ギミックを解除するお仕事
地上に付いてからは目的地まで一直線だ。
現状把握のためにアースと連絡も取ってみたが、まだ向こうは暴れている最中らしい。
「ま、地下にあの巨体で来られても生き埋めだしな」
「シャチさんはともかく、私達にとってはシャレにもなりません」
「スラリー、頼りにしているぞ」
リーフに抱かれているスラリーが了解するようにモゾッと反応した。
こいつ、見せつけるようにしやがって。
「……この地下に、私達の同胞がいるのですか」
「ついでにレスティアもな」
「でも、本当にセレナがそんなことを。今でも信じられません」
「行けばわかるだろ」
いくら口で説明をしても、実際に見てみないとわからないこともある。
専門的なモノなら尚更だ。
セレナという人物の過去を知らない俺に、なぜそんな行動に至ったかを説明できるわけもない。
そのまま脱出してきた道を引き返し、俺自身が埋まった壁まで辿り着く。
目の前には相変わらず、厳重に封鎖された扉がそびえていた。
「さて、リーフなら開けれるそうだが、出来るか?」
「やり方もわからないのに、出来ませんよ?」
「出来ないじゃない。やるんだ」
「なんですかその根性論は……」
ハイエルフにしか開けれないというには、何かしら方法はあるはずだ。
現に俺はセレナがセキュリティというものを解除する場面を見ている。
よく観察すると、そこには正方形のタッチパネルのようなものが備えられていた。
「ここでもしかして認証しているんじゃないか?」
「そうなんですか? では早速……」
「待て。俺が先だ」
もし罠なら、俺達は唯一解除できるリーフを失うかもしれない。
切り札は最後に取るためにも、まずは検証が必要だろう。
念には念を入れて、まず左手首を落として、再生した左手でソレを持つ。
「何度見ても刺激的ですね……」
「ん? 欲しいのか。ならこの後に」
「要りません! 要りませんから!」
実験に使うだけなので、使用済みはあげても良いかと思ったがすごい勢いで拒否された。
もしかしたら腕付きのほうがよかったのかもしれない。
「このタイプは手のひらを当てるやつだな。ほら」
――ピッ、エラー。正規の手順を行なってください。
「な?」
「わかっていたなら、私がやっても…………え?」
真横にスタンバイしていたリーフだったが、認証に失敗した俺の手首を見て固まってしまった。
俺は手を放した。しかし、先程切り離した手首は壁にくっついたまま離れない。
「……これは、どういうことでしょう?」
「普通に考えると、ただの罠だな」
見た目は接着剤で取れなくなった手だろうか。
タチの悪いいたずらだが、皮膚が剥がれるという点からみると、正規の手順がわからないうちに認証を失敗させるのには十分だろう。
だが、これはこれで困ったことになった。
「あの、邪魔なんですけど」
「安心しろ、まず正規の手順を踏め」
俺の手首は張り付いたままだ。
つまり、新しい認証のために試すことも出来ない。
セレナという人物はまんまとやってくれたらしい。
「正規の手順って、シャチさんは見ていなかったんですか?」
「パパッと終わったからな。そんな細かいことまで覚えていない」
「……パネルもそうですし、詰みましたかね」
「おい。いかにも俺が悪いようにするのはやめろ」
あの時は疑いはあったものの、こんな展開になるなんて想定外だった。
それを俺の落ち度にされても困るが、何事も日々観察しとけとはよく言われたものだ。
目の前に手がかりがあるのに悲しそうな顔をするリーフを見ていると、俺が悪くないとしてもこちらまで落ち込んでしまう。
そうして暗いムードが漂う中、動く影があった。
「……スラリー?」
さっきまでジッとしていたスラリーは、何かをアピールするようにとある場所で跳ねている。
そして何もない壁に近づくと、一生懸命にジャンプをして体当たりをし始めた。
「そこに何かあるのか?」
「シャチさん! ここ見てください!」
スラリーが跳ねていた場所には、小さな窪みがあった。
何か突起のようなものが中心にあったので押して見る……何も起きない。
「何だったんだ?」
「ということは壁にも……あ、やっぱり!」
スラリーが体当たりしていた場所のほうは、窪みではないが何かをスライドさせるためのスペースがあったらしい。
周囲が暗くて気づかなかったが、オンオフスイッチのようなものだろうか。
とりあえず全て反対にスライドさせてみる。
「ん? ここだけスライドしないぞ」
「下から二番目もですよ? 固定されているみたいですね」
二人で疑問に思っていると、スラリーが窪みの周辺でジャンプをしている。
もうここまで教えてもらえば俺でもわかる。
「そうか、そういうギミックか。よく覚えていたな」
「スラリーちゃん! ありがとう!!」
文字通り、スラリー……スライムがリーフに抱きしめられてムギュっと潰れる。
同時にもう二つも潰れたようだが、リーフがそれを気にすることはなさそうだ。
これで仕掛けは解かれた。あとは張り付いた手首をどうにかするだけだ。
「さて、あとは認証システムだけらしいが……失敗したコレ、どうする?」
「んんーっ、スラリーちゃんは誰かと違って賢いですねー、もしかしてスラリーちゃんならアレもどうにかできます?」
その言葉に了解したのか、リーフの腕から離れるとポンッと勢いよく飛び出した。
そのまま壁に張り付いた俺の手首まで向かい……その身体で、スライムの体内に取り込んだ。
「俺の手首が!」
「スラリーちゃんの体調が!!」
「おい、俺の手首は生ゴミかよ」
俺たちの感想が聞こえているのか、そのまま綺麗に張り付いた手首だけを取り込み、スラリーが離れた場所には元通り認証パネルのみが残っていた。
元通りというには語弊がある。
元よりもピカピカになって、表面の輝きを取り戻したパネルが残っていた。
この薄暗い場所にも関わらず、だ。
「さっすがスラリーちゃんです!」
「ぐっ、お前が……ナンバーワンだ」
仕事の貢献度は、間違いなくスラリーが一位だろう。
アースは未知数だが、俺よりも上なのは間違いない。
スライムに負けた敗北感に襲われているうちに、目の前の扉が開いていく。
「あ?」
「開きましたよ。この先にセレナと私の同胞がいるのですね……」
「ついでにレテレテさんもな」
「あ、レスティアさんもいましたね」
そんなことを話しながら待っていると、どうやら扉の向こうには人が待っていたらしい。
「待っていましたわ! よく辿り着きましたわね!!」
「よし、確認はしたから帰るか」
「あ、セレナさんお久しぶりです。ちょっと確認したいのでそのままジッとしていてくださいねー」
「黙りなさい!!」
事前情報、また下調べは大切だ。
セレナのマインドコントロール対策はバッチリだ。つまり。
「俺は黙らねぇからよ。ちょっと戻って仲間連れてくるわ」
「なら私はこのまま周辺を……カプセル? を探しますねー」
「ちょ! やめなさいな! あなた方は何故命令が聞けないのですか!!」
威厳のない、ましてや権力のない人間に従うほど、俺は落ちぶれていないぞ?
週73時間勤務の社畜さんは、7月中の完結目指して更新します(予定)




