第十三話「順調とは言えず……」
-4月25日 23:00-
和人らは未だに地下通路を進んでいた。
変わり映えしない景色に、時間の感覚を失いそうになる度にスマートフォンで時間を確認する。
スマートフォンの画面は地下通路からすれば眩しく、他の者の視線が自然と和人の方へ向く。
その視線に気づかないまま、「23時か……」と声に出す。
「もうそんな時間か」
「結構経つわね……」
「隊長、そろそろ休みましょう。どっちみち一日で到着する距離じゃないですしね」
「まあ、そうだな……よし、ライトを付けてくれ寝袋で今日は休もう」
自分の心の声が口に出ていた事に気づき、慌てて謝る和人。
「ん? 何も謝る事はねえよ、それよりお前も寝とけ、到着してから直ぐに戦闘なんてことになるかもしれねえからな」
「はい」
和人が時間を口に出したこともあり、今日は休むことになった。
そのまま寝袋に入る歯車、和人も同じく寝袋に入り寝ようとする。
寝ようとしてはいても、すんなり寝付く事はできず、特に代わり映えしない薄暗い天井を無心で眺めていた。
寝よう、寝ようとすればする程寝付けないものである。
今日一日で自分はどれ程役に立てたのか?それどころか足を引っ張ってしまっているのではないだろうか?
今日の戦闘内容が脳裏をよぎる。
(役に立てて無かったよなあ……)
声には出さなかったが、自分の不甲斐無さを悔やむ。
元々自身など無かったが、和人の初陣は、これから先この部隊でやっていく自信をさらに無くす結果となった。
負の感情が渦巻く中、和人はいつの間にか眠りについていた。
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-4月26日 4:00-
十分休んだとは言えない時間ではあったが、和人は物音で目を覚ます。
他の仲間達が物音を立てているのだろうか、ゆっくり起き上がり、辺りを見回す。
てっきり仲間の誰かが和人と同じように余り寝付けずに起きているのだと思ったが、和人以外の全員が起きていた。
何かあったのかと声を掛けようとしたが、三鶴城に手で制される。
気づけば仲間達は臨戦態勢を整えており、和人が目を覚ました音が『人間の出したものじゃない』と察する。
しかし、この場所は軍専用の地下通路。
こんな場所にまでネビュラがやってくるという事がどういう事を意味しているかは和人にもわかった。
前方から聞こえてくる音は何体かの集団だろうか、カサカサという音が複数聞こえる。
その音の主がネビュラでは無く、ただの虫か何かであるのを願いながら暗闇の前方から訪問者を待ち受ける。
「何だあれは……」
姿が露わになった者を中島が思わず口に出す。
虫……の形状をしてはいるが、明らかに大きい。
全長1m程はあろう生き物の背後にはそれと同じ大きさの生き物達が無数に蠢いている。
「まさか新種!?」
猫又は一つの可能性として発言する。
その意見に反論する者は誰もいない、名付けるのなら『昆虫型ネビュラ』とでも言うべきだろうか、その新種達が今和人達の目の前にその姿を露わにした。
「だめだ、滋賀の連中と連絡が付かない」
メディアの最新の技術により、地下にいても長距離の会話ができる特注の無線機を耳に当てながら歯車が呟く。
和人の淡い期待を打ち破り、更には滋賀支部の状況も絶望的なのだと悟る。
「恐らくこの新種の対応を間違ったんでしょうね……」
「こんなネビュラ見た事も聞いたことも無いわ、仕方ないで済ませられないけどね」
中島と三鶴城はオルギアを構える。
最早意味をなさなくなった無線機を投げ捨てた歯車は号令をかける。
「総員戦闘準備! 後ろには下れない、前方を強行突破するしかねえ……いくぞお前らァ!」
歯車の合図で一斉にネビュラへと突撃する和人達。
歯車の大声に呼応するように虫型ネビュラも一斉に和人らに襲い掛かってくる。
「突っ切れええええ!」
足を止める事なくネビュラの群れへと向かう。
「バースト・オン」
歯車の怒号を受けながら、真っ先に和人が先頭に出る。
そのままネビュラの一体を掴み投げ飛ばす。
ピギィと小さな悲鳴を上げ動かなくなったネビュラを見て他のネビュラ達は怒ったのか、標的が全て和人の方を向く。
「馬鹿野郎! 得体の知れない相手に素手で挑むな!」
思わぬ理由で中島に怒鳴られた和人はネビュラでは無く、中島にひるむ事になる。
しかし和人は武器を持っておらず、素手で戦うしか手段は無い。
中島の言っていることが正しいと理解は出来るが、ここでもまた苦虫を潰す思いになる。
「皆下がって!」
そんな和人の想いなど知らず、三鶴城が背後から駆け出し、剣のオルギアでネビュラを一体、二体と斬りふせる。
すると斬られたネビュラから青い炎が燃え上がる。
その炎はネビュラからネビュラへと燃え移り、やがて辺り一面を焼け野原にせんとする勢いで燃え広がる。
だがここは地下通路。
火の手はネビュラ以上のものには燃え広がりはしないが、しだいに酸素が薄くなる。
和人達は戦闘の真っ最中であり、息も絶え絶えの状態だ、薄くなる酸素につれて動きも悪くなる。
猫又は自身のオルギアを使おうとするも、かなりの集中力が必要なタイプの為上手く扱う事が出来ないだろうと予測する。
最悪の場合仲間に当たってしまう。
猫又はオルギアを使うのを諦め、出来るだけ酸素を使わない様にゆっくりと、それでいて小さく呼吸を繰り返す。
中島や歯車も猫又と同様に同じ呼吸法を使う。それは今までの戦闘経験からの咄嗟の判断だった。
しかし、和人はそうはいかなかった。
戦闘経験も皆無と言っていいほどしか無く、更には非常時でまともな判断が出来なくなる。
和人は自分の盾としての役割に拘っているのか、先行する三鶴城を追いかける形で全力疾走する。
次第に酸素が薄くなる中、今の状況がどういうものなのかも考えずに走る。
猫又や中島がそれに気づいた頃には既に遅かったが、結果的にそれが好機に発展する。
後方から大きな音がした時には遅かった。
地下通路と言えどもメディアがしっかり配線し整備していた明かりなどが爆発したのである。入る時に雑に閉じたのもあり、和人達が入ってきた通路から順に爆発していき、やがて和人達を巻き込んでネビュラごと地下通路を爆破していった。
和人は後ろの爆発に気づくことなく、衝撃で気を失った。




