第二十五話「新たなる戦場へ」
やってしまった。
ばれていないだろうか?怪しまれていないだろうか?
そんな考えが心の中を渦巻く。
「隊長」
不安げに中島が声を掛けてくる。
「大丈夫だ」
大丈夫では無い――。
心とは裏腹に真逆の言葉が口から出てくる。
中島の後ろに控える他の面々も同じく不安そうに自分を見つめる。
やめてくれ!そう叫びそうになる。
「あの、言わなくていいんですか?」
新入隊員の秋月美希が言う。
「何をだ?」
多分酷い顔をしているのだろう。
問いただし返した秋月の顔を一瞬怯える。
「あの人に、神崎さんに一年以上眠っていたことをです」
やっぱり――。
そうだよなと心の中で頷く。
頭が痛い、嫌な記憶だけが蘇る。
「前にもこんなんあったなあ」
窓の外を見て呟く。
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-9月17日 14:00-
「お疲れ様っス!」
最後のリハビリ後、少し遅い昼休憩を満喫している所に比嘉浩二が缶コーヒを片手にやって来る。
「お、ありがとう浩二」
受け取った缶コーヒーを飲みながら思いにふける。
始めはチャラい奴と感じた見た目も、話す内に打ち解け気前よくノリの良いとっつき易い奴と言う印象に変わっていた。
「明日で退院ですね」
最後のリハビリの翌日と言う急な日程ではあったが和人にとっては都合が良かった。
歯車から聞いた話では今デルタは別の人間の手に一時的に渡っているという。
その人物の居る場所は岐阜。丁度日本を東と西で分断している場所だ。
元々決まっていたことでもあるが、部隊全員で話し合った結果退院と同時に岐阜を目指す事になっている。
「そのデルタを持っている人って知り合いですか?」
「いや? そっちこそ何か知らないのか?」
「こっちもさっぱりですよ」
肩をすくめて比嘉が言う。
結局二人目のデルタの所有者について二人が知る情報は無い。
歯車に聞こうとしても、現在歯車は病室には居ない。
「明日まで待つか……」
何もできずただただ時間だけが過ぎていく――。
-9月18日 10:00-
「よし、準備完了っと!」
窓の外を眺める。
高層ビルが複数立ち並び、近くにマンションや公園、コンビニとスーパーなども立っている。
初めてじっくりと見てみた景色に如何にも都会という街並みだと感じる。
「ここ、かなり住みやすそうだな」
「今更ですか? この地域は便利で有名なんですよ」
ふと呟いた言葉に返事が返ってくる。
振り返ると秋月を先頭に部隊の面々が病室にいた。
「久々だね、和人」
「猫又さん!」
目覚めてから初めて会う猫又に喜びを感じる。
わかってはいたが、ちゃんと無事だった事が嬉しかった。
「準備は出来ましたか?」
「あ、はい!」
担当医に促され病室を後にする。
ようやく戦場に戻れる。
ようやく戦える。
ようやく皆を助ける事が出来る。
期待に胸を膨らませ、和人は岐阜県へと足を運び始めた。




