展示即売会
夏は暑い、当たり前のことなので油断してたのかもしれない。
勤め帰りのいつもの道、あの夜俺は死んだ。
「これは、冷蔵庫と申しまして中に入れた物を腐らないように保存するための箱です。何度開け閉めしても大丈夫です、このメーターが0を指すまで使えます。」
「保存の魔法と何が違うのかしら。」
「大きな違いは、スクロールや魔具の類が必要ないということです。つまり、小さなお子様でも使えます。」
ここで、扉を開けて中にある冷えたジュースを取り出して、テーブルの上にある複数のコップに中身を注ぎ見ている皆に配る。
さらに、冷凍庫の方の扉を開けて氷を取り出して配ったコップにいれていく。
「どうぞ、お召し上がりください。これは先ほどのミキサーで作りましたリンゴのジュースになります、いかがですか?。」
ここは町の集会所になる、前に売りに来たときにあたりをつけていた人々に集まってもらっての展示会になる。メインは冷蔵庫で、他にミキサーやトースターにテーブルコンロとドライヤーに洗濯機ももちろん置いてある。
洗濯機は今回低価格版で、脱水機能がないタイプも用意した約3G安い7Gで、初回チャージと洗剤付きになる。
冷蔵庫は2ドアの冷凍冷蔵庫のみにしている、まずは高価格モデルから売り込むことにした、それと今回の最量販はトースターとミキサーだ。
トースターは前回町長さんをはじめ比較的裕福な家庭を回ったときに洗濯機を買ってくれた方にはテスターと称して配ってあるので、その口コミを期待している。
ミキサーは先ほど実演をしてリンゴジュースにしたものを冷やしておいたわけだ。ミキサーだけでも売れてほしいが、こうすれば冷蔵庫も売れるかなー逆かな冷蔵庫とセットで買ってくれるかも知れない。
「冷えてて美味しいわね~。」
「本当にリンゴを飲むなんて考えたこともなかったわ。」
「リンゴはビタミンも多くお肌にもいいんですよ。」
「あら、じゃあタネさん買わないとw。」
「まぁ、シノさんもじゃなくって。」
「魔法がいらないのは助かるわね、できなくはないけど加減が難しかったり、子供には無理な物もあるし・・・」
「こっちのコンロなんかもそうね、火の加減が簡単だわ。」
「トースターは知ってるわ、これ欲しかったのよね。」
「そうそう、ナンシーの自慢を一杯聞いたわ、でもおいしいのよねぇ。」
「魔法じゃちょっとできないあの焦げ加減がねぇ。」
あら、意外なとこがうけてるなぁ・・・。
「デンキやさん、こっちの説明してもらえる?。」
「あら、私は買うからこちらを先にお願い。」
「じゃあ私も・・・」
「はい、ありがとうございます。では順番に説明させていただきます、あわせてお買い上げいただいた方は、こちらのものに・・・。」
展示販売はおおむね好評、あとはクレームにならないようにしっかり注意点や説明をくりかえす、たぶん聞いてないというから書類にサインをさせてたりもする、幸いまだこの世界にクーリングオフ制度はない。
売り切りごめんも可能だが、それはしないことにしてる。あとがなくなるからね、こんな電話もない世界でも悪い噂は広がるのが早い。
「初期保証は次回私が来るまでです、それ以降は条件がありますので、書類をお確かめください。使用目的以外での事故、故障は保証できません。」
「たとえば、どんなこと?。」
誰かが聞くので答えるのだがこれはさくらを頼んでおいた。(仕込みというやつだね。)
「回転するミキサーに手を入れる、子供を洗濯機で洗う、旦那さんの一部を冷凍して堅くして使うなどですね。」
どっと笑いが起きる、いやーねといいながら顔が笑ってない、する気だったかもしれないな。
展示即売会は盛況に終わった。
今回は都から近い(一泊二日の距離)町だったので、番頭さんも連れてきていた。今は集計中でちょっとピリピリしてたので、ロイに声をかけて馬車の荷台に入る、丁稚が2人在庫の確認やらこれからの配達の準備に追われていた。そう洗濯機や冷蔵庫はお持ち帰りが出来ないからちゃんと我々が配達して設置もするわけだ、住所を聞いて運ぶための順路も考慮した地図をすでに番頭さんが手配してある。
この世界には電気がない、電力会社も当然ない、そういう発想がそもそもないのだ。
なぜならここには魔法がある、なんでも魔法で何とかなる~でも使える人が限られている、そこに需要と供給が起こり魔法が使えると高収入を得ることが可能になって、ではなく権力側の独占になるわけで、必然的に人力が主力となり奴隷制度は無くならない。
電気を起こして引くことで、低所得者からも搾取する?事業モデルを国王あたりに提示すればいけそうなんだけどなぁ~と思いつつ今はうちで作った疑似魔水晶に魔力を保存して使う方式を使っている。まぁプロパンガス方式だね、毎月配達して料金を回収するから商品が売れなくても利益が発生する。問題は大量の魔力を確保して魔水晶にチャージする為の魔術師の手配だけれど、まず俺自身がそこそこの魔力を供給できると自負している。
この世界に5歳の頃に転生してから計画して鍛えたからな、あっ初めからこんな商売を考えた訳じゃないぞ、初めはよくある転生物語にあるようなチートな性能を期待していつか化けると信じてたんだが、これが全然普通だった~ただ周りの人からは俺程度でも魔術師になれると言ってはくれたが、王室魔術団の試験に7歳になったときに行って周りの人たちに埋もれてることに気づき、自分では血反吐を吐くほどがんばった3年後の10歳のときに再チャレンジして見事に落選してからは、そんな夢は諦めたけどね。転生してもヒーローにはなれないもんだーならまっとうに働くしかない、
生まれたところが裕福で、初期教育からしっかり受けれてさらに成長速度が異様に遅くなった俺のために家の有り様すら変わっていった。長男が家を継ぐ風習がこの世界でも色濃くあり、俺の弟達の方が先に成人するという事態に親戚共が五月蠅くし始めたころ、親父は俺に家督を譲り隠居したまぁ煩わしくなってきたんだと思う。色々暗躍してた親族共を道連れに俺は国を出ることになるがその際に家督は弟に譲ることにしたのだが財産はある程度持ち出したから・・・あとは知らない。アホな叔父さんや欲につられた叔母さん達に踊らされてたんだからまぁあとはよろしくと。
俺に付いてきた執事やメイド達の子孫は今も俺の会社で働いってもらってる、大事なそして今や唯一の家族だしな。
さて、準備ができたようだからお買い上げ頂いたお客様のお宅を回って設置していきましょうか、王宮での怪しい声?封印した魔王かその手下じゃないかなー多分だけど。