帰り道、家が同じ方向の直斗と話しながら帰宅する和人は直斗に問いかける。
「なあ、直斗」
「うん?」
「オルギアってどんな力があるんだろうな」
「さあ? 開けてみないとわからないって奴だな」
ひとえにオルギアと言っても能力は様々で、実際にどんな能力なのかはオルギア次第になる。
和人や直斗も内心かなりドキドキしながらもオルギアについて話し合う。
「俺が聞いた所の話だと、1のメリットを得る場合1のデメリットも付いて来るって話だ」
「等価交換って奴か……」
直斗の話に合点がいく和人。
「んじゃ、俺はこっちだから!」
「ん? ああ、じゃあな!」
気づけば直斗との別れ道迄来ていた。
走り去る直斗の後ろ姿を眺めながら、和人もまた家に向かって走り出す。
---
帰宅後、着替えもせずに真っ先にオルギアが入った箱を開ける和人。
中には手のひら大の大きさのゴツゴツとした機械が一つ。
「これが……オルギア?」
和人の言葉に反応したのか、オルギアの目が光り突然中に浮く。
「んあああああ、よく寝たぜえええ!」
浮くだけでは無く、あろう事か独りでに喋り始める。
その様子をポカンと見ていた和人にオルギアが聞く。
「よう! あんたが俺の相棒か?」
それが和人と、ハイテンションなオルギア『デルタ』との出会いだった。
---
「いや、本当なんだって! 俺のオルギアが喋ったんだって!」
未だ興奮冷めやまぬ和人は翌日に直斗に電話していた。
「いや、ねえだろそんなこと!」
しかし、直斗は信じようとはしない。
「だったら、明日にでも見に来いよ!」
「あー、ちょっと無理かもしんねえ……」
和人の提案に直斗は歯切れ悪く拒否する。
「なんかあんのか?」
「いや、なんかあるっつうか、決まったんだわ……配属先」
「はあ!? もう!?」
東京都立戦術学校は他の学校とは違い、卒業後皆ネビュラと戦う為に戦地に向かう。
だか、何処に向かうかはこの国の対ネビュラの最高組織である『メディア』という組織が決めている。
学校を運営しているのも、生徒達に合ったオルギアを配っているのもこのメディアである。
しかし、卒業から一日しか経っていないのに、もう配属先が決まった事に驚きを隠せない和人。
「卒業した翌日だぞ……」
「うん、なんか元から決まってたみたいなんだ」
直斗も驚いているのか、何時もの陽気さは電話越しには感じられない。
「話しに聞くと、永原とか舞園とかも配属先が決まったみたいだ」
「マジかよ」
直斗との電話が終わった後自室のベッドに雪崩れ込む。
「そんなに先を越されたのが悔しいか?」
オルギアのデルタが言う。
「そう言う訳じゃ無いけど……」
モヤモヤが晴れない和人。
父親の秀明にデルタを見せた時にも、
「よりによって和人が何故ネイティブギアを……」
そう言って秀明は和人の言葉など無視して何処かへ向かったきり連絡も無く、帰ってこない。
恐らくメディアに向かったのだろうが……。
「ああ、もう!」
頭を掻き毟る。
どうにもスッキリしない。
「まあ考えたって必ず答えが出る訳じゃ無いさ、気楽に行こうぜ!」
和人を励ますデルタ。
「そう言うお前も悩みの種の一つなんだよ!」
デルタを掴み、壁目掛け放り投げる。
が、デルタは壁にぶつかる事なく、浮遊したまま和人の元へ戻って来る。
「ピリピリしてんなぁ、更年期か?」
自分で言った事にゲラゲラと笑うデルタ。
和人は自分でも調べたが、浮いたりましてや喋ったりするオルギアなど調べても出て来ず、直斗や父親にも連絡がつかない。
結局打つ手が無くなった和人はメディアから配属先の連絡が来るのを待つしかなかった。
---
あれから一週間は立った。
相変わらずメディアからの連絡は無く、父親が帰ってくる気配も無い。
しかし、和人にとって秀明が一週間帰らない事など良くある事なので、全く気にもとめていなかった。
「そういえば、あの時親父なんか言ってたんだよなあ」
自室のパソコンの前で腕を組む。
「悩み事か?」
いつもの調子で話しかけてくるデルタを見て思い出す。
「ネイティブ!」
「はぁ?」
「ネイティブだよデルタ!」
「何が?」というデルタの問いは和人には聞こえていない。
一心不乱にパソコンの画面に齧り付く。
しかし、出てくるのはオルギアでは無く、ネイティブネビュラというネビュラの最上位の個体についてばかりだった。
「ネビュラの方は散々授業で習ったよ」
ため息交じりに悪態を吐く。
「不発か?」
「まあな……」
道が見えたかと思ったが、結局行き止まりだった事に気を落とす和人。
デルタはそんな和人を気にもとめず、部屋中をうろついていた。