9月8日
カリカリカリ…。
カリカリカリカリ…。
カリカリカリカリカリ…。
「あのさぁ…」
机の反対側に向かって声を掛けるが反応はない。
「なぁ」
依然として反対側に座っている幼馴染はただ机にべったりと張り付いている。
「おい!」
「なによ...」
机から起き上がってこちらに視線をよこす。
「あのさ、宿題が終わってないのはお前だよな」
「あぁそうだけど…」
のっそりした声で答えるが意識は半分も覚醒していない様子だった。しかしかまわず畳み掛ける。
「なんで」
ゆっくり机の上に広がったものを指差し告げる。
「なんで俺がお前の宿題をしてんだよぉぉぉぉ!!!」
自分の思いをぶちまけるがところがどっこいコウカハイマイチダッタ。
「知らないよ~しかたないでしょ~~宿題終わってないんだから~~~~」
「俺は終わってんだよ!」
なぜ俺がここまでキレているか答えは簡単目の前のコイツの宿題を朝から延々と手伝わされているのだ。しかも朝は「お願いだから助けてください~~」と半泣きだったのに、昼を過ぎるとまるで新種の軟体生物の様に机に体を預けている。
「いいじゃんか~。どうせ夏休みの最終日にやることもなくて暇してたんでしょ~~~」
「し・て・ね・え・よ」
これは強がりではなくて実際にあるのだ漫画の新刊を読んだりネットをぶらぶらしたり..。
「どうせ漫画読むかネットしかしないんでしょ~~」
「うっ!」
幼馴染とは存外厄介な生命体らしいということが経った今証明された訳だ。
「そんなさ~虚しい夏休み最終日を送るくらいなら~。この可愛い可愛い幼馴染の世話でもしたほうがいいと思うな~~」
「いや、それはない」
断言できる。それはない。
「ひっどっ、傷つくわ~」
大げさに言っているがこいつはそんな豆腐メンタルではないこと位既に承知している。
「まぁアレだね」
「?」
「こんな日々が続くのはいいことじゃないかいよ。この毎年恒例の最終日のノリもさ」
そうだなとか一瞬思ったがすぐ気づく。
「さてはお前、ちょっといい話っぽくして話題を逸らそうとしているな」
ぎくっと音が聞こえそうな仕草をする。
「ナンノコトカワカリマセン~」
それからついでにさっき気づいた間違いも訂正しておく。
「あとさっき毎年恒例っていったが、去年まではこの日は一緒にだらだらしてただろ」
世界が揺れた気がした。
「あれっそうだったっけ?ごめんごめん~。なんか溶けすぎて思い違いしたみたい~」
溶けるってまぁ溶けたみたいにぐでーんとなっているが。などと考えつつふと窓を見る。
開け放たれた窓からは雲が少しちらつく青い空が見えた。
遠くから微かにチャイムの音が聞こえてきた。