少女Aの憂愁
大切な日に大切な人へ。
私には大切な人が居ます。
いえ、いましたと言った方が正しいのでしょう。
私の兄は私がまだ幼い頃病気で亡くなりました。
私は兄のことを覚えていません。なにが兄の身に起きたのか、どんな不幸がこの家族に起きたのか、私は知りません。
兄が亡くなってからもう十年以上も経つのに、今でも時折亡くなった兄に手紙が届くことがあります。
保険の何かだったり、進学の案内だったり、塾の紹介状だったり。
もう彼はどこにも居ないのに。
手紙がポストに入っているのを見るたび私は悩みます。この手紙を両親に見せてよいのだろうかと。
手紙を見る度母は悲しそうに言うのです。
「・・・・・・もう、いないのにね」
そんな母を見るのが辛くて、怖くて、悲しくて。
受け取る人のいない手紙が届くことが、こんなにも寂しいとは思いませんでした。私は、手紙が大嫌いでした。
だから悩むのです。迷うのです。いっそここで破ってしまったら、そうすれば母はこの手紙の存在を知らずにすむ。母があんな顔をすることがなくなる。
そしてある日、私はとうとう手紙を破りました。
小さな紙片がゴミ箱に吸い込まれていきます。印刷された兄の名前が目のはしに写りました。
その瞬間、私を襲ったのは何ともいえない後悔の念でした。
耳に焼き付いたビリっという小さな音はもしかすると心を破った音だったのかもしれません。
私は兄を破ったのです。
兄の生きた証明をこの手で破り捨てたのです。
私は兄がいないという現実を隠したのです。
兄の死を、無かったことにしようとしたのです。
私は泣きました。兄を思って泣きました。
記憶の片隅にある兄は朧気で、今にも消えてしまいそうで。手紙を破ったことで、兄がさらに遠くに言ってしまったような気がしました。
ごめんなさい。ごめんなさい。謝っても謝り切れません。
だって私は知っていたのです。
どんなに悲しい顔をしても最後に母はその手紙を大事にしまっているということを私は知っていたのです。
母は強い人だ。兄の死を受け止め、その上で今も兄の存在を大切にしている。そんな母にとって大切な手紙を私は引き裂いたのです。
すっと私の手が伸びました。たぶんほとんど無意識だったのだと思います。
部屋が汚れるのも気にせずゴミ箱をひっくり返しました。散乱したゴミの中から、必死に小さな白い破片を探します。
そして私は、集めたかけらを一枚一枚テープで張り合わせました。
丁寧に、丁寧に。
太陽が完全に隠れてしまった頃、やっと手紙は下の姿に戻りました。
涙はもう乾いています。
手紙をつなぎ会わせ、もとの形にしたところで兄は戻ってきません。
それでも私には、その手紙がなんだか兄のように思えたのです。
私はぎゅっと手紙を抱きしめ言いました。
「ごめんなさい・・・・・・ありがとう。」
今もその継ぎ接ぎの手紙は私の机の中、引き出しの奥深くに大事にしまってあります。
読んでいただき、ありがとうございました。
改行がよく分かりません・・・。
自分の文章力のなさを実感しますね(苦笑)
助言や感想などがあったら是非教えてください。