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すき通るような青い空。
その下にある丘でぼーっと空を見上げている私。
私には幼い頃の記憶がない。
思いだそうとすると頭が混乱して、何がなんだかわからなくなって、そしていつもの私になってしまう。
私の首にあるこのあざは、いったい何を表しているのだろうか。
私の失われた記憶に何か関係あるのだろうか。
私には本当の家族がいない。
私の家は孤児院という名の、孤独な子どもが集まる場所。
いつからここに住んでいるのか分からない。
冷酷な大人に聞いても時間の無駄。
きっと首にあるあざと関係あるのだろう。
あの人たちは知っていて黙っているのだろうか。
私には本当の友達がいない。
しかし昔、たった一人の友達がいた気がする。
名前は覚えていない。
どんな子だったのかも覚えていない。
でも一つだけ覚えていることがある。
あの子の悲しそうな顔だ。
なぜあんな顔をしていたのだろう。
それとあの子と首にあるあざは関係があるのだろうか…?
私は旅に出た。
闇に葬られた真実を求めて。
多分孤児院では今頃、「どくろの儀式」が行われているころだろう。
この儀式は、新しく入ってきた子どもたちに、とてもまぶしい光をあてて、一時間立たせるというものだ。
私も昔、これを行った。
この儀式を行う理由は分からない。
ずいぶんと長い距離を歩いた。
「どくろの儀式」について考えていた。
なぜ行うのだろう。
もしかしたら、光を当てて、記憶を消しているのかもしれない。
だとすると、なぜ記憶を消すのだろう。
あの光にはどんな秘密があるのだろう。
いつからだろう。どうしてだろう。
謎ばかりが深まってきた。
そんなことを考えているとある村についた。
孤児院からもそう遠くない村だ。
しばらく歩いていると声をかけられた。
しかも不思議なことにその人は自分の名前を知っている。
この人は失った記憶の何かを知っているのかもしれない。
その人の話を詳しく聞いてみることにした。
その人は、「あなたの家の地下へ行けばすべてがわかるわ」といった。
私の家? 孤児院?
私の心の中の疑問が通じたかのようにその人は言った。
「孤児院ではないわ。もっともっと、ずっと遠く。でも、私はこれ以上話すことができない。私の呪いをとかない限り…。」
え? 呪いって? 私の家知ってるんでしょ? 教えてよ。案内してよ。 呪いなんて関係ない。
たくさんの疑問が浮かんできて、頭の中が混乱してきた。
「呪いって何?」と質問しようとしたら、その人は消えていた。
あれっ? どこに行ったのだろう。さっきまでいたはずなのに。
仕方ない。他をあたるか。
また別の村人から声をかけられた。
その人も自分の名前を知っていた。
その他の人もみんな自分の名前を知っていた。
そしてみんな「呪い」という言葉をそろって言っている。
「呪い」とは何のことだろう?
なんでみんな自分の名前を知っているのだろう。
突然呼び掛けられた。
振り向くと、そこには長い髪を束ねた少女がいた。
私はこの少女を知っているような気がする。
…いや、知っている。
私はその名前を呼ぼうとした。
しかし、わからない。
その子の名前が…わからない。
その子は寂しげな表情を浮かべた。
なぜ私は彼女の名前を覚えていないのだろう。
友達の名前を覚えていないだなんて、彼女が聞いたらどう思うのだろう。
絶対傷つくだろう。
でも、「知らない」ということで名前を聞けば、教えてくれるのではないか。
そんなことを考えていると、彼女にもう一度呼ばれた。
呼ばれて彼女の方を見た。
そして彼女は「久しぶり!」と言った。
でも名前は分からない。
「ほら、私だよ」
あぁ!! 思い出した!!
それから彼女との思い出がこみ上げきた。
一緒に遊んだこと、ケンカしたこと、共に笑ったこと…。
思わず涙が出た。
そして自分も言った。
「久しぶりだね。」と。
少女は「時間がないの」といった。
私はその時気づいた。
彼女は透けていた。
半透明だったのだ。
言葉を失っている彼女は話を続けた。
「あなたは、ここからまっすぐ行くと着く、大きな平原に行かなくてはなりません。そこに行けば、あなたの行くべき道がわか…」
言葉を最後まで言い終わらないうちに、彼女は煙のように消えてしまった。
彼女が消えてしまったところには、一筋の光が降り注いでいた。
その景色はキレイだった。
人が消えるというのは、こういうことなのだろう。
一筋の光が降り注ぎ、キレイな景色を、消えた人が作り出す。
この世で一番きれいな景色なのだろう。
彼女が言っていた平原へ、涙をこらえて行くことにした。