脆く容易く
気絶して倒れ伏していた少女の1人が意識を取り戻した。
近くには自分と同じ姿形の少女が2人とも気絶して寝ていた。
気絶した2人の身体に触れ、何も異常が無い事に安心したのか、少女は安堵のため息を吐いた。
『あら、起きたの?』
その声に少女は動きを止めた。
そして声が聞こえた方角に身体をゆっくりと向けた。
そこには鎧が仁王立ちで部屋の出口を陣取っていた。
身動き1つせずに立ち止まる鎧に少女は自身を落ち着かせるように深呼吸をしてその複眼を鎧に定めた。
『"ホロウ"もまた動かなくなっちゃったし、あたし、今は暇なの。
名前はえーっと・・・リアだったわね。
あたしの話相手をしなさい』
クッキーはいつも"ホロウ"に対するような無邪気な声ではなく、冷たく命令口調で男がリアと名付けた少女に語りかけた。
いや、命令した。
『今は、"ホロウ"が仲間として認識しているから見逃しているけど、本当は殺すべき対象だからね』
まず最初にクッキーはリアに釘を刺した。
本来は敵である、倒すべき対象であると。
露骨に警戒心を感じさせる言葉だった。
「ぉぉ、う」
リアはたどたどしく、言葉とは言い難い声を発した。
『なに?
言葉もまともに喋れないの?
せっかく"ホロウ"が名付けてあげたのに。
知能はそこらの邪悪な存在よりも高くなっているのでしょう』
クッキーはリアの言葉に即座に答えた。
それは相手を見下し嘲る言葉だった。
「ぅ、いぃ」
『ふふ、なにを言いたいのか、ま〜ったく分からないわ!
あはは!』
愉快そうにクッキーは嗤う。
リアの言葉ではない、声に優越感や見下しなど様々な感情が含まれていた。
「いあ!」
『な〜に?
おバカちゃん。
なにか言いたい事でもあるの?
なら早く言ってみなさいよ!
ふふ、そんな事もできないの!』
クッキーはリアをバカにするように言い放つ。
そしてさらにクッキーは叫んだ。
『"ホロウ"に選ばれたのに!
なんの役にも立たない荷物になるだけの存在!
いつかは"ホロウ"の足枷になるぐらいなら!
あたしに!
あなた達を殺す手段があれば、あたしは・・・』
それはクッキー自身が思っていた不満。
それをリアに向かって愚痴として叫んでいるのだ。
「・・・」
リアは黙ったままクッキーの言葉を聞く事に徹した。
それはクッキーの言葉という音を正確に聞き取るようであった。
さらにクッキーの愚痴や文句は続いた。
しかし、その多くは"ホロウ"や現状にも向いていた。
それだけ今までに溜まったものがあったのだろう。
人によっては拷問のような時間。
関係無い相手への文句をひたすら聞く。
しかも、罵声に怒声に金切り声。
聞いている方が疲れる。
しかし、リアはクッキーの言葉を聞き逃さないように、しっかりと聞いた。
そしてリアの中でこの工程が何かに結び付いたのだろう。
『今じゃ、世界から逃亡生活を強いられちゃうし。
"ホロウ"の情報を見せちゃったのは失敗だったけど。
うぅ、こんな事になるなら断っておけば・・・』
「おまえ、さま」
リアが話し出した。
たどたどしくはあれど、立派に話していた。
『なによ?
言いたい事でも・・・
え、あれ?』
クッキーも最初はリアに噛みつこうとしたが、リアの言葉に疑問を抱いた。
先ほどまで言葉にもなっていなかったリアの言葉に驚いているのだろう。
思考が追いついておらず、最後に言った言葉を繰り返していた。
「おまえさま。
りあは、ことばを、おぼえた」
『な、なんで!?
え、覚えた?
でもさっきまでちゃんと言えてなかったよね!?』
「おまえさまの、おかげで、おぼえた。
ありがと、ございます」
『・・・おまえさまじゃない!
クッキー!
あたしの名前はクッキーなの!』
そこに噛み付くのか、クッキーよ。
『ふ、ふん!
け、計画通りよ!
言葉を覚えれば"ホロウ"の指示も伝わり易くなるし。
"ホロウ"のためだもん』
思いも寄らない結果に結び付いた事に動揺して見栄を張るクッキー。
どこか、嬉しそうな雰囲気である。
自分が褒められたからだろうか?
「もっと、ことば、おしえてほしい」
『え!
いや、でも邪悪な存在に物を教える訳には・・・
あ、もう言葉を教えちゃってた。
うぅ、いや、でも・・・』
やはり、クッキーは邪悪な存在という彼女らの手助けをしたくないという思いがあるようだ。
しかし、一度褒めてくれた相手に何かをしてあげたいとも思っているのだろう。
2つの感情に板挟みになり葛藤するクッキー。
「ほろうさまの、ために、がんばる」
『そ、そうよね!
"ホロウ"のためにもなるもんね!
なら、早速始めるわよ!
そこの気絶している2人も叩き起こしなさい!
3人まとめて教育してやるんだから!』
リアの言葉に逃げ道を見出したクッキーはあっさりと少女達を教育する方に傾いたのであった。




