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かなちゃん

作者: 円 紀一

「ぜったい、ここにあったもん!」

かなちゃんは小学一年生。

誕生日プレゼントに、付録つきの雑誌が欲しいというので本屋に連れてきたが、目当ての雑誌はすでに次の号になってしまっているらしく、売っていなかった。

「多分、先月号だったんだよ。もう次の号になっちゃってるからあきらめよう。」

そう説得するも、前に来たときはここにあったんだの一点張り。

しかし、無いものはない。

「別のものにしようよ。同じぐらいの値段のものなら買ってあげるから」

「そうだ!カウンターに行く!カウンターに聞けば見つけてくれるよきっと!」

数ヶ月前、同じように探しているものが見つからなかったことがあった。その時は本のタイトルもはっきりしていたし、雑誌ではなく普通の本だった。カウンターに聞くとすぐに見つかった。その時のことを思い出したのだろう。

私の手を引っ張り、カウンターへ。だが今回は雑誌のタイトルがわからない。わかるのは「四角いお化粧をするなにか」が付録になっているという情報だけ。

さすがに店員さんもわからないと思うが、店員さんが「見つかりません」といってくれればあきらめてくれるだろう。

「すみません。娘が付録つきの雑誌を探していて・・・」

「あのね。四角いパカッてなるお化粧のやつがついている本」

会員の申し込みコーナーのようなところでパソコンを見ながら作業しているお姉さん二人に向かって声をかけた。

そのうち一人がカウンターの近くまで来てくれ、娘の要領を得ない説明を聞いてくれる。

「ちょっと探してみますね」と言って、またパソコンのところへ。

探すフリだけして無かったと言ってくれるだけでもいいと思っていたが、お姉さん二人で同じ画面を見ながら「これかなー?」「こっちじゃない?」といった様子で探してくれている。

数分してもう一人のお姉さんが娘に近寄ってきて「鏡、ついてた?」と聞くが娘は少し考えて「わからない」と答えた。

さらに捜索するお姉さん二人。10分ほどして、もしかしてあきらめて別の作業を始めてしまったのかと不安になり始めた頃、「これかな?」とカラーコピーした紙を持ってきてくれた。雑誌の表紙だ。

「これ!」娘が頷く。本当に見つけた。

その雑誌は3月号だった。今は5月号が出ている。雑誌の名前もわかった。

そして、状況が絶望的なこともわかった。

「3月号ですので、ここにはありません。出版社に問い合わせて、もし出版社に在庫が残っていれば取り寄せられます。その場合も3~4週間はかかります。」

「どうする?」

娘に聞く。

「・・・・・・」

涙目で固まっている。すぐに答えを出すのは難しそうだ。

今日は誕生日で素敵な日になるはずだったのに、どうして上手くいかないんだろう。なんて事を考えているのかもしれない。

「ちょっと考えます」

もっといい雑誌が見つかるかもしれないと淡い期待を抱いて、もう一度、付録つき雑誌のコーナーに戻る。

あれこれと見て回ると、お化粧の道具らしき付録の雑誌は結構ある。ただ、当たり前だが欲しかったやつとは微妙に異なる。どうしてもこれでいいと思えるものはなかったらしい。

「やっぱり注文したい、もしなかったら、また買いに来てくれる?」

出版社に問い合わせてもらうことになった。


次の日、会社でそろそろ退社しようかと思っている時に電話が鳴った。本屋からだ。

「はい」

「昨日注文いただいた雑誌の件でお電話おかけしたんですが。出版社に問い合わせたところ、すでに在庫はなくなっているようで、大変申し訳ありませんが、お取り寄せできませんでした。」

「そうですか・・・。わかりました。ありがとうございました。」

電話を切る。2ヶ月前の雑誌だ。予想はしていたが、娘にはなんて説明しよう。できるだけがっかりさせないように伝えたい。電話をかけて電話越しに伝えてみようか。電話でなんてめったに話さないから、その嬉しさで少しは紛れるかもしれない。

会社からの帰り道で歩きながらスマホを取り出す。ふと、電話をかける前に雑誌のバックナンバーを調べてみることにした。本当にどこにも在庫はないのだろうか。

雑誌の名前、3月号、バックナンバーで検索するとアマゾンがヒットした。

「残り16点ご注文はお早めに」

あった。これだけ在庫があれば確実に手に入るだろう。しかも2~3日以内に。

電話をする必要はなくなった。ギフトラッピングを追加してメッセージを添えた。


かなちゃんお誕生日おめでとう!

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― 新着の感想 ―
[一言] 本当にありそうな話ですね。ハッピーエンドでほっこりしました。
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