エピローグ:夏のおわり
鳴く蝉も数を減らし、すでに秋が近づいていた。
俺は一人で元気に鳴いている蝉に耳を傾けながら、立ち並ぶ墓石の間を歩いていく。
そのまま歩き、ある墓石の前で立ち止まった。
墓石に刻まれたのは、『常盤家』の文字。そして、ここ最近新しく刻まれた文字を優しく撫でる。
「よう、美樹。また来たぞ」
そう言って、出がけに買った花を供える。
以前美樹に贈ったものと同じ、薄い黄色に白。そして、ピンク色の花。
俺は墓石の傍にしゃがみこんで、線香に火を点けた。すると線香の煙が上がり、独特の香りが広がる。
あの手術以降、美樹の葬式が行われた。
美樹のお母さんは、悲しそうにしながらも気丈に振舞っていたし、俺もその傍で手伝っていた。
「美樹が笑顔で逝けたのは、貴方のおかげよ」
涙ながらに言われた言葉に、俺は返す言葉がない。ただ、頭を下げるだけだった。
「学校が始まってさ、よく周りの奴に『ずいぶんと変わった』って言われるんだ」
ははは、と小さく笑う。
「言われてさ、納得するんだよ。やっぱり、変わったのかって」
そう言って、俺は自分の胸に手を当てる。
「なんか、ぽっかりと穴が空いた気がする。多分これ、お前のせいだぞ?」
美樹がいなくなって、心は空虚になった。
「まったくさ、一人で先に逝くし、しかも、俺には『しっかり生きろ』なんて言い残しやがって……」
俺は、ポケットから『健康祈願』のお守りを取り出す。
「これのおかげで、俺は病気でそっちに行くことはなさそうだ。まったく、その分のご利益を、お前に回してくれればよかったのにな」
そう言って、今度は『病気平癒』のお守りを取り出す。
「まあ、病気以外のものでも死ぬ気はないぞ。自殺なんてしないし、交通事故にも遭ってやらない。だから、しばらく待っていてくれ。それが、俺を残した罰だ」
本音を言うならば、すぐに美樹に会いたかった。
後を追って、なんてことも考えなかったわけじゃない。
それでも、美樹との約束が俺を止めた。
『もし、わたしが死んでしまっても、修司さんは……しっかり生きてくださいね』
まったく。死に際にまでそんなことを言われたら、守らなくちゃいけないじゃねえか。
俺はゆっくりと立ち上がる。
「だからさ、俺はしっかり生きてみようと思う。そうだな、いっそのこと、医者でも目指してみようか」
そう言って、俺は青空を見上げた。
「こんな思いをする人が、一人でも減るように。ああ、それもいいな」
俺の言葉に、どこかで美樹が苦笑した気がした。
「心配すんなって。これでも、勉強はできるほうなんだぞ。しかも、これからは頑張って勉強するから、さらに良い成績を取れるさ」
俺は、花束から一本だけ花を抜き取る。
「あと、これ持っていくぞ。花を置きたい場所、もう一箇所あるんだ」
薄い黄色の花を手に持ち、俺は墓石に背を向けた。
「そんじゃ、また休みの日に来るよ。もしかしたら学校帰りに来るかもしれないけど、そのときは笑って見逃してくれ」
ゆっくりと歩き出す。秋が近づいたとはいえ、まだ大分日差しは強い。
それならゆっくり行こうじゃないか。生憎と、俺にはたくさんの時間がある。
あの場所に花を添えたら、久しぶりに考え事をしてみるのもいいかもしれない。
なに、考えることだって大事だ。
それぐらいだったら、美樹も許してくれるだろう。
それがどこなのか、決まっている。
俺はゆっくり、ゆっくりと歩きながら、青空を見上げた。
さあ、行こう。
―――あの、海風の吹く場所に。
Fin
どうも、作者の池崎数也です。
こんな駄文をここまで読んでいただき、まことにありがとうございます。少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
コンセプトは前向きなバッドエンド。ページ数はワードで60ページ前後と自分で決めて書いてみました。
おかげで話を詰め込みすぎた感じがします。
限られたページ数でどれくらい書けるかを試してみたかったのですが、このような形になりました。長編ではなく、中編くらいですかね?
美樹の病気に関してはインターネットで調べたものなので、おかしなところがあるかもしれません。
つっこみ、指摘、誤字脱字、感想など、よろしければお聞かせください。
それでは、ここまで読んでくださった方々に無上の感謝を。