漫画転生!
人生とは実に不思議なものである。
きっと、生きている内はこんな事は思わなかったであろう。しかし、こうなってしまってはこんな風に悟りを開いたようなセリフを吐いたとしても不思議ではなかろう。
つまりは…
俺は死んだのである
だが、まあ死んだ事をいきなり自覚した訳では無かった。なら何故死んだか分かるって?それは少し前に遡る…………
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「あの…」
何処どこかから声が聞こえる。女性の声だ…
「…聞こえてますか?」
もしかして俺に話しかけているのだろうか?だとしたら返事をしなければ…
「ちょっと、いい加減に起きてくださいよ〜」
まあそう急かすなよ、俺は朝に弱いんだ… というか朝なのだろうか?
「死んでるんですか〜?」
おいおい勝手に殺すなよ、今起きるから…
「て、既すでに死んでましたね笑」
「……………………は?」
『は?』その一言が、俺がその人物に発した最初の言葉であった。
「やっと起きましたね!二度寝ならぬ二度死にかと思いましたよ〜!」
満面の笑みでその人物はそう言った。その笑みからは考えられないような物騒な事を言っている自覚はあるのだろうか?というか二度死にって何だ⁈
それにしても……おかしい、何かおかしい……
何がおかしいのか?簡単に言うと笑っているのは分かるのだが、その人物の顔がうまく認識出来ないのである。
神々しさというか…モザイクというか…とにかく素顔が分からない状態なのである。
「あんた、誰なんだ?死んだって…何かのドッキリか?そもそも…」
そう言いつつ、辺りを見渡すが…やはり…
「ここはどこなんだ⁈」
知らない場所であった。見たことなど一度も無いと断言出来よう。何故なら…そこは、ただただ白い空間が広がっているようにしか見えなかったからだ。
俺の記憶にこんな場所に来た覚えは無い。
というか…
そこまで思った時点で何か違和感を覚える…
「ちょっと待って下さいよ〜順を追って説明致しますから〜」
性別も判別出来ないが、声からして女性であろうその人物は少し気だるそうにそう言うと自分の胸の前に手をおき、こう言った。
「まず……私は神様です…テヘッ☆」
は?
「そしてあなたは死にました。ドッキリでも何でも無く普通に」
は?
「えーと?あとは場所でしたっけ?まあ、簡単に言うとここは死後の世界というやつですね〜」
はぇ?
「ちゃんと全部答えましたよ〜?これでオッケーですよね⁈」
いや、全くオッケーでも何でも無いのだが…とりあえずこれだけは言っておこう。
「すまん、良い精神科の病院は知らないんだ自分で調べてくれ」
いや、待てよ…精神科…?…何だこの違和感は…まただ、また何かに違和感を感じる…
「いや〜そりゃ病院知らないのも無理ないですよ〜…ってか誰が頭の可哀想な子ですか!誰が!」
頭の可哀想な子とは言ってないのだが…しかし
「なあ、知らないのも無理ないってどういう意味だ?それってまさか…」
そう、それこそが違和感の理由であった。つまりは
「まあ何というかですね〜…今、あなたの前世の記憶はほとんど無いという事です」
記憶喪失である。
「まあ、日常的な事やこれから必要な記憶は残ってはいるわけですがね〜?まあ結構消されてますよね!」
記憶を消した?誰がそんな事!
「まあ、消したのは私ですけれども!笑」
お前かよ!
「何で、そんな事を⁈」
俺は神と名乗る人物に一歩近づく
「それはですね〜」
あちらも一歩近づいてくる
「あなたには、ある漫画の世界に行ってもらわなければならないからです!」
「は?」
漫画?こいつは何を言っているんだ?
いや、まあ漫画という物を覚えていない訳ではない。しかし、漫画の中に人が入れるはずが無いだろう?………だが
「神の力でって事か?」
こいつが本物の神ならそれ位出来てしまう気がする。本物の神ならではあるが
「おお〜物分りが良いですね!その通りです。私があなたを漫画の世界に転生させてあげるんです!」
この流れ…知ってるぞ、これは異世界転生というやつではないのか?主人公になれるやつなんではないのか⁈
記憶に残っている漫画の内容もそんな感じであった為イメージはしやすかった。
そう思ってくると、少し夢が膨らんでくる。
「ま、漫画の世界に転生ったってこれも何かの冗談なんかじゃないのか⁈」
少し期待はあるにせよ、これで(ドッキリ大成功!)の看板を持って扉から入ってくる人がいたら死ぬほど恥ずかしいのも事実…… もはや、死んでいるらしいが
「あなたは理解力はあるのに疑り深いですね〜…ま、理解力に関しては都合いい記憶が残ってるからってとこもあるんですが…まあ疑いながらでいいんで話を聞いてください」
やはり、何かのドッキリ企画なのでは無いかという疑いは晴れないがとりあえず聞くだけは聞くべきであろう
「分かった、とりあえず話を聞かせてくれ」
「そうこなくては!」
そう言うと彼女は先ほどよりは真剣な面持ちで話し始めた。(依然として顔は上手く認識出来ないのだが)
「あなたには、ある漫画において重要な役割を担ってもらいます」
「ある漫画というのは具体的にはどういったもの何だ?」
そう言うと突如として俺の前に1冊の本が現れた
「っ⁈」
急な出来事に驚きを隠せないが、恐る恐るその本を見てみる
タイトルは…
「『アビリティジェネレーション』?」
「はい!まあどんなものかは読んでもらえば何となく分かるとは思うんですが、簡単に言うと能力系学園バトルラブコメ漫画です。始りとしては主人公が高校1年生になり学校に通うところから、となってま〜〜す」
「能力系学園バトルラブコメ漫画…?とりあえず、読んでみてもいいか?」
と、少し緊張しながら聞いてみる。
それはそうだ、どこからともなく現れた異様な書物を読もうとしているのだから
「いいですよ〜、てかそのために出したんですしね〜」
「お、おう」
やはり、こいつが出したんだな…
これも神の力というやつなのか?
そんな事を思いながら俺はその漫画の1ページ目をめくった
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ーーーそれからしばらくして、俺はその漫画を読み終えた。
1時間もかかりはしなかったと思うがこれから自分が行くかもしれない世界だ、やはり真剣に読んでしまう
「とりあえず、読み終わったぞ?」
「え?ふぁぁあ〜、どうでした?」
少し、欠伸混じりな質問なところを見るに、こいつは俺が読んでるときに昼寝でもしていたのだろうか?
「ああ、何というか内容はともかく世界観は俺的にも好きだった。というか何か懐かしさを感じる作品だったよ」
「なるほど、なるほど〜……ではその世界にレッツゴー!」
「待て待て!寝起きだからか?適当になってきてるぞ!もっとちゃんと説明をしてくれ!」
「説明って…何のですか〜?てか、寝てませんよぉぉ〜…ふぁぁ〜」
『ふぁぁ〜』じゃねえ!完璧寝てただろ!どんだけ寝起き適当何だこいつは!
「俺が聞いてるのは!どのキャラに転生して、何をするかってことだ!」
少し声を荒げながら俺は言った。すると
「あなたのキャラはその漫画にはいませんよ?」
「は?じゃあ何だ?2巻から出てくるキャラってことか?」
「いえいえ、あなたになってもらうのは主人公のクラスメイトで友達Aです」
「は?」
「主人公の友達Aです」
「いや、そこが聞こえなかったわけじゃ無くてどういうことだ?って意味の『は?』だ!」
「あー……何というかその漫画ってヒロインはいるけど主人公の友達ってあんまいないんですよね〜なんで、その友達枠になってほしいんですよ〜〜」
正直、意味がよく分からなかった。
「主人公では無いんだな?」
「?そうですよ?主人公の友達です。ん?あ…!あれれ〜〜〜?もしかして主人公になれるとか思ってました〜?クスッ笑」
「この状況的には…そういう感じかなぁと…は」
「いやいや〜〜あなたの転生先は友達Aですよ〜?クスッ…ふふふ」
「な?え?あ…あ…ぁぁぐ…」
ぐ………ぐあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!
恥ずかしいいい!!!!!!
勝手に主人公になるものだと!いや完璧には思っては無かったんだよ?けど期待はしちゃうじゃねーかよぉ!!
俺は頭を抱えてその場に座りこむ
「ふふふ…主人公…ふふふギャハハハ笑笑」
くそ…!めっちゃくちゃ笑ってやがる!
「あーーー!!もういいよ!勘違いしちまったよ!チキショウ!んで⁈その俺がやる友達Aは何をするキャラなんだよ⁈」
わざと大きな声を出して恥ずかしさを紛らわす
「あひひひひ笑笑…ふーふー…あ〜笑ったぁ、えっと〜友達Aの役割はですね〜まあ簡単に言うと主人公の補佐ですかね!」
ようやく笑い終えたか…危うく羞恥で死ぬところだった………死んでるらしいが
「んで?具体的にはどうすればいい?」
「まあ、主人公が敵に遭遇したら〜共に戦い?恋愛事情で困っていたら〜声をかける、みたいな〜〜〜感じですね!」
「つまりは、主人公に都合のいいように動けってことか?」
「まあそういう感じです〜。ただ主人公にも運命的に都合よく世界を動かせる謎のパワーがあるので、まあ気楽〜にやってください」
「そのパワーの名称は?」
「御都合主義です!」
ああ、だと思った…
記憶にあるどの漫画でもやはりそういうものは存在していたので何となく予想は出来た
「んで?俺が友達役をすると何が起きるんだ?俺には何の利益が?」
そうだ、話に流されてしまっていたがそもそも俺に何の得があって漫画の世界に行かなくてはならないんだ?
「あなたは物語の最終局面で必ず役に立ちます。なのでこの物語には必要不可欠なんです。」
少し真面目な口調なところから察するに重要なことなのだろう
「ちなみに、見事に物語を完結させられたなら……」
とまで言って止まってしまった。どうやら何かに悩んでいるらしい
「ん〜ほぅしゅぅ……なににしよぉ〜〜」
「もしかして、報酬をいま決めてたり……?」
「い、嫌だなぁ!そんなのもう決まってるに決まってるじゃじゃ無いですか〜!」
口調が崩れたし、多分決めていなかったのだろう…
「えっと、あっと……あ!」
思いついたらしい…
「何でも1つ願いを叶えて差し上げましょう!」
何て、王道な…
しかし、素晴らしい好条件である。何だったら記憶を取り戻して生き返ることも出来るのだから
「本当に?」
「本当です!」
「神様に二言は?」
「ありません!」
そこまで、断言されたならばもう断る理由も…まあ、なかろう
「だったら…いいかもしれないなあ…まあ、不安がないわけじゃないが悪い話じゃない…よし…!転生してやろうじゃねぇか!」
俺は力強くそう言いニッと笑う
「やっと決断してくれましたか〜…では!転生も決まったところであなたには必要な能力を授けま〜す!」
「能力?」
少し不思議に思ったが、能力系漫画に転生するのだから、貰える能力があっても不思議では無いのかもしれない。実際、転生したキャラクターというのは神から授かりし強い能力を持っているものだ
まあ、そいつらは主人公だが…
「あなたに与える能力それはーー」