協力者をおちょくるお仕事
ミリアと呼ばれた人物。
俺が知っていることは、レスティアの知り合いということ。
それと、さっきの空間……セレナとリーフが連れ去られた空間に囚われているだろうということだ。
しかし、目の前にその人物はいる。
すぐ側にいるんだ。
疑問は考えるよりは聞いたほうが早い。
「おい、レレレのレさんよ。じゃれるのもいい加減にしろ」
「誰のことよ! いいじゃない、アタシはこの瞬間を待ち望んでいたのよ。えへへー、ミリア! ミリアぁ……」
「……ボクとしては、遠慮したいかなー」
甘え続けるレスティアとは別に、こちらに助けを求めながら困惑するミリアという人物。
俺がどちらの味方をするかなんて決まっている。
「よし、続けろ」
「いや助けてよ! さっき襲ったことはあやまるからさ!」
実年齢はともかく、見た目少女な二人の絡みは眼福でもある。
それに、圧倒的強者と思われるミリアという人物が蹂躙されている光景も悪くない。
念の為言っておくが、決してさっきの仕返しとかではない。
「ミリア……あのねあのね、あれからアタシも強くなって……」
「レティ、その話は後でいいから。ね? 今は空気読んで」
「彼女はレティさんの活躍をご所望らしいぞ」
「そうなの! あれから冒険者になって、ミリアを信じてアタシも火魔法を極めて……」
「ちょっと! 君も空気読んでよ!」
思った以上に愉快な人物だった。
リーフといいセレナといい、ハイエルフという種族は全員そうなのかもしれない。
まだ語り続けるレスティアは置いておき、とりあえず刀をミリアに渡す。
「……ありがとう」
「自己紹介がまだだったな。俺はシャチ……と名乗っている。リーフというハイエルフの依頼で、王都に連れ去られたというハイエルフの調査に来た」
「ボクは知っているとは思うけどミリアと言う。何か騒ぎになっていたみたいだから来てみれば、何やら大変なことになっているね」
「首謀者の話では、最終段階に入ったらしいぞ」
「そうか。で、君はレティとどのような関係なんだい?」
目が笑っていない。
さすがレスティアの保護者というべきか。
今はそれどころではないが、きちんと話さないと納得はしないだろう。
味方になってくれるのが良いが、最悪敵対される恐れもある。
「ただの雇い主だ。報酬は出す」
「そっか。それなら問題は……」
「あのねあのね。こいつったら酷いのよ。同じ部屋で一夜を明かすわ、牢屋に入れたり、アタシを身代わりにして逃げたりとか」
「………………」
周囲の気温が下がった気がした。
しかし、誤解も含まれている。
「待て、牢屋に入れたのは俺じゃない」
「……あとは事実ってことで、いいんだ?」
「あ、ああ」
同じ部屋で夜を明かしたことも、身代わりにしたこともある。
単に雑に扱っていたといえばそれだけだが、目の前の人物を怒らせるのには十分だったらしい。
「風魔法――上昇気流!」
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
身体が持ち上げられる。
と思ったら、次の瞬間には勢いよく上へと吹き飛ばされた。
天井にぶつかる衝撃に備えていたが、いつまで経ってもその衝撃はなかった。
代わりに、段々と光の差し込み量が増えていき、急に辺りが明るくなった。
「って、地上か」
大方、ミリアという人物があけた穴だったのだろう。
そのまま地上まで吹き飛ばされたのは良いが、上昇する勢いは止まらない。
王都が遠ざかっていく景色を楽しんでいたが、空気が薄くなって苦しくなる頃にようやく下降へ移行した。
「……落下?」
空を飛ぶ手段を持たない俺は落ちるだけだ。
風魔法でもあればリーフのように浮くことができる。
しかし、俺は持たざる者だ。
目を瞑って無心になる。
――そして、いつかと同じく、俺は地面に思いっきり叩きつけられた。
目が覚めると、男二人のドアップがあった。
「うぉわっ!」
「目が覚めたか」
「近いんだよ離れろ」
「せっかく心配してやったのによ」
むさ苦しい男の顔とか誰得だよ。
ツバが飛んできそうなほど近かったので、嬉しいわけがない。
そのまま飛び起きそうな衝動を押さえて辺りを見ると、男二人……ゴズウィンとハンスのほか、離れた位置にミリアとレスティアがいた。
「チェンジ」
「は? 何いってんだ」
「いや、お前たちは要らないから話の続きをさせろ」
ミリアとの話の途中で吹き飛ばされたんだ。
これからのことを踏まえても、方針を話し合う必要はあるだろう。
他意はない。
「さっきは済まなかったね。ついカッとなってしまって」
「えへへ、ミリアは誰かと違って守ってくれるから好き」
「悪かったな俺で」
これでもレスティアには優しく……優しく、してはいないが最低限には扱っていたはずだ。
まあ、雑にしていたのは事実なので、これも普段の行ないのせいだと思っておこう。
「さて、先程の続きだけど、レティを連れ去ったのはセレナというのは本当かな? それと、あの空間は何だい?」
「セレナというのは本当だ。だが首謀者は別にいた。あの空間は多分実験施設だろう」
近くにいた四人に、異世界のことは隠して説明する。
信用されるかはともかく、今はそんな複雑なことまで話している時間はない。
例え仕組みがわからなくても使えれば問題ないことと同じだ。
……まあ、後々問題は出てくるだろうが、何よりも時間、そして効率重視は仕事の出来高の基本だろう。
問題は全て後回しだ。出れば大変だが、出なければヨシ。
「なるほど。突如出現した実験施設に、怪しい人物ね。そしてセレナはその人物に利用されていただけと」
「どうやって隠れていたかは不明だが、リーフもセレナと一緒にあの空間へ連れ去られた。俺が逃げたということも奴は把握しているはずだ」
「ならこちらも行動を起こさないとまずいね。厄介だな」
このミリアという人物も、ハイエルフを救出するのに手を貸してくれるらしい。
今までは他の国へいたみたいで、こちらへ戻ってきたのは最近だという。
「そういえば、ミリアはなんでアタシを置いてどこか行っちゃったの? 何も言わずに消えるから、心配したじゃない!」
「ごめんよレティ、ボクもすぐに戻る予定だったのだけどね」
「うぅー、寂しかったんだからね!」
「……誰だコイツ?」
「よしよし、事が終わったら一緒だよ。もう少し待ってね」
いつのまにかレスティアの中身は誰かと入れ替わっていたらしい。
こんなの俺が知るレスティアじゃないぞ。
それはともかく、奴の居場所はわかっている。
攻め込むための戦力を確認することは大事だ。
「ところでミリアと言ったか? 他の国で何をしていた」
「おいシャチさんよ、今はどうでも……」
「いや、重要だ。でないと、こいつを信用できない」
「……鋭いね、君は」
説明では、ハイエルフたちがセレナに着いていったあとに集落を訪れて、情報を集めていたらしい。
しかしそれでも、別の国までいく理由としては説得力がない。
「ちょっと、契約にね。今はこれで見逃してくれないかな?」
「内容によるな。それが敵対することでなければ許可する」
「……さっきから君、偉そうだね。誰に向けていっているのかわかっているのかな?」
レスティアを巡って対立する俺たちだが、それでも不信感は拭いきれない。
共通の敵を倒して、最後に後ろからブスリということもあるんだ。
心配事は一つでも潰しておく。
その時、後ろから地響きが聞こえてきた。
それはだんだんとこちらへ近づいてくるようだ。
『ここにいたのか。探したぞ』
「あ、ちょうどよかった。目の前のこいつに一発入れてやってよ」
「おうアース、遅かったな。このハイエルフを脅してくれ」
同時に、俺とミリアの視線が合う。
「え?」
「あ?」
『なんだ。二人共知り合いだったのか。貴様と同様、我を倒した人物がこのミリアというハイエルフだ』
そういえばアースから聞いたことがある。
随分と昔に負かされたことがあると。
それを聞いて理解した。
「じゃあ、君がもう一人の……」
「なんだババアか」
「命令だ。今すぐこの野郎を踏み潰せ」
作戦会議が始まるのは、それから数十分後のことだった。




