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人形娘香奈同居日記  作者: ジャン・幸田
この町を脱出して
21/21

人形娘、夢を見る

 わたしは夢を見ていた。人形娘に改造されていても夢はみれるのだと分かったのだけでもうれしかった。すくなくとも恐れていた今の自我はただのプログラムではないという証左だからだ。


 わたしは両親のお墓詣りをしていた。その墓は先祖代々の墓地にあって、急峻な山村の林の中にあった。ただ、両親のお墓は生前営んでいた事業の整理で財産が殆ど残らず、立派な墓を作ることが出来ず、簡単なものだった。


 その時の姿は、白いワンピースに麦わら帽子、そしてショートカットの髪に丸顔で細い眉毛、そして白い素肌・・・あれ、わたし人形ではないわ! あまり美人ではないけどそれなりにかわいいと言われていた時の姿だ。


 少しだけうれしくなったわたしはそのまま坂道を下って行った。そして父の実家の敷地に入った。そこは廃屋になっているはずなのに、なぜか人の気配がした。不審に思ったわたしは家に入ってみた。そこは懐かしい光景が広がっていた。


 幼い頃に亡くなった祖母が食事の用意をしていた。そして仏壇には多くのご先祖様に供えた食事が並んでいた。この光景はお盆の光景だった。でもいまのわたしの姿は大人になっているはずと思ったら、いつの間にか小学生ぐらいに背が縮んでいた。


 「香奈、お前どこにいっていたんだよさ。さあ、仏様に手を合わしんさいや。それが終わったらみんなで食べようや」


 祖母に促されて手を合わせていると後ろから近づく気配がしたので、振り返ってみると両親だった! でもさっきお墓参りにいったのではないの?


 「香奈、お利口さんよね。みんなで食事を頂きましょうね」


 それは母だったが、姿は若かった。って、事はタイムスリップしているって夢なのかなそれとも?


 そう思ってはいたが、普通に食事をすることにした。それにしても夢の中で夢とわかっているのも変だった。でも言い出すのは忍びなかった。だって家族に夢の中で再会したのだから。


 「ところで香奈? お前の将来の夢ってモデルになることだったんだろ? 何か努力しているんかい? それとも実現した?」


 父が唐突な事を言い出した。確か小学生の頃に言った事があったけど、背も高くないし愛媛の田舎なので、どうすればいいのかわからないので諦めていた。


 「それはねえ、実現しなかったわ。でも・・・」


 ここまで言ったところで人形娘ってなんだろうと思った。あれって人の身体を材料にしたものだから、なんていえばいいんだろう?


 「香奈、私たちがもし死んだあとの事だけど、お前の事が心配なんだ」父が唐突に切り出した。


 「父さん、なんでそんなことを言うの? まだ、そんな歳じゃないのに」


 「いやいや、例えばの話だ。お前は一人っ子だろ。だから頼る兄弟もいないし、それにうちの会社も経営が苦しいだろ。まあ、出来ればお前を大学に上がらせてやるまでは頑張りたいんだがのう。ところで人形娘って言葉しっているか?」


 「ええ!」


 そういった瞬間わたしの身体は大きく成長し、大人の女性になったかと思うと・・・あっというまに人形のようになってしまった。そう現在の人形娘に戻ってしまったのだ。当然、しゃべることが出来なくなってしまった。


 「そうよな。それが現在のお前の姿さ。わしも母さんもばあさんもこの世のものではなくなっているから、どうすることも出来ない。だけど、ひとつだけは言っておく。信ずれば自ずと道は開くものだ。

 だから元の姿に戻れるかもしれないぞ、諦めなければ。でも気を付けてほしいのは智樹君のことだ。あまり危険な目に合わせないようにしてくれよ。一文字食堂の跡取りなんだからな。それと、お前に危険を与える奴だけど、それは・・・」


 そこまで父が言いかけたときに目が覚めてしまった。大事な会話が途中になったのと、もっと母さんとも話をしたかったのにと残念に思わずにはいかなかった。


 わたしは車中を見回していた。車内は高速道路の路面を疾走する振動と乗客の寝息がかすかに聞こえていた。また運転席付近の電光式時計は午前5時前をさし示していた。

 もうすぐ瀬戸大橋を渡るころかな、そうすれば四国に上陸だけど何年ぶりなんだろうかと考えていた。


 取りあえずわたしは南松山にある一文字食堂の迫水の家に居候することになりそうだけど、早いことこの人形娘の姿から脱出したかった。そうしなければ人間として幸せになれないからだ。このまま一生人形として過ごすわけにはいかないと。


 わたしは、そーと隣の席に座る智樹を見た。彼は小さな寝息を立てていた。いままでわたしは彼を男として見たことはなかった。でも、いまは彼を頼るしかなかった。


 それにしても彼と同居して何が起きるのかが不安であった。もしかするとわたしを人形にした奴らに危害を加えられるかもしれなかったからだ。おそらく愛媛に落ち延びてもわたしを連れ戻すことなど簡単な事なのかもしれなかったからだ。もし迫水の家の人たちに危険が及ぶのなら、逃げるしかないだろう。


 これから起きることを思うとわたしは胸が苦しくなった。それにこの人形の殻から抜け出すことが出来るのだろうか? それに、これから起きることは一体・・・

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