協力作業で裏切られるお仕事
アースドラゴンの傍に、俺を含め五人の人物がいる。
正確には王都の住民も近くにいるのだが、他の人物は誰もこちらへ近づいてこようとはしなかった。
「他の冒険者とかは手伝ってくれないのか?」
「ははっ、騎士の中でも有数な強さを持つ俺らがいるんだ。大抵の冒険者なんか、俺ら以下だぜ」
「スライムにやられたハンスさんが何か言っていますが、ゴズウィンさんそれについては?」
「……面目もない」
「おい」
冗談はともかく、冒険者は横で寝そべるアースを見て近寄るのをやめたらしい。
先程の戦いで何をされたかは知らないが、よっぽどのトラウマを植え付けられたらしい。
なのでここにいるのは、アースと戦っていない人間。
それとミリアやレスティアという知り合いのみだ。
「もし冒険者や他の騎士に応援を頼むなら、そのアースドラゴンは外してもらうことになる」
「却下だ。アースのほうが何百倍の戦力だ」
「ハハッ、君も面白いことを言うね。何百倍じゃないよ、何万力だ」
それだけ一人の人間と、ハイエルフでもミリアしか倒したことがないというアースの戦力差は開いているのだろう。
となると、俺とミリアの力は同等ということになるが、それを見越したように言葉が放たれる。
「あと、力の強さはイコールではないからね。ボクはハイエルフの中で最も強いが、君はその騎士さんにも負けるだろう」
「いや、負けはしなかったぞ。勝ってもいないが」
「その話はいい。今はどう攻めるかだ」
常識人なゴズウィンのもっともな意見に、俺達はまた黙り込む。
敵の場所はわかっている。
そこにアースは侵入できないし、入り口も自爆によって破棄されたらしい。
埋まっているだろうとのことなので、掘り進めた場合、ハイエルフの同胞たちを傷つける恐れがある。
問題は山積みだが、行動しなければ進展はしない。
二十パーセントで良い。
完璧でなくても良いのでまず行動、とはよく言われたものだ。
「要は穴だけ開けて、中身を傷つけなければ良いんだろ?」
「ああ。それをどうするかを……」
「破棄された空間の広さは把握している。まずはミリアがあけた穴を通って、扉の近くまでいこう」
「ん。君は気に食わないが、その意見には賛成さ。リーフとセレナが協力するなら時間もない。早く行こう」
「俺も気に食わないが、その即決即行動には賛成だ」
お互いに文句を言いながらも、メンバーの反応も待たずに移動する。
遅れて、レスティアが続いてくる。
「ちょっと! 向かうのは良いけど、どうやって着地するのよ!」
「そうだね。ほら、レティ……おいで」
「ミリア!」
抱っこされているレスティアさんはともかく、俺には何もない。
飛び降りてからその事実に気づくも、下には何もなかった。
「ぐあっ!」
「……何度目よ、それ」
呆れ顔のレスティアさんだが、その身体はミリアに抱えられたままだ。
恨めしそうにそちらを睨んでいたが、真上から降ってきた男二人にその視線は中断された。
「……っと。お前さん、よく無事だな」
「あ? どうやってあの高さを」
「壁伝いにスキルを発動してな。この高さは少々堪えたぜ」
「……ハンスは?」
「そこでのびている」
どうやらそんな高等技術ができるのはゴズウィンだからだった。
さすが最強の騎士様というべきか。スペックも半端ない。
「じゃあ、城から飛び降りたときも降りればよかったのに」
「それはあの嬢ちゃんが……いや、何でもない」
「………………」
スペックも半端ないが、一人の人間。そして男だったことに安堵した。
「で、距離はどのくらいだい? 空間の把握は君しかできない。それともできないのに……」
「できるぞ。安牌を狙ってギリギリを攻めるなら、約三十メートルだ」
万が一ということもある。
行き過ぎたら取り返しがつかないんだ。ここは少しでも手前で止めておいたほうが良い。
「……わかった。君の性格以外は信用できるからね。離れて」
「ありがとな」
任されたことはきちんとやる。
もしこれで仕事も信用できないと言われたら、この作戦にはたどり着けなかっただろう。
口では何とでもいっているが、この公私混同をしないミリアのやり方には好感が持てる。
「土魔法――ロックブラスト!」
破棄された空間に、岩が勢いよく放たれた。
そして衝撃も収まらぬうちに、更に更にと連続で放たれる。
「おいおい、そんなんで掘れるわけが……」
「いや、よく見ろ。高速で回転している。高速すぎて停まって見えるだけだ」
「なんだと」
ゴズウィンの指摘に目を凝らしてみると、俺でも回転する岩が目で追えた。
しかし、一瞬目を離すとすぐに追えなくなる。
「フフッ、どうやらそこの騎士さんには見えるらしいね。え、君はどうしたんだい? それでもボクと肩を並ばせるほどの実力者なのかい?」
「……あ?」
これ見よがしに煽られるが、作業の邪魔をするわけにはいかない。
今は耐えるべきだ。
そのまま何を言われても黙っていると、やがて魔法の行使が終了した。
「よし、君の言った三十メートルほどは掘れたはずだよ。これで失敗とか言っても、全ては君が……」
「うるさいババア。見てみろ」
そういって指さした先には、ちょうど岩ではない鉄の壁が見えた。
辺りが土や金属で混ざっていることに対し、目の前の壁は独立して、それが奥の部屋だということを主張している。
「破棄された空間のみ、見事に貫通しているな」
「くっ、君もやるじゃないか。あとはレティ、行っておいで」
「え?」
「あ?」
「ん?」
突如呼ばれたレスティア本人に、俺とゴズウィンの困惑も重なる。
何を血迷ったか、ミリアは最後の突破をレスティアにやらせるらしい。
「ほら、さっきも自慢してくれた成果を見せてよ。何なら、ボクの刀を使っていいからさ」
「え、でも……」
「なら、君の愛刀を……確か、ここのどこかにあったよね」
そうして何かの魔法を使ったらしい。横の壁から、まるで俺を狙ったかのように刀が飛び出してきた。
俺は咄嗟に腕でガードする。
「危ないな。何をするんだ」
「……どうして腕に刀が刺さっても平然としているんだい?」
本当に狙ったわけではないだろうが、俺の腕にはレスティアが持っていた刀が刺さっていた。
それを抜き、レスティアに手渡す。
「ほら、大事にしろよ」
「え、ええ。その……大丈夫?」
「おう。なんなら腕付きでも……」
「ミリア! じゃあ見ていてね!」
俺には目もくれずに扉へ構える。
そんなに俺の腕は人気がないのかと落ち込んだが、思えば人の腕を欲しがったとしても恐怖だ。
そんな俺の思考はともかく、レスティアは刀に炎を纏わせて十字切りにした。
「……斬れたけど」
「斬るなら四角に斬れよ」
十字に斬っても空間が空くわけではない。
俺の指摘に、更に斬撃を加えていく。
そうして、目の前の鉄壁が斬り落とされた。
「おやおや、お早いお帰りですね。生き延びたのは知っていましたが、既に遅いですよ」
「死ね」
御託はいい。
無警戒にも目の前に出てきたので、愛用している短剣を投擲する。
しかしそれは、奴の身体を貫通した。
「せっかちな人ですね。急いては事を仕損じますよ」
「忠告ありがとな! 本体はどこだ!」
聞かれて答えるほど馬鹿ではないだろう。
そう思っていたが、答えは呆気なく教えられる。
「この奥の実験施設ですよ。あなたのお仲間も、ハイエルフの人々もそこにいます」
「まだ部屋があるのか。よし、いくぞ!」
立体映像なら問題ない。
会話するだけの映像は無視して扉に向かうも、後ろから放たれた攻撃に俺の背中は斬られた。
「まあまあ。私はあと少し時間を稼ぎたいのですよ」
「ぐっ……何の、つもりだ?」
「これは、困ったことになったね……」
後ろを振り向くと、そこには虚ろな目をした二人。
レスティア、ゴズウィンが剣を構えて敵対していた。




