名前
「ふんふふーん♪」
そんな陽気な鼻歌が聞こえてくる。
ここはどこだろう?
今、俺はどうやら、硬い床の上に倒れているようだった。
体のいたるところが痛い。特に左腕が痛い。
どうしてこうなったのか、俺は何をしていたのか、それすらも思い出せない。
目を開けて周囲の状況を確認したいところだけど、首を動かすことはおろか、瞼を開ける力すらものこっていないようで、倒れていることしかできない。
「きゃっ。えっ!!」
今度は、そんな、女性の驚くような声が聞こえた。
「大変・・・ですね。」
・じょせいは ちゆまほう:ハイレン を となえた!!▼
・―――の HP が 24 かいふくした!!▼
俺を見て驚いた人が、なにかをしてくれたらしく、少し痛みが引いたような気がする。
「大丈夫ですか?話せるなら返事をしてください!」
「ぁ・・・。」
声をだそうとしたがうまく声がでない。
「声も出せないのですね・・・。待っててください。すぐにお医者さんをよびますので!」
さっきので、ちょっとだけ楽になったおかげで、目を開くぐらいのことはできるようになった。
ぼやける視界の中で、15~16ぐらいのうすい茶髪の女の子が走っていくのが見えた。
・・・
気が付いたら、俺はベッドで寝かされていた。誰かが治療してくれたのか、左腕には包帯が巻かれていた。今度は体も動かせる。
「おぉ、起きたようだね。大丈夫かい?」
声のしたほうを見ると、30代ぐらいの茶髪の男が立っていた。
男が身に着けている白衣や、後ろの棚にある薬品みたいなものをみると、ここは病院のようだった。
「あーっ・・・。」
お礼を言おうとしたが少し詰まる。しかし声はしっかりでた。
「ありがとうございます・・・。」
「どういたしまして・・・といいたいところではあるけど、まずはシャノにいうべきだね。」
「シャノって・・・?」
さっきの女の子のことだろうか。
「私の娘だよ。君を見つけたのはあの子だ。まぁ、今から連れてくるからまっててくれよ。」
「あ、はい・・・。」
そういって医者は部屋を出た。
それにしても、自分の身に何が起きたのか。本当に何も覚えていない。
「あ、そうだ、君。そこらへんに診断書があるだろう?それに名前でサインしといてくれ。」
ドアの向こうから声が聞こえてきた。
診断書・・・。あった、これか。
診断料のところを見ると、[4239W]と書いてあった。
Wというのは通貨だろうか。しかし、そんな通貨は聞いたことはない。
確か俺のいた村の通貨は・・・なんだったかな。思い出せない。
右下のほうにNAME:[ ・ ]と書かれている部分がある。
ここに点があるってことはフルネームを書けばいいのか。
「えーと、―――あれ・・・。」
・・・自分の名前が分からない。思い出せない。
まぁたった今、気づいたというのもおかしいかもしれないけど、名前なんて自己紹介とかする時や、自問自答する時とかそんな時しか使わないからわりと当たり前なことかもしれない。
いや、そんなことはどうでもいいんだ。
さっきから物忘れが激しかったかもしれないけど、それで自分の名前を忘れてしまうことなんてあるのだろうか。記憶喪失?
あ、いや。そんなはずはないと思う。幼いころ、故郷の村で、仲間たちと遊んだ思い出や、14ぐらいで旅に出て、剣を学んだ覚えだってある。
でも、なぜ?記憶喪失だとしても、覚えているものがあるということは一部分だけ記憶が失われただけなはずだ。それなのに、記憶の中でも一番になじみの深いような 自分の名前 なんて忘れるはずはない。別に俺は医療とかに詳しいわけではないけど・・・。
そう悩んでいると、コンコンッとドアをノックする音が聞こえてきた。
ドアが開いた。




