バスタ新宿
香奈は筆談でこう言った”わかりました。私の身に起きた事も、これからおきる事も書いていきます。よろしくおねがいします”と。
バスの発車時間が来るのでみんなで移動し始めた。香奈はフード付きのオーバーに防塵マスクのように大きなもの、そしてマフラーで厚着してごまかしていた。
これがまだ初春の夜だから目立たないが、夏場だったら絶対出来ないような怪しい格好だった。
新宿駅南側にあるバスタ新宿は全国各地に向かう高速バスがあるので大勢の乗客で賑わっていた。よく考えれば今は学生の春休みの週末。当然の事だった。みんな待合室まで見送ってくれた。
「それじゃあ智樹、カナッペを大切にしろよ。先生と協力して助け出す方法を探すからな」
「迫水君、香奈君のことはなんとかするから方法が見つかったら連絡するから。もしかすると愛媛に行くかもしれないから」
田河先輩と塩谷准教授と別れた俺たちは松山行きの高速夜行バスに乗車した。
「西岡雅花様は5Bですね、予約票を見せてください」
予約シートをボードを確認した高速バスの運転手に促されて香奈は予約票をプリントしたレシートを見せていた。こういった客は特段問題なければすぐに乗せてもらえるからよかった。香奈のメイド衣装などは別送したので、香奈は怪しまれない程度の紙袋を下げていた。
この日、高速バスは多客期ということで二台スタンバイしていた。俺たちは二人同じバスに乗れるようにとリクエストしたため、後から発車する二号車に乗車していた。
このとき俺が不安になっていたのは、香奈を取り戻しにヒューマン・マテリアル・カンパニーの連中が探しているのではないかと思ったからだ。後で知ったことだが本当に探し回っていたのだ。
「カズタマードール28号のヤツ、本当に松山行きに乗るというのは本当だろうか?」
「ああ、どうもヤツは自分の貯金からある程度まとまって現金を下ろしているようだから、もしかすると人を使って変装用の洋服を買っていてのっているかもしれないぞ」
「しかし本当に松山行きですか? ここは中国四国地方発着の便もありますし、それに他の地方かもしれませんよ」
「でも、反応はかすかだけどこのエリアから出ているぞ。たぶん厚着をしている乗客があやしいぞ!
おい、松山行きを見つけたらとりあえず飛び込め! 理由はそうだなあ無銭飲食でもなんでもいいがかりのようなことでもいえ! そして厚着のヤツがいたら連れ出せ! たぶん運転手も協力してくれるはずだから」
「しかし間違ったらどうするのですか?」
「そのときは買収でもしとけ! 見つけたぞ松山行きを。とりあえず先に発車する一号車に飛び込もうぜ!」
ヒューマン・マテリアル・カンパニーの追っ手が直ぐ傍に来ていた。




