男の役目
「旦那様、ご就寝中に失礼いたします」
男の部屋に入る合図をした後、実用性を重視したような格好の若い侍女が入って来た。
男はベッドの上でモソモソと動いて上体を起こして顔を侍女の方に上げた。
その顔には起きてすぐの寝ぼけた間の抜けた表情だった。
その目の下には大きなクマが出来ている。
男がパソコンから離れて眠りに入ってからまだそれほどの時間は経っていない。
男はただ眠いのだ。
大きな欠伸をして目をショボショボさせている。
「非常に申し上げ難い事なのですが、お客様がお見えになっております。
どうされますか?」
侍女は男にそう告げた。
その男にボヤけていた意識が一気に覚醒したらしい。
また、その顔が大きく引きつり始めた。
流石の男でも、来客が予定されている日の前日まで徹夜してゲームをするほど馬鹿ではない。
それぐらいの分別はあるのだ。
また、この館の者が男に伝え忘れるという愚業を犯す者は存在しない。
男にはもったいないような有能な者ばかりなのだから。
という事は突然の来客か緊急な来客のどちらかだ。
男の身内ならばわざわざ、侍女が伝えには来ない。
必然的に外部の人間になる。
さらに男の、いや、男が結婚している女性の社会的地位は世界の要人レベルで高いのだ。
アポも無しに館に来ると下手すれば国が動き出す。
それが無いという事は、この国の要人かそれに似た人物が来た事に他ならない。
そんな相手など男には荷が重過ぎる。
現実世界のコミュニーケーション能力0の男には客を歓待するなど無理な話だ。
侍女もそんなことを最初から男に期待していなかったのだろう。
「では、準備しておいた替玉を利用なさいますか?」
侍女の救いの言葉に男は首が取れるのではと思うほど無言で何度も縦に振った。
そこまで人に会うのは嫌なのか。
そして、替玉を準備してあるとはどういう事なのだろうか?
「では、旦那様。
私はこれで失礼いたします。
旦那様はいつも通りにお願い致します」
侍女は一礼して男の部屋から静かに出て行った。
男は慌ててパソコンを立ち上げ何かの支度を始めた。
パソコンに様々な機器を繋げていった。
男は素早く何かを入力すると、天井からスクリーンが降りてきた。
そこにはある部屋を様々な場所から撮っている映像が映されていた。
『初めまして、東博士。
高名な博士にお会い出来て光栄です』
『こちらも、光栄です。
閣下』
その映像では、2人の人物が映っていた。
1人はシンプルなダークスーツ姿のいかにも国のお偉方です、という雰囲気を感じさせる還暦過ぎだと思われる男。
もう1人は驚くべき事に男と瓜二つの姿だった。
違う点は服装だけだろうか?
パジャマ姿の男とは違い真っ白な白衣を着込んでいた。
男は2人の談笑している様子を見ながら、会話を聞きながらパソコンを操作していく。
『きゅーちゃん!
お客さんが来たんだって?
秘書の中丸さんから聞いたよ。
もう、あの国はせっかちなんだから。
発表会は来月しますって連絡したのに・・・』
パソコンには男に抱きついていた金髪の女の顔が映された。
どうやら、男は女に連絡を取っていたようだ。
『きゅーちゃん。
会話は録音しといて。
後で使うから』
男は女の言葉に従いパソコンの操作をし出した。




