表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

エピローグ:夏のおわり

 鳴く蝉も数を減らし、すでに秋が近づいていた。

 俺は一人で元気に鳴いている蝉に耳を傾けながら、立ち並ぶ墓石の間を歩いていく。

 そのまま歩き、ある墓石の前で立ち止まった。

 墓石に刻まれたのは、『常盤家』の文字。そして、ここ最近新しく刻まれた文字を優しく撫でる。

「よう、美樹。また来たぞ」

 そう言って、出がけに買った花を供える。

 以前美樹に贈ったものと同じ、薄い黄色に白。そして、ピンク色の花。

 俺は墓石の傍にしゃがみこんで、線香に火を点けた。すると線香の煙が上がり、独特の香りが広がる。

 あの手術以降、美樹の葬式が行われた。

 美樹のお母さんは、悲しそうにしながらも気丈に振舞っていたし、俺もその傍で手伝っていた。

「美樹が笑顔で逝けたのは、貴方のおかげよ」

 涙ながらに言われた言葉に、俺は返す言葉がない。ただ、頭を下げるだけだった。

「学校が始まってさ、よく周りの奴に『ずいぶんと変わった』って言われるんだ」

 ははは、と小さく笑う。

「言われてさ、納得するんだよ。やっぱり、変わったのかって」

 そう言って、俺は自分の胸に手を当てる。

「なんか、ぽっかりと穴が空いた気がする。多分これ、お前のせいだぞ?」

 美樹がいなくなって、心は空虚になった。

「まったくさ、一人で先に逝くし、しかも、俺には『しっかり生きろ』なんて言い残しやがって……」

 俺は、ポケットから『健康祈願』のお守りを取り出す。

「これのおかげで、俺は病気でそっちに行くことはなさそうだ。まったく、その分のご利益を、お前に回してくれればよかったのにな」

 そう言って、今度は『病気平癒』のお守りを取り出す。

「まあ、病気以外のものでも死ぬ気はないぞ。自殺なんてしないし、交通事故にも遭ってやらない。だから、しばらく待っていてくれ。それが、俺を残した罰だ」

 本音を言うならば、すぐに美樹に会いたかった。

 後を追って、なんてことも考えなかったわけじゃない。

 それでも、美樹との約束が俺を止めた。

『もし、わたしが死んでしまっても、修司さんは……しっかり生きてくださいね』

 まったく。死に際にまでそんなことを言われたら、守らなくちゃいけないじゃねえか。

 俺はゆっくりと立ち上がる。

「だからさ、俺はしっかり生きてみようと思う。そうだな、いっそのこと、医者でも目指してみようか」

 そう言って、俺は青空を見上げた。

「こんな思いをする人が、一人でも減るように。ああ、それもいいな」

 俺の言葉に、どこかで美樹が苦笑した気がした。

「心配すんなって。これでも、勉強はできるほうなんだぞ。しかも、これからは頑張って勉強するから、さらに良い成績を取れるさ」

 俺は、花束から一本だけ花を抜き取る。

「あと、これ持っていくぞ。花を置きたい場所、もう一箇所あるんだ」

 薄い黄色の花を手に持ち、俺は墓石に背を向けた。

「そんじゃ、また休みの日に来るよ。もしかしたら学校帰りに来るかもしれないけど、そのときは笑って見逃してくれ」

 ゆっくりと歩き出す。秋が近づいたとはいえ、まだ大分日差しは強い。

 それならゆっくり行こうじゃないか。生憎と、俺にはたくさんの時間がある。

 あの場所に花を添えたら、久しぶりに考え事をしてみるのもいいかもしれない。

 なに、考えることだって大事だ。

 それぐらいだったら、美樹も許してくれるだろう。

 それがどこなのか、決まっている。

 俺はゆっくり、ゆっくりと歩きながら、青空を見上げた。

 さあ、行こう。


 ―――あの、海風の吹く場所に。


                                 Fin

どうも、作者の池崎数也です。

こんな駄文をここまで読んでいただき、まことにありがとうございます。少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

コンセプトは前向きなバッドエンド。ページ数はワードで60ページ前後と自分で決めて書いてみました。

おかげで話を詰め込みすぎた感じがします。

限られたページ数でどれくらい書けるかを試してみたかったのですが、このような形になりました。長編ではなく、中編くらいですかね?

美樹の病気に関してはインターネットで調べたものなので、おかしなところがあるかもしれません。

つっこみ、指摘、誤字脱字、感想など、よろしければお聞かせください。

それでは、ここまで読んでくださった方々に無上の感謝を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ