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王都に不法侵入するお仕事

 

 王都へは歩いて一週間程かかった。

 そして、その間俺とレスティアの間に会話はない。


「いい加減、こっちを見たらどうだ?」

「……ふん!」

「それ、シャチさんにも原因がありますよ」


 あの後は悲鳴を上げたレスティアと合流し、リーフの成果もあってか余所余所しい感じでレスティアは俺に謝ってきた。

 そのことに気を良くした俺は、修行の成果をいち早く見せるためダブルタスクでレスティアを翻弄したが……それが悪手だったらしい。


 ちなみにアースは繋がりが切れたので、いつのまにか住処へと帰ったようだ。


「裸の男性二人に追いまわされたら、私だってそうなりますよ」

「俺は服を着ていただろ」


 分身体はともかく、こちらはきちんとした格好だったのに心外だ。

 片方に不快感を持ったなら、同じような人間も途端に疑わしくなる。

 俺の修行の成果はどうやら、リーフの成果も泡にしてしまったようだ。


「それにしても、男性にリアカーを運ばせている図は、ちょっと……」

「これくらい当然だ」


 リーフ達がいた待機所から、役に立ちそうな道具や食料を頂いてきた。

 全てハイエルフが用意したようなものなので、同じ種族のリーフが居れば問題ないらしい。

 そして、それは全てリアカーに乗せ、もう一人の俺に引かせている。


「ね? リーフもまるで奴隷みたいに思うでしょ? アタシもそう思ったから……」

「じゃあ俺自身もリアカー移動に一肌脱ごう」

「………………」

「レスティア、そろそろシャチさんとも口をきいてみては?」


 俺だけピンポイントに無視された。

 気分は窓際族だ。


 やがて、王都が見えてきた。




「……ようやく見えてきたわ。このまま歩けば今日中に着きそうね」

「でもここからだと、着くのは夜になりそうですね」

「逆に都合が良い。潜入するならもってこいだろう」


 正式に中へ入ると、前の町のように指名手配されても堪らない。

 俺の依頼はリーフを王都に届け、アフターケアも含めると仲間を引き合わすことだ。

 それさえ達成できれば、あとはリーフを二ヶ月ほど好きに使える。


「じゃあ、これが終わったらリーフには労働力として二ヶ月ほど働いてもらうとするか」

「え? あ……二倍にするとそのくらいになりますか。仕方ないですね、わかりました」


 仕方ないという割には、何故か表情が嬉しそうだ。

 もしかしたらリーフも働ける喜びに目覚めたのかもしれない。


「リーフに変なことをしたら許さないんだからね!」

「……今お前」

「あっ」


 久々に口を聞いたかと思えば、リーフの身を案じる発言だった。

 どうやらレスティアは、この短期間でミリア好きに加えてリーフ好きも発病してしまったらしい。

 しかし、そんなことになっても労働力は手放せない。


「俺はごく一般的な作業をしてもらうだけだ」

「……例えば?」

「そうだな。しばらくは畑を作るのでも手伝ってもらうか」

「私、そんなことのために使われるのですね……」


 オークに捕まっていた頃に比べると随分と高待遇な気もするが、今の俺は自給自足の生活に向けての準備がしたい。

 そのためには、指示待ち人間以外の人物も欲しい。

 そして、大きな理由として目の保養ができる。


 よくオフィスでも仕事効率の口上として美男美女が好まれる。

 人間は見栄を張りたい生き物だ。カッコよく思われたいのは当然だろう。

 そして、それは俺自身にも当てはまる。

 仮にも分身体は全て俺だ。リーフがいることによって仕事効率上昇の効果は抜群だろう。


 そんな理由を二人に述べていると、いつの間にかリーフの顔が赤くなっていた。


「ん? どうした。さっきから黙って」

「……今は、顔を合わせられません。こっちを見ないでください」

「もーう、そんなに言うなら、アタシも手伝ってあげてもいいわよ!」

「あ、お前は邪魔になりそうだからいらない」

「何よそれ! 失礼ね!」


 そうやって騒ぎながらも、俺達は城壁のようなものに囲まれた王都へとたどり着いた。




 辺りは既に暗くなっている。

 街道周辺や入り口と思われる門は松明などで照らされているが、今俺たちのいる城壁周辺は暗いままだ。


 門には夜にも関わらず人が駐在しているようなので、ここで作戦会議をすることにした。


「正攻法で入ると捕まる。ここはこの壁を乗り越えよう」

「……すみません、私のせいで」

「前みたいに、アンタが一人で情報収取してきたら?」


 こいつは暗に『リーフと二人きりになりたいからどっかいけ』と伝えたいに違いない。

 しかし、そうもできない理由もある。


「俺は前の街でやらかした。顔を覚えられているはずだ」


 現にあのゴズウィンという騎士も、後で王都に行くようなことを言っていた。

 ここは顔を見られた俺よりも適任者がいるだろう。


「だから、単体行動ならレスティアだな。この中で一番安全だ」

「ちょ! アタシはリーフと一緒じゃなきゃ嫌よ!」


 そう言って、リーフにひしと抱きつく。

 リーフもレスティアを優しく受け止めるので、それに伴って二つの半球がぐにぐにと形を変えた。


「……いかん、安全不注意だった」

「? どうしたのですか?」

「いや、なんでもない」


 運転中なら事故を起こしていたかもしれない。

 すぐさま煩悩を振りほどき、会議へと意識を戻す。


「では、予定通りに壁を乗り越える」

「それなら荷物はどうするのよ?」

「邪魔になるな。食料は置いていこう」

「えっと……どうやって、乗り越えるのでしょうか?」


 リーフの疑問はもっともだ。

 どんな敵を想定しているのかは不明だが、城壁の高さは目測で二十メートルほどだ。

 魔法を使っても、空を飛ばない限りは簡単に乗り越えられそうにもない。


「風魔法でも、これほどの高さを三人は……」

「アタシなら剣を突き刺しながら登れるけど、この高さは無理ね」

「土魔法で地面を盛り上げてもキツイな」


 何かレスティアが気になることを発言したが、それぞれの魔法では厳しいらしい。

 なら、方法はアレだ。


「よし、リーフの魔力を貸してくれ。アースを呼ぼう」

「ちょ! そんなことでアイツを呼ぶの! え、正気?」

「アースドラゴンをただの踏み台にするなんて……」


 魔法で乗り越えられない。

 しかし、協力者の身体に乗れば可能となると選択肢は一つだ。

 使えるものはなんでも使わないと苦労する一方なのは学んだ。


「……心の準備はできましたよ」

「なら即行動だ」

「ちょっと待って。こんな場所で召喚したら……」

「世界を震撼させた強者よ、我の元に力を貸したまえ。我はそなたを制した者……現われよ、アースよ!」


 レスティアは何かに気づいたようだが、一旦始まった口上は止めることができない。

 そして、巨大な魔法陣が傍に現れ、夜だというのに眩しい光が一瞬だけ辺りを照らす。


『まだ時は経っていない。もう我の力が必要になったのか。人間よ』

「ああ。とりあえず壁の向こうに行きたい。乗せてくれ」

『フン。その程度のことで我を呼ぶか。まあ良い、乗れ』


 アースは俺たちを頭の上に乗せてくれるらしい。

 顎を地面につけた状態で俺たちを待っているが、同時にこちらに向けて大勢が走ってくる足音が聞こえてくる。


「……なぜバレた?」

「皆さん、眩しくて文句でも言いに来たのでしょうか?」

「こんな近くで目立つ行動するからでしょ! 早く移動するわよ!」


 唯一冷静に物事を見ていたレスティアによって、俺たちは背中を押されるようにしてアースに乗る。

 食料は放置したままだが仕方ない。もう一人の俺は置いていく。


『向こう側へ飛ばすだけで良いのか?』

「ああ。思いっきりやってくれ」


 そうして、アースは反動で飛ばすように身体ごと少し傾ける。

 俺たちは振り落とされないようにするので精一杯だ。


『いくぞ』

「あの、着地はどうしたら……」

「……俺は死なん」

「え? ちょっと待っ」

「風魔法で、私だけならなんとかっ!」

『フンッ!』


 その掛け声と共に、俺とリーフ、レスティアの三人と何かは空を飛ぶ。


「いやああああああああああ!!!!」

「きゃああああああああ!!!」

「……空を飛ぶのも、気持ちの良いものだな」


 悲鳴を上げる二人に対して、俺は仄かな空中浮遊の時間を楽しんだ。

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