空を跳んで死にたくなるお仕事
目的が決まれば即行動あるのみだ。
最上階とわかっているなら話は早い。
「どうした、入り口はこっちだぞ?」
「お前たちは魔法を使えないのか」
ここでリーフのように風魔法があればひとっ飛びできる。
アースの吹き飛ばしもない今、手っ取り早く行くには飛ぶのが早い。
「あいにくと俺たちは剣一筋でな。魔法はてんでダメさ」
「なんだよ。じゃあ敵対したときどうやって……」
「その代わり!」
前触れもなく剣を振るわれる。
そこには離れた位置に俺の分身体、四人目の俺がいたが、斬撃を受けてもいないのに跡形もなく崩れ去ってしまった。
「……は?」
「こうやって、な。魔法の効果を消すことが出来る」
「チッ、あくどい事をしやがる」
「お前さんも中々だろ」
こいつらに魔法は効かないらしい。
ぶっちゃけ俺には関係のないことだが、もし相手にするようなことがあれば覚えておく必要があるな。
魔法が使えないなら、今回もあの方法を取るしか無い。
「ところで、アイツはなんでポヨポヨしているんだ?」
「俺が頼んだからだ」
入り口で待っているハンスは置いておいて、スラリーはその横の壁で上下に伸びたり縮んだりを繰り返している。
大きさも俺が初めて会ったときのような人を飲み込める大きさに変化してくれた。
これなら充分だろう。
「よし、跳ぶぞ」
「正気か?」
今回の作戦はこうだ。
スラリーの反発力を利用して上昇する。
以上だ。
しかし、俺がいざ弾力を確かめてより高く跳ぶための道筋を考えている時、助走をつけて突っ込んでくるバカがいた。
ハンスだった。
「うぉぉぉぉぉおおお!!! 汚名挽回だぁあああ!!」
「返上しろよ」
ゴズウィンの指摘も無視され、ハンスはスラリーへと突撃していく。
そして上下にポヨポヨしていたスラリーに乗り上げ……そのままの勢いで壁に突っ込んでいた。
「あーあ」
「予想通りだな」
「ま、バカは放っといて早くいくぞ。今の轟音で人がくる」
残った二人でスラリーを踏み台にし、そのままトランポリン状態で楽しむ。
「次の合図で踏み込むぞ」
「ああ」
「土魔法――ロックインパクト!」
上昇した高度で魔法を発動する。
俺たちの足元に岩が出現するも、スラリーなら跳ばせる大きさだ。
そして、それを足場にしスラリーへと落下。衝撃は吸収され――上方向に解放される!
「今だ! 押し込め!」
「そういうことか! わかった!」
二人で岩を思いっきりスラリーへ押し付ける。
そしてその分の圧力でさらに沈み、反発力も上昇する。
「よし、そのまま屈め!」
「言われなくともな!」
スラリーが伸びると共に、俺達は岩に屈んだまま岩ごと跳び上がる。
……そして、思った以上の勢いで最上階も飛び越えた高さまで上昇した。
「どうすんだコレ」
「俺に聞くなよ」
何事もやってみなくては始まらない。
そして、時には失敗も繰り返す。
大事なのは、失敗を恐れずに挑戦すること。そして原因を追求し改善して挑戦し続けることだ。
近づいた空を見上げてそう思った。
「ちょ! 落ちるぞ! おま、正気に戻れ!」
「しまった、俺としたことが」
意識を飛ばしていたが、一瞬でもそれは状況によって命取りになる。
そして今が、その状況でもあった。
「くっ、どこでもいい! 飛び込むぞ!」
「そのための足場だ!」
本当は水平移動ではなく、足りない高さを補うための足場だったが、思った以上にスラリーが頑張ってくれたらしい。
俺とゴズウィンは、落下に合わせて最上階の近くにある窓へ飛び込んだ。
飛び込んだ先は、誰かの寝室らしい。
転がるように飛び込んだ俺達の目に入ったのは、一つの大きなベッド。
そしてその上にいたのは、抱き合った男女だった。
「きゃぁぁぁ!」
「誰だお前たちはっ!」
「……何やってんだ、リーフ」
「え? シャチさん……あっ」
リーフはこちらを認識すると、バッと抱きついていた男性から離れる。
その姿を見て思った。
「そうか……これが仕事を選んだ結末か」
「ご、誤解です! この人とは何もないですから!」
まるで俺を介抱するかのように手を上下左右にアワアワさせているが、リーフはベッドの上から出てこようとしない。
それどころか、まるでシーツで身体を隠すようにしている。
「えっと、エキサイト中にお邪魔して悪いな」
「違う! ゴズウィン殿も誤解だ!」
その横では、男性とゴズウィンも同じようなやり取りをしていた。
誤解と言われても、状況が全てを物語っている。
俺は黙って短剣を取り出す。
「えっと……シャチさん? 何を」
「これで全て終わりだ」
そう言い残すと、俺は目の前のリーフに向けて思いっきり…………笑顔で切腹した。
「嫌ぁああ!! シャチさん! なんで!」
「ぐっ……といっても、なんともないわけだが。何故かと言われると、お前をベッドから出すためだ」
「え?」
一種の賭けだったが、俺はまだリーフに嫌われてはいないらしい。
現に、こうして切腹した俺にすぐ駆け寄ってきてくれた。
つまり、隠されていた身体も俺たちの目に晒される。
なぜかメイド服を着ていた。
「何だその格好は。ナメてるのか」
「み、見ないでください!!」
それだけ言い、リーフはまたすぐにシーツへ包まってしまう。
俺は服を着ていた安心と、何故恥ずかしがるのかの不思議で困惑したが、もう一人の男性からその答えは提示された。
「彼女は僕の寂しさを埋めるために協力してくれたんだ! こうでもしないと、僕はアレを解放しかねないからね」
「王子、あなたの趣味にとやかくいうつもりはないですが、状況を考えてください」
外でアースが暴れているという情報は、当然この王子と呼ばれた男性も知っているだろう。
その非常事態にこんなことをするとは、中々の大物である。
「僕は彼女に協力してもらっただけさ。ああ、惚れた女を監禁するのが、こんなにも辛いものだったなんて!」
「ゴズウィン、まかせた」
見るからにやばい奴とは関わらないほうが吉だ。
付きまとわれて大変なことになる場合がある。
そうして距離を離したのにも関わらず、奴は勝手に話し始めた。
「彼女に会ったのは全くの偶然だったよ。運ばれていく彼女を見た僕は一目惚れさ」
「御託はいい。結論を述べろ」
こういった輩は長い。
そしてこっちが話に飽きた頃に重要な事柄をブチ込んでくるのだ。
それでこちらに不利な交渉を通されそうになったことが何度かあった。
「僕の婚約者に囚われた至高の存在を解放してほしい。そのためには、まず場所を探る必要がある」
「場所なら知っているぞ。さっき出てきた」
おそらく俺が囚われていた場所がそうだろう。
あの扉の場所に行けば全てが終わるはずだ。




