第十八話「秘密の会合」
-4月28日 00:00-
直人が三重支部の者達に追われている頃歯車率いる、アサルト第23部隊の者達は焦っていた。
それに気づかなかったのは地下通路爆発から病院でのドタバタで忙しなく動いていたから。
そんな事を考える余裕は無く、居るのが当たり前だと思っていたから。
必死に言い訳をしていても解決しない。
簡潔に一言で言うなら。
――デルタが居なくなっていた。
---
都内の某所、あるいはこの次元とは違い場所。
いや、実際には会っているのかもわからない。
人間には認識できない次元での会話。
喋るオルギア。つまりネイティブギアの面々がもう何度目かにもなる会議と称して集結していた。
その中にはデルタも居る。
和人を襲った男の傍にいた白いネイティブギアでベータと男に呼ばれた者も居る。
総数は全部で6。様々な形をいているが、基本的にデルタやベータと大きな違いは無くデルタなら黒、ベータなら白と色がそれぞれ違う。
「ねえ、結局今回の会議は何? デルタのパートナーが見つかりましたって話?」
6つの中の一つ、青いオルギアが発言する。
「イータ……それ関連ではあるのだがな、正しくそれ関連で違反者が出たんでな」
黄色いオルギアが青いオルギアを『イータ』と呼びつつベータの方も見る。
「デルタ、あれは我々の作戦には相応しくない」
睨みつけられた方は全く動じず答える。
ベータの言葉に「どういう事か」「話が違う」等と場が少しざわつく。
「おいお前、順番的に自分が実質的にリーダーだとでも思ってんのか?」
偉そうに言うベータにイラつきを覚えながら黄色いオルギアが口を挟む。
「当たり前だろう? まさかその程度もわからないのかガンマ? そんな事で3番が務まるのか?」
「てめえ!」
『ガンマ』と呼ばれた黄色いオルギアが声を荒げる。
「はいはい! ストップだお二人さん!」
今度はその動きを見た緑色のオルギアが、今にも殴り掛ろうとせんばかりのガンマを宥める様な動きをしながら二人の間に割って入る。
「ガンマ、ベータが言う事もわかる、だからここでは抑えろ。んでベータ! お前は考えが真っ直ぐ過ぎて柔軟性が無さすぎ! デルタの相棒がどんな奴であれ相応しいから選ばれたんだ。実際に変身出来たんだろ? んじゃあ後は実戦経験だけだ、少し時間は掛かるかも知れないけど先行投資するには十分じゃ無いか?」
「チッ!」
「ふん……」
なんとか宥める事に成功した緑色のオルギアはため息を付く。
「ま、なんでもいいんだけど、結局ボスを目覚めさせないといけない訳でしょ? でもベータとガンマがこの調子じゃ何時までたってもあの人を蘇らせるなんて無理よね? イプシロンもそれは分かってるんじゃない?」
イータの問いに『イプシロン』と呼ばれた緑色のオルギアどころかその場の全員が押し黙る。
仲違いし、口論になっていて、とても仲良くは見えない光景だが、彼らは一つの目的の為に動いていた。
リーダーやボスと呼ばれる存在。
『アルファ』を蘇らせるという目的が。
「わかった。では私は勝手にやらせてもらう」
「おいおいおい! 待っててゼータ! そんな話じゃ無かっただろう!?」
「知らんな、元より私はお前達の目的とやらに興味は無い」
「待てって! ――行っちまった……」
先程まで無言だった紫色のオルギア『ゼータ』が遂に口を開いたかと思えば、悪態をつきながら消えた。
この場にいる者の人数が一人減る。
「あら、じゃあ私も好きにやらせて貰おうかしら。何時まで経っても進展しないのも退屈だし」
「イータ!」
ゼータに便乗してイータもまた姿を消す。
6人が5人に、5人が4人になり、「無意味だな」というベータの言葉と共にベータも消える。
「ハっ! だるい部分で意見が合いやがる……お前らも素直なベータの操り人形のままじゃカス同然だぜ?」
意味深な忠告を残し、ガンマもまた消える。
この場にはデルタとイプシロンの二人だけになる。
「デルタ、お前はどう思う?」
「というのは?」
「惚けるなよ、人間だった時の記憶……あるんだろ?」
「その質問が出てくるという事は、お前も?」
「まあな」
「名前は?」
デルタがイプシロンした質問は自分自身に対してもだった。
「覚えていない」
そう、質問をされた側もした側も過去に自分が人間だったという記憶のみ覚えているというだけだった。
そしてもう一つ。強烈に頭の中で渦巻く感情はアルファを蘇らせ無ければならないと言う感情だった。
そもそも何故アルファを蘇らせなければならないのか?
アルファを蘇らせるには如何するのか?
復活したらどうなるのか?
いくら思い出そうといても思い出せない。肝心な部分がぽっかりと空いている感覚に陥る。
口には出さないが他の者達も自分が人間だったと言う記憶はあるのだろう。
ベータは感情に忠実にアルファを蘇らそうとしている。それが和人を襲った理由になるのかと言えば、デルタに納得はできないのも事実だ。
そしてイプシロンの考えは比較的にデルタと似ている。というよりこの現状に隠しきれない不可解さが多過ぎる。
アルファの復活に関しても理由無く行動を起こしたくはない。
「まずはしっかりと話し合ってから」という言葉は彼の会議での決まり文句となっていた。
そのおかげで今回とうとう元から余り団結力の無かった面々が完全に分裂した。
「お前のせいじゃない、遅かれ早かれこうなっていた」
イプシロンの気持ちを汲んでかデルタが励ます。
「それに今考えるべきはイータの事だ」
「イータ?」
「ああ、あいつは俺たち以上に記憶を持っている……と思う」
「なんだよそれ」
「あくまで俺の考えなんだがな、イータは明らかにアルファ関連以外で動いている気がする」
珍しく自信なく歯切れの悪いデルタを心配そうに見つめる。
デルタの様子が増々現実味を感じさせる。
もしかしたら自分達の知らないところで――いや、忘れてしまった部分でとても大事な何かがあったのかもしれない。忘れてはいけない何かが。
「杞憂だったらいいんだが――」
だがしかし、5月14日、デルタの考えは杞憂では無く実現する。
三重支部に一人の少女と共に現れたイータの手によって。




