1 異世界転移しました
本日2話目。
この辺は飛ばして読んでも問題ないです。
溺愛は次あたりからの予定です(^_^;)
光が止むと同時に俺は眩しさから瞑ってい目をゆっくりとあけて・・・唖然とした。
そこは先ほどの騒がしい教室とは180度真逆の静寂に満ちた空間。
真っ暗でよくは見えないが、かなり広いけど・・・どこか不気味な雰囲気が漂う場所。
「ここは・・・」
目がなれてくるに連れて思考も徐々に回復してくる。
混乱する頭を一度叩いて状況の整理をする。
まず、先ほどまでは俺は学校の教室にいたはずだ。
なのに、今俺がいるのはその教室とはまったく異なる未知なる場所。
天然の洞窟というのを一度見たことがあるが、それに似ているようでどこか空気の重い場所に思えた。
「さっきの光に、いきなり変な場所に飛ばされる現象・・・リアルがバグったとかで説明するには少し厳しいけど・・・」
信じられない気持ち9割と、少しの期待を込めて現状を把握する。
「異世界転移・・・」
思い当たる単語はまさにそれ。
とはいえ、異世界転移にしては何故こんな場所に飛ばされたのか疑問があった。
普通、この手の現象が起これば転移した先に召喚主となる人物がいたりして、状況を説明してくれるものだと思うが・・・今のところ人の気配どころか付近に生き物の気配すらもない。
「うーん・・・クラスメイトの誰かが勇者召喚されて、巻き込まれた俺は変な場所に飛ばされたとか?無理があるかそれは・・・まあ、でもどうしよう・・・」
辺りを見渡しても特に目新しいものはない。
仕方なしにゆっくりと前方に歩き始めるが、視界いっぱいの暗闇と俺のゆったりとした足音が響いてかなり不気味な雰囲気だ。
しばらく歩くと目の前に壁のようなものが現れた。
「扉は・・・ないか。そうだスマホ」
目の前の壁を少し調べてからポケットにしまってあるスマホの存在を思い出して取り出した。
幸いなことに充電はフルになっていたが、当然のように電波は立っていなかった。
まあ、それじたいは予想通りだったから特に落胆もなく俺はスマホのライト機能を使って辺りを照らしてみた。
「さてと・・・」
ライトの光を辿りに壁伝いに調べていくと、やがて少し大きめの扉らしきものをみつけて、俺はその扉をそっと押してみた。
キィ!という寂れたような音を立てて扉は簡単に空いたが・・・そこからさらに通路が横に広がっていた。
「行くしかないか・・・」
さっきの場所より幾分見やすい通路なので俺は一応スマホな明かりを消して慎重に進むことにする。
コツ、コツ、と上履きの音が響く。
そうして、しばらく歩くとようやく出口らしき扉を見つけて俺はその扉を慎重に開けて・・・唖然とした。
その扉を開けると、そこは遺跡のようなどこか古めかしい石造りの場所が広がっており、ステンドグラスのようなものから光が反射し辺りを程よく照らしていたから・・・ではなく、そこにいた人に俺は見惚れてしまっていた。
長い銀髪に真っ白な肌。黒いドレスがどこか中世の貴族のようなたたずまいをしており、まるで二次元から飛び出したような美しさの女性。
圧倒されていた。その圧倒的な美しさ、に暴力的な美しさに、人間離れした美しさに、そして・・・どこか儚げなその姿に。
その女性はゆっくりと瞑っていた目を開けて紅色の瞳でこちらの姿を捉えるとゆっくりと言葉を発した。
「・・・人間?」
美しい声だった。その紅色の瞳とその声にさらに俺は圧倒されていたが・・・女性は俺のその唖然とした様子を見て悲しげに目をふせて言った。
「私を殺しにきたんでしょ?いいわ相手をしてあげる」
「・・・殺す?」
突然出てきた物騒な言葉に俺は疑問で返してしまった。
「違うの?あなたは私を・・・魔王を殺しにきたんでしょ?」
魔王。その言葉に俺は少し驚いてしまった。
「魔王様・・・なんですか?」
「あなた達、人間からしたらそう呼ばれてるんでしょ?違うの?」
・・・どうやら異世界転移という推測は間違いではなさそうだった。目の前の彼女が魔王様ということは、勇者召喚とかで呼ばれた可能性は高いが・・・目の前の彼女が召喚主とは思えなかった。
「あの・・・ここはどこなんですか?」
「・・・本気で聞いてるの?」
俺の言葉に目を細めてそう聞いてくる彼女に、俺は静かに頷いて答えた。
「気がついたら暗い場所にいて・・・歩いて進んできたらここに着きました」
「そう・・・ならさっさと消えなさい。私の側にいれば普通の人間なら死んでしまうから」
「死ぬ・・・」
「私の『死の魔力』は側にいるだけで生き物が死に絶えるもの。だからあなた達人間は私を殺したいんでしょ?」
魔力・・・ますます異世界じみてきた。
首をかしげる俺に彼女は少し訝しげな表情を浮かべて聞いてきた。
「あなた・・・本当にわからずにここに来たの?」
「えっと・・・すみません。魔力ってなんですか?」
その返事に彼女は驚いた表情を浮かべてから・・・しばらく黙ってなにかを探るようにこちらを見つめてから呟いた。
「嘘・・・魔力がまるでない。あなた本当に人間なの?」
「人間ですけど・・・この世界の人間ではないかもしれません」
「どういうこと?」
俺はそこでこれまでのこと・・・というか、学校が終わってから帰ろうとしたら魔方陣のようなものと謎の光に飲み込まれて気がついたらここにいたことを説明した。
すると彼女はしばらく何かを考えてから言葉を発した。
「魔方陣・・・おそらく召喚魔法の一種でしょうね。それにあなたの話・・・私の世界の人間の話とあまりにもかけ離れてる。異世界という推理は多分正解ね。それにあなたから魔力を感じないのも異世界人なら当然なのかもしれないわね」
「というと?」
「この世界の生き物は全て、例外なく魔力と呼ばれる力を持つものなの。生命力=魔力と言ってもいいほどにね。魔力をまったく感じないというのはこの世界においては生き物には定義されない。つまりあなたはこの世界においては生き物には定義されないの」
「それって、この世界だとどうなんですか?」
「完全なるイレギュラー・・・未知の生物にカテゴライズされると思うわ」
未知生物・・・まさか自分がUMA扱いされる日がくるとは思わなかったが、そうすると・・・
「あの・・・さっき言ってた『死の魔力』って・・・」
俺のその質問に彼女は少し悲しげに目を細めてから言った。
「私の周囲にいるものは無差別で死に絶えるという力・・・私にはコントロール出来ないからこうして誰もいない地下に潜ってひっそりと暮らしてるのよ」
「それって・・・魔力がない俺にはどう作用するんですか?」
「さぁ・・・本来なら私とこんな風に会話をしているだけでもう5回は死んでるはずだけど、魔力がなくてもあなたが私の側にいればいずれ死ぬかもしれないし・・・わからないとしか言えないわ。ただ・・・」
彼女はそこで視線をさ迷わせてからポツリと言った。
「私の側にはいない方がいいと思うわ。私は・・・この世界には存在してはいけない存在なんだから」
その言葉に・・・不意に俺は鏡を見ているようにどきりとした。
その瞳に宿る悲しみと諦めの感情に・・・大切なものを全て失ってしまったような哀愁に満ちたその瞳に、俺なんかの何十、何百倍も辛い経験をしたであろうその悲しみに満ちた表情に・・・俺は・・・
「試してみませんか?」
そう口にしていた。
「試すって・・・」
「俺があなたの側にいてどうなるのか・・・一緒にいられるのかをです」
「・・・話聞いてた?私と一緒にいれば死ぬかもしれないのよ?」
「でも、死なないかもしれない。それを証明しましょう」
「・・・どうしてそんなことを言うの?」
どうしてか・・・それは多分・・・
「あなたに一目惚れしたから・・・でしょうか」
「え?」
先ほどまでの悲しげな表情は消えて、驚いたように目を丸くする彼女に俺は頭をかきながら言った。
「その・・・恥ずかしながらさっきから綺麗なあなたに見惚れてしまっていたのですけど、話していて優しい人なんだと思ったらますます意識しちゃったみたいで・・・」
「・・・優しいなんて・・・私は・・・」
「『皆が死ぬから』なんて理由でこんな寂しい場所にいるあなたが優しくないわけないですよ。だから・・・よければ側にいさせてください。あなたの側に・・・」
その俺の言葉に彼女はしばらく黙ってから口をひらいた。
「私といればあなたが死ぬかもしれないのよ?」
「やってみなければわからない」
「私・・・魔王って呼ばれて皆から嫌われてるからあなたも同じ人間の敵になるかもしれないのよ?」
「どのみち俺の世界に帰る方法がわからないので構いません。それに敵役にはなれてるので」
「・・・・私、かなり面倒くさい女よ?重いし、一度依存したら相手が壊れるまで愛情を注いじゃうかもしれない。それでもいいの?」
「俺も依存心が強いから構いません。むしろ俺を壊れるまで愛してください。俺も壊れるまで愛されるんで」
「・・・本当に何が起ころうと私の側にいてくれる?」
「死んでも一緒にいたいくらいです」
「そう・・・じゃあ最後に・・・私のこと好き?」
その問いかけに俺は・・・
「大好きです」
笑顔でそう答えていた。
「・・・・名前を教えて」
「長塚純です。純で構いません」
「ジュン・・・」
噛み締めるようにその言葉を反芻する彼女。
そんな彼女に俺は・・・
「あなたの名前も教えてください。魔王様じゃないあなたの本当の名前を・・・」
彼女はそれにしばらく視線をさ迷わせてから言った。
「魔力を持つものにとって本来の名前・・・真名を名乗るのは本当に大切な人だけに教えるものなの。『言霊』という力を持つ人に名前を知られたからどんなに強くても簡単に殺されるから。私の名前を知ったら後戻りはできなくなる。それでもいいの?」
それに対して俺は・・・頷いて返した。
「あなたの本当の名前を教えてください。俺の大好きなあなたの名前を・・・」
その俺の返事に彼女は静かに頷いてから少し頬を赤く染めてから言った。
「わかったわ、ジュン。あなたを信じる。私の名前はーーー」
そうして告げられた名前。その名前を聞いて俺は・・・
「綺麗な名前だね」
「本当にそう思うの?」
「うん。俺は好きだよ」
「・・・・嬉しい。そんなこと初めて言われた」
ようやく笑みを浮かべてくれた彼女。
俺は彼女のその表情にどきりと胸の高鳴りを感じながら笑顔で言った。
「これからよろしくね」
それに対して彼女はーーー
「うん!ジュン」
花が咲いたような笑みを浮かべた。