蛹の中から
扉を開け、先の部屋へと進んだ鎧。
『ジェスパイス』やホールメンギルド長が慌てて扉の方へ駆け寄るも無情に扉は閉まっていった。
その先には『ジェスパイス』のノートンが予想していたような虫の群勢は居なかった。
しかし、壁や床、天井は穴だらけで中央にそれがあった。
ただ、ただ、巨大な蛹のような物が床や壁、天井から柱で支えられていたのだ。
『"ホロウ"まだAPが少しも回復してないよ!?
このままじゃ戦えないよ!』
クッキーが慌てたように鎧を止めるが男はクッキーの言葉を無視して先へと進んだ。
鎧が近寄っても何も反応が無い巨大な蛹のような物。
『何もしてこないね。
なんでだろ?』
クッキーもこの状況をおかしいと感じたのだろう。
鎧に尋ねるが鎧は歩き続けた。
男は一番近くにあった蛹を支えている柱に攻撃を始めた。
拳を振りかぶって殴りつける。
どうやら、男は蛹を支えている柱を壊し、蛹を落とそうと考えているらしい。
本当は【スマッシュ】を使って叩き壊したいのだが、APが回復していない為、通常攻撃で作業を続ける。
一度、殴る度に柱からは砕けるような大きな音が鳴り、実際に柱にヒビが入る。
『えっと、"ホロウ"APが回復したから【スマッシュ】を打てるよ?
使わないの?』
クッキーの提案にも耳を貸さずそれを続ける事、数十分。
ようやく、一本の柱の根元が砕け蛹から生えているだけの状態になった。
男は淡々と柱を壊していった。
その間に『ジェスパイス』やホールメンギルド長が扉を開け入ってきても良さそうなのだが、一向に来ない。
いや、鎧が通った扉以外にも2つの扉があった。
その片方の扉から鎧とそっくりな見た目の土くれの鎧が入って来た。
『あれって・・・
【ナインスシンボル】で作った"ホロウ"の分身?
なんでこんな所に?
通路の方に行ってたはずなのに』
土くれの鎧は柱を壊し続けている鎧に近付いって行った。
ー【コマンド】を入手したー
鎧が新たなアビリティを得ると土くれの鎧も鎧と同じように柱に攻撃をし始めた。
それから更に一時間が経った頃、別の扉から土くれの鎧が出て来た。
こちらも柱を壊している鎧に近寄って行った。
ー【コンフューズ】を入手したー
そして使命を果たしたかのように土くれの鎧はもう一体の土くれの鎧の方に近付いて行った。
『もしかして最初の大部屋から分かれた通路もこの部屋に続いてたって事なの?
"ホロウ"は分身にダンジョンから出るアビリティを探させていたんだね!』
黙々と柱を壊し続ける鎧達。
すると複数の何かが崩れるような音が響いた。
蛹も自分を支えてくれる柱の根元を壊され、自重を支えきれなくなったのだろう。
天井や壁の柱が折れて今にも落ちてくる所だった。
『"ホロウ"!
落ちてる!
落ちてくるよ!!』
鎧は【ダッシュ】で壁際まで避難したが、土くれの鎧達は逃げようとせずに、柱をまだ壊そうとしていた。
そして上から落ちてくる蛹によって見えなくなった。
そのまま蛹に押し潰されてしまったのだろう。
落下した後も動かない蛹。
鎧はその巨大な蛹へと近付いて行った。
『え?
APはどれくらい回復したのかって?
今は・・・38まで回復してるよ!
あっ!
もしかして、【ギロチン】を使うの?』
クッキーの予想は当たっていた。
男は新たに得た即死効果のあるアビリティ【ギロチン】を試したいと思ったのだ。
心配なのは、【ギロチン】の斬撃を放つという部分。
鎧は丸腰である。
しかし、【ファング】という牙が無くとも発動したアビリティの例もある。
ここで試し打ちをしようと考えているのだろう。
鎧がゆっくりと腕を引いた。
【ギロチン】を発動させたのだろう。
そして一度止まり、ゆっくりと腕を動かし始めた。
段々と加速していき、蛹に指先が当たり通り抜ける時には残像さえ見えるほどの速さだった。
そして、一息も吐かずに蛹が光の粒子となって弾けた。
光の粒子は部屋全体に広がりながらも鎧へと吸い込まれていった。
ー【クイーンズ】を入手したー
ーミッション《クイーンズを倒せ!》クリア
ークリア報酬・10000パル
【ネストオーラ】
部屋に散らばった全ての光の粒子が鎧に吸い込まれた。
そして、蛹の居た中心地に人影が倒れて居た。
『え?
子供?
とにかく"ホロウ"!
あの子達に近付いてみよう!』
クッキーの言葉に男は素直に従い、子供らしき者達に近寄って行った。
それは3人共が似たような風貌の子供と大人の中間の全裸の少女達だった。
しかし、普通の人ではないのだろう。
3人共、頭から髪とはまた違った物が生え、脇の下から一対の腕が生えていた。
さらに、背には虫の羽のような物が折りたたまれていた。
『あれ?
邪悪な存在の気配がするよ?
・・・!
"ホロウ"敵だよ』
幼い女の子の雰囲気からまるで冷酷な別人のような雰囲気で冷たく言い放ったクッキー。
鎧は静かに拳を振り上げた。
男はその様子を画面越しに淡々と見ていた。
「待ちなさい、ホロウ!!」
鎧を強く制止する言葉が聞こえた。
画面は鎧が入って来た扉の方に移った。
そこにはホールメンギルド長と『ジェスパイス』の面々が居た。
どうやら、扉を開けて入って来たようだ。
そして、拳を上げた鎧の下に居る何かに気が付いたのだろう。
ホールメンギルド長の表情は凍るように冷めきっていた。




