カラオケボックスにて
俺たちは新宿駅にあるバスセンター近くにあるカラオケボックスにいた。ここで午後九時の出発まで待つためだ。
本当ならバスセンターそばの商店を見て回りたいところだけど、そんなことをしたら「人形娘」の製造元のヒューマン・マテリアル・カンパニーの追っ手に捕まる危険があったからだ。
「おい、迫水! お土産買ってきたぞ! それと、お前に餞別だこれは」
「田河先輩、こんなにいいのですか? ありがとうございます」
「そのかわり、カナッペを頼んだぞ。次に会うときには元の姿に戻す方法を見つけてやるからさあ」
田河先輩はそういって香奈の隣に座っていた。彼女の表情は固定化された人形の顔なので窺い知ることは出来ないが、いまは眠っているようだった。なんとなく船を漕いでいるかのようにウトウトしているみたいだったからだ。
「それにしても、カナッペ。辛くないのかな? 体が人形にされてしまって」
「それはなってみないと判らないけど・・・」
「そうそう、親御さんには連絡したのかよ迫水」
「一応、とりあえず香奈も一緒に帰郷するって。でも人形にされたことは言わなかった。だって説明できないじゃないか」
「それもそうだなあ、人形になったなんて言ったらアニメの見すぎだなんていわれかねないし」
俺は田河先輩とそんなやり取りをしたけど、香奈をこれからどうするかと言う事は全く考えていなかった。とりあえず、今は実家に帰ってから香奈を受け入れてくれるように説得するかが難題だった。
「そういえば、お前の爺さん。カナッペの親父さんと仲が良かったじゃないか。それで大人になったら二人を一緒にさせたいなどと言っていたじゃないか」
「そんなこともあった。俺の爺さんが言うには沢村の家の跡を継ぎなさいと。お前の親父のようにマスオさん状態になりなさいと。なんてね」
そういわれた事もあったけど、香奈の両親が経営していた会社は、二人が事故死したあと廃業したので跡を継ぐことはなくなっていた。俺は香奈を最低でも両親の墓参りだけでもさせたいと思っていた。その時、塩谷准教授が近づいてきた。
「そろそろ時間になりますよ、君たち。香奈さんのことだけど、わたしのコネクションを総動員して調べてもらっているからね。とりあえず香奈さんが改造されたときの状況がわかれば何とかなるかも知れないから」
「ありがとうございます先生。とりあえず香奈になにかやってもらうことがありますか?」
「そうだねえ、日々の活動記録を付けてもらえないかな。それと辛いかもしれないだろうけど、香奈さんが人形娘に改造されたときの状況を書いてもらえないかな?」
塩谷准教授がそれを言った途端、香奈が動き始めた。




