仕事と家庭とどっちが大事なの?
久しぶりに屋敷に戻ると、領地にいる息子からの手紙が届いていた。
届いていたといっても自分が屋敷に戻るのは1ヶ月ぶりだ。
手紙が届いてからどのくらい経っているのかは分からない。
読んでみればわかることだろう。
外套を外し、簡単な食事の用意を命じると手紙をもって書斎に向かった。
留守中も手を抜くことなく清掃されている書斎で椅子に座ると、手紙を開く。
「な!」
思わず声をあげてしまっても仕方のない内容が書かれていた。
俺への縁切りの要望書、いや、それは既に報告書だった。
父上がお仕事に誠意をもって励んでおられるのも、そのお陰で自分達が生活できているのも承知しております。
しかし、病に倒れた母を放置し、見舞いの言葉ひとつない。
娘の社交界デビューに気が付きもしない。
私の騎士団予備学校の卒業にも何ひとつお言葉もいただけない。
申し訳ありません、心弱い私たちには耐えられそうにありません。
幸い、母のもつ、子爵位を継ぐことを陛下にお認めいただけましたので、領地を移ります。
子爵家の領地は小さいながらも王都に近く、母の病にも王都から優秀な医師を呼ぶこともできるでしょう。
妹の社交界デビューの準備も不具合なくできそうです。
父上が決められ、一度もお会いしたことのない妹の婚約者とも先日やっと連絡がとれました。
伯爵家の娘でなくなってもかまわないそうです。
お優しい方でよかった。
ちなみに私の方は伯爵を継がない男には嫁げないと破談になりました。
伯爵家の領地については優秀な家臣たちでやっていけるでしょう。もともと父上がお帰りにならなくなって
7年、その間には私が騎士団予備学校にいっている4年も含まれます。
王都の父上からの指示で領地は家臣だけで守ってこれたようなものですから。
私は来月から王都で第三騎士団に入ることに決まりました。
お顔をあわせることもございましょう。
その節は近況などをご報告させて頂きます。
なんだこれ?
確かこの間もらった息子からの手紙はもっとつたない文字で
『ちちうえ、おげんきですか?ぼくたちはげんきです』
みたいなほほえましいものだったような・・・
騎士団予備学校を卒業?あれ?あそこは12歳から4年だろう?
え?長男、もう16歳?
社交界デビューって14歳・・・あああ!
というか、母上の病気ってなんだ!そんなの聞いてないぞ。
陛下が認めたってなんだそれ?
陛下、そんなこと一言もいってなかったぞ。
手紙の日付をみれば、1ヶ月前になっている。
こんな大事な手紙なら職場に送ってこいよ・・・
俺は執事を大声でよびつつどうやって家族を取り戻そうかと思案した。