先輩に聞いてみよう
田河俊樹は高校の先輩で今は帝都工科大学大学院に通っている院生だ。だから俺と香奈とは顔見知りだった・・・幼い頃の香奈をいつもカナッペと呼んでいたからだ。それだけ香奈のことを知っていたわけだ。
それにしたって先輩も俺が引越しする日付を勘違いしていたから今日来てくれて助かったといえる。もし昨日来ていたら違った展開になっていたのは間違いないからだ。
「迫水、お前に頼んだバイトの賃金と餞別を持ってきたんだが、お前なんかすごいものを持っているじゃないか? これって最新鋭メイドロボ”人形娘アドバンス”じゃないかよ!」先輩はそういきまいていた。話に寄れば、一体が高級外車一台と同じ価格で販売されているとのことだった。
「先輩、実はこの中に俺の幼馴染の沢村香奈が閉じ込められているようなんですよ。そう主張しているのですが・・・」俺は今までの顛末を話し始めた。その言葉を聞きながら先輩は香奈の体をなめるように観察していたが、こころなしか香奈ははずかしそうだった。
「そうか、この中に生身の人間が閉じ込められているというのか・・・しかも香奈ちゃんなのか、本当に?」先輩はまだ半信半疑だった。すると香奈は筆談を始めた。
”お久しぶりです田河さん。私、香奈よ。こんな姿をしていても人間よ” それを見た先輩は少し黙り込んでしまった。そして何かを思い出すかのように言い始めた。
「実は、人形娘シリーズには変な噂があって・・・カスタマーバージョンの中に人間の娘を素体にした一種の改造人間があるというもがあって・・・要はガイノイドではなくサイボーグというわけで、都市伝説だと思っていたんだが・・・」
「それじゃあ先輩は何か人形娘のことをご存知なんですか? 知っている事を教えてください」俺は先輩に詰め寄った。
「いや、俺も噂しか知らないよ。だいたい人一人が行方不明になったら探す人だって・・・」そこまで言ったところで先輩は気付いた。香奈にはもう両親がいない事を! 彼女がいなくなっても探す家族がいないことを! 実際、俺と香奈は疎遠になっていたから、もし昨日会えなかったら一生香奈が失踪したことに気が付かなかったかもいれなかった。
「もしかすると身寄りのない女性などを改造していたかもしれないな。でも、証拠はないからな。それに警察に今行ったとしても遺失物扱いされかねないなあ。世間的には人形娘はメイドロボとの認識だし。ところでお前、香奈ちゃんをどうするつもりだ? これから愛媛に帰るんだろ」
「一緒に帰るつもりだ! とりあえず田舎で匿うつもりだ。でも長くは匿えないし、それに俺も香奈を元の姿に戻したいし・・・」
「そうか、それはいいかもな。とりあえず東京にいたら危険だろうし・・・俺も協力してやるぞ! まあ、大学院生に出来る事は限られているが、こっちも協力してくれそうな人を探してやるから、お前たちは愛媛で潜伏しろ!」
そういって田河先輩は言ってくれたが、東京を出るという選択が間違いじゃなかったことを知ったのはかなり後のことだった。