第二十二話「正面突破」
-5月23日 16:00-
「あかん、何で気づかへんかったんや!」
「あの男の子の事? それとも二人の事?」
「両方!」
年齢16~18歳程の容姿をしている少女は走っている。
森林を抜け、開けた道に出る。
息を切らし、膝に手を付きながら目の前の建物を眺める。
「舞子もう無理よ」
「五月蝿いわイータ!」
「違うわ、アプローチを変えなさいと言ってるの!」
「え? ……成る程なあ」
舞子は息を整え、先ほどとは違い落ち着いた様子で歩き出す。
もう騒動が起きているのだろう。
メディア東京本部でありながら、正門には一人の見張りもいない。
といっても正門には監視カメラが設置されている、いくら見張りがいないからと堂々と正門を通るわけにはいかない。
だが舞子は堂々と正門を通った。
内部で慌ただしく戦闘が繰り広げられているが、監視カメラに映る新たな侵入者に数名が反応する。
武装した状態の兵士達は舞子めがけてやってくるが、丁度舞子を視界に入れた瞬間様子が変わる。
「おい! 今確かに女が一人いたよな!?」
「ああ、間違いねえ、居たはずだ!」
舞子を目の前にして突然見失った兵士達が慌てふためいている。
その横を何食わぬ顔で素通りする舞子。
「おい! あそこだ!」
一人の兵士が再び舞子を発見する。
「は!? 何処だよ!」
「いや……今確かに……」
兵士達は舞子を見つけては見失いを繰り返す。
「ごめんなあ、ちょっと眠っといてな」
「あひっ」
ゆっくり背後から近づき、持っていたスタンガンで首筋を一撃。
短い悲鳴を上げ倒れこむ。
「なっなんだ!?」
「おい! 大丈夫か!?」
確認の為近づいてきた一人に再び一撃。
犠牲者が二人になった事でより警戒心が強くなる。
「ど、何処なんだ!?」
「なんなんだよ畜生!」
「落ち着けよ! 姿が見えない以上下手にうごっ!」
喋っている兵士の脇腹にスタンガンをお見舞いする。
「これで残り二人やね」
「何処だ!?」
「何処にもいねえあああああっ」
「おいっ! 大丈夫か!?」
一人になった兵士の顔は青白く、全身に冷や汗をかいている。
「大丈夫、死んでへんよ」
「ああっ!」
その声は明らかに自分の前から聞こえてくる。
だがしかし、目の前には誰もいない。
いないはずだ……?。
おかしい、何故何もない場所から声が……。
「ただ、威力は相当やし、後遺症は残るかもなあ……堪忍な」
兵士の心とは裏腹に軽く発せられる言葉。
威力?後遺症?いや、そもそもお前は何者——―。
そこで兵士の意識は途絶えた。
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「あそこ! めっちゃ光ってる!」
「竜司ね!」
舞子は煙が舞い上がっているメディア本部へと進んでいたが、そこから少しずれた場所から光があふれ出ているのを見て急遽そちらへと進路を変える。
「うっわめっちゃおる……」
たどり着いた先は、恐らくメディアの隊長格の者と竜司が睨み合っている状況だった。
その周りには大量の兵士達このままのこのこ出ていくわけにはいかない。
「あかんなあ」
「舞子の能力でも難しいわね」
そんな会話をしている内に今度は建物の上から誰かが落ちてくる。
「リーノ!?」
言葉と同時に舞子は動き出す。
「間にあわへん!」
舞子の足では落下する前にリーノを受け止める事は出来ない。
というより無数の兵士達の間を進むのは無理だ。
だが、驚くことに全力で走る舞子が至近距離にまで迫っていても兵士達の目線は竜司とその相手をしている二人にのみ向いている。
建物近くにいた数人が上から落ちてくるリーノに気づいた様だが、リーノ自身も少し体制を立て直した様だ。
無防備に地面にぶつからない様にしている。
「イプシロンね! ナイスだわ!」
しかし再び体制を崩した。
勢いが少し落ちただけで結局地面にぶつかってしまう。
だが、すぐに立ち上がり今度は暴風を巻き起こす。
「ちょっ! 近づけへんねんけど!」
「だいぶ無茶してるわね」
少し離れた位置にいる舞子でさえかなりの風を受け、立っているのがやっとの状態だ。
さらに近くにいる兵士がまともに立っていられるはずはなく、吹き飛ばされている。
「今や!」
風により手薄になった所を駆け抜ける。
しかし丁寧に誰にもぶつからない様に急いで移動する。
そのまま混乱の中リーノの身体を抱き上げ戦火の中から抜け出す。
「変身が解けかかってる! 早よしな!」
竜司の方を向く。
先程迄とはまるっきり戦い方が違う。
「ベータ……」
舞子は意を決してリーノを抱えたまま竜司の方へ走り出す。
「ははは! 貴様のその腕! そうか! お前もか!」
「は? お前も?」
「ああ、こんな貧弱な肉体でなければ貴様なんぞ——」
二人のボルテージは最高潮に達していた。
「あのアホ! 余計な事言おうとしてる!」
「急いで舞子!」
急かされながらも男の横を通り抜け、とうとう竜司の元へとたどり着いた。
「残念だが、この肉体の限界が来たようでな。それに迎えが来たようだ」
「アホかお前! 何のんきな事言ってんねん! むちゃくちゃして!」
「は? どこから出てきた!?」
なんとか間に合った。
ひとまず安心する舞子。
「待て!」
「待つかあほ!」
余裕が出てきたのか皮肉を返す。
「このまま突っ走んで!」
「任せなさい!」
舞子は男とは真逆に走り出す。
「ライズ・アップ!」
イータがそう叫んだ途端、舞子の身体は青い機械的なボディスーツを身に纏う。
舞子のスレンダーな身体にぴっちりと張り付いた伸縮性のある下地を覆う様に鉄のパーツが身体中の関節部に装着される。
側から見れば中身が女の子だとは思はない程見た目が変化していた。
これが舞子とイータの変身『ライズ・アップ』である。
「行くでえ!」
変身後の舞子はリーノと竜司の二人を抱えながら優に5メートルは飛んだ。
その勢いのまま今度は地面に着地する。
相当な衝撃が舞子を襲うが、舞子自身は意に介さず進むどころかスピードを上げ、今度は十メートル以上飛んだ。
ひとしきり移動した後、舞子は自分が来た方向に戻ってきていた。
理由は単純で、自分が来た方向には敵はいなかったからだ。
「助かったぞ」
偉そうに白い騎士が言う。
「やかましいわ! お前ベータやろ? 間際らしいから変身解けや」
舞子に促されるまま白い騎士は竜司とベータの二人になる。
「いや〜俺も限界!」
二人に続いて黄色い鳥もイプシロンとリーノになる。
「あんたら無茶しすぎやで!」
「いや、俺は止めたんだぜ!?」
必死に弁明するイプシロンも舞子に睨みつけられ縮こまる。
舞子の目線はリーノと竜司に向いていた。
「ダメだな、二人とも気絶している」
冷静に告げるベータにため息を吐く舞子。
「で? 収穫は?」
「あったぜえ! とびっきりのがな!」
「なんやねん……勿体ぶんなや」
いい加減にしろとイラつきを露わにし始めた舞子を前に、それでも調子を変えないイプシロンはこう告げた。
「一人トゥルーパーがいた」
「なっ!?」
「なんやて!?」
驚く舞子とイータ。
「私も面白いのが一人いたぞ、失敗作だ」
ベータからの報告にも舞子とイータ、更にはイプシロンまでも驚く。
「おいおい、日本有数の国家組織がどうなっとんねん……」
肩を落とす舞子を尻目にリーノとイプシロンが起こした爆発を超える規模の爆発が本部の方から巻き起こった。
唖然とする一同。
「ああ、成る程な。一番やばいのは向こう側におったんか……」
沈黙を破った舞子がそう呟いた。




