第十九話「敗北者は」
-5月23日 14:50-
現在歯車たちは滋賀支部壊滅の重要参考人として東京本部に呼び戻されている。
勿論滋賀にすら辿り着けていない歯車たちが説明できることは無いと報告したが、上層部は聞く耳を持たず「兎に角一度こちらに来るように」とだけ言い残し電話を切った。
「何か事情があるのかもしれない」
という中島の言葉で渋々その足を東京本部へと向けていた。
「あれは一体何なんだ! 説明してくれ!」
一行が東京本部に着くと同時に聞こえてくる大声。
どうやら出入口で騒いでいる男が一人、警備員らしき人物と揉めている。
「俺は滋賀支部の隊長だぞ! 本部に入る権限はある筈だ!」
「そう言われましても規則ですので」
無表情に答える警備員に増々ヒートアップする男。
「規則だと!? 支部が崩壊したらもう一般人か! ふざけるな!」
滋賀支部、崩壊、それらのワードで騒いでいる男が誰かが想像できる。
「猪川……」
歯車が黙って猪川の元へ向かう。
他の者も黙って見つめている。
猪川の方も近づいてくる人影に気づいた様で歯車の顔を見た瞬間、すがりつく様に悲願する。
「歯車! お前からも頼むっ! 総局長と少し話をしたいだけなんだ! あいつは……あいつだけは許せねえ……」
最早久しぶり等と言う余裕すら無く、必死に歯車にしがみつく。
やがて力なくその場に泣き崩れる。
「猪川、滋賀支部を襲った奴はどんな奴だ?」
「新庄直人だ、戦術学校出身って言ってた」
「戦術学校……?」
「和人と同じですね」
中島の言った言葉に猪川が反応する。
「お、おい! あんた奴を知っているのか!? 頼むっ奴を!」
「ちょっ! 落ち着いて下さい!」
やがて騒ぎを聞きつけたのか、本部の中から数人歯車たちの集団に向けて迷いなくやってくる。
「彼を」
歯車の元までやってきた数人の中の唯一の女性が短く言う。
あの数人の中で彼女が上官なのだろう。
彼女の指示でへたり込んだままの猪川が本部の中に連れて行かれる。
「中澤秘書官! お疲れ様です!」
歯車が敬礼のポーズを取る。
中島、三鶴城、猫又も同じく敬礼する。
「お久しぶりです。アサルト第23部隊の皆さん」
中澤と呼ばれた女も笑顔で答える。
中澤は歯車たちを迎えると同時に少し周りの様子を伺っている。
「……もう一人は? 今年の新人が一人入隊した筈ですが」
「神崎和人の事でしょうか、彼は現在重傷で入院していますが……連絡が届いていないのでしょうか?」
「はい、その様な連絡は聞いていません。妙ですね」
不自然さを感じ、顎に手を当て少し考えてやめる。
「兎に角中にどうぞ」
中澤は歯車たちを本部の中へと手で誘導する。
「あの、猪川さんは」
猫又が猪川の様子を心配して、何処に連れて行かれたのかを問いただす。
「ご心配なく、彼は会議室の一室に連れて行っただけです」
一度冷静になってもらう為にと付け加える。
少し安心した猫又は中澤に礼を言う。
一連の流れを不思議そうに眺める三鶴城。
「知らなかったか?」
その横の中島がこちらも意外そうに問う。
「何が?」
「いや、猫又の事。ここに合流する前は滋賀の猪川さんの部隊に居たって話だったじゃないか」
「そう、だったかしら」
すっかり忘れていたという風に振舞う三鶴城は中島を置いて先に進む。
中島も首をかしげながらも仲間達を追う。
後に中島は思う。この『違和感』に対してもっとまじめに考えるべきだったと。
だが、その余りにも小さすぎるものは中島の意識外から引き返せない部分にまで深く入り込んでいた。




