有終完美
白い部屋。
最低限の機能だけを有した質素な家具と、少し固いベッド。天井を見上げると、自身を囲むようにレールが設置してあり、その端には同じく白いカーテンが折り重なっている。
『コンコン』
「どうぞー」
麻衣子は返事をした。
引き戸が『ガラガラ』と音を立てて開くと、そこには見なれた金髪の少女が立っていた。
「お、あやなちゃん。昨日ぶり!」
麻衣子は少女に明るく呼びかける。相変わらず、長く綺麗なツインテールだった。
「……」
少女は黙り込む。
不遜にも、傲慢にも見えない顔で麻衣子を見つめた。
「あれあれー? あやなちゃんらしくないじゃん。ほらもっと笑って、笑って!」
麻衣子は無闇に元気な声で言った。
「……」
少女の表情は変わらなかった。
「あ、美樹さん怒ってたよ。『麻衣子が手伝ったんだからあれは無効だ! 次の大会でもう一度勝負だ!』って。まぁでも、少し笑ってたから本当は怒ってないんだろうねー」
麻衣子は何かを誤魔化すように言った。
「……」
少女の表情は変わらなかった。
「あ、先生って本当にすごいよね。前にこれ使ったときは3カ月が覚めなくて、それで留年しかけちゃったんだ。でも、先生のおかげですぐ良くなった。こんな格好だけど、結構走り回れるからねー?」
麻衣子は両手で病衣を広げながら悪戯に笑う。
「……」
少女の表情は変わらなかった。
その沈黙に麻衣子は小さく嘆息した。
「……映像で見たよ」
麻衣子は言った。
今度は無理も、誤魔化しもしていなかった。
肩の力の抜けた、自然な表情だった。
「あやなちゃん、霰さんに勝ったんだね」
「……」
それに対して少女の目が揺れる。
「私のお願いを聞いてくれた。すごく嬉しかったよ」
「……」
それに対して少女の口が揺れる。
「本当にありがとう」
「……」
少女は笑った。「しょうがない奴だ」、と。
麻衣子も笑った。「お互い様だね」、と。
そして彼女は麻衣子の頭を撫でる。ベッドに座った麻衣子の頭は、撫でるのに心地良い高さだった
「無茶をしてくれるな」
「えへへ、あやなちゃんが移っちゃったかな」
麻衣子は小憎らしい笑顔を浮かべる。
「だが、助かった。ありがとう」
あやなはその言葉に心の底から感謝を込めた。
「うん! あやなちゃんも、ありがとう!」
麻衣子も同じ気持ちだった。
「うむ」
彼女は力強く頷く。
そしてあやなは笑った。いつものように傲慢に。胸を張って、高らかに。




