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8話

ある日の金曜日いつものように部室の鏡から異世界へ渡った直後

拓斗がクロードへ一つ提案をした。




「少し相談なんだがこの世界の歴史や文化を勉強したいと思っている。」



(げぇ!?勉強!?異世界に来てまで勉強!?

何余計な事言っちゃってんの!それに何の断りもなく決めちゃって)



ヒナは拓斗を睨みつけた。



(本当ムカつく!)




「その事なんだが丁度いい。アナタ達に紹介しようと思っていた所だ」



そしてしばらくして現れたのは

背中まである長い黒髪に貴族風の黒い服とマントを着こんだ青年だった。

クロードの「白」イメージとは対象に「黒」を象徴している。




「ディアス=クラインと申します。どうぞお見知り置きを」



ディアスと名乗る青年は優雅に挨拶をしたが

雰囲気は何処か威圧的で近寄りがたく、

端正な顔立ちとサファイヤに彩る双眸が更に怜悧な印象を際立たせている。




「よろしく頼むディアス」


そんなディアスに対しても最初に、しかも気さくに声をかけたのはやはり流依だった。

言いながら手を差し出すがそんな流依に対してディアスは一言で突っぱねた。



「様をつけろ」


その一言で室内の温度は低下した。


(な、何この人怖すぎる!拓人先輩だけでも手に負えないってのに!!)

一番怯んだのはヒナだった。思わず横にいた絵莉依の服の袖をキュッと掴んで握り締めた。



「ディアス!」


そんなディアスをクロードは窘めた。



「フンッ、冗談だ」



冗談と言った割にはまったく悪びれた様子もなく、興味なさ気に顔をそむけた。

そんなディアスの代わりにクロードが補足した。



「彼はこの国きっての大賢者と呼ばれ特別にあなたがたに歴史や魔術を教えてくれる。

そして爵位を持つ貴族でもある。」



(うわ~貴族だって・・・更にやな感じ。性格も悪そうだし・・・)



「ディアス、こちらが異世界から招いた方々だ。

彼らに魔法学やこの大陸や国の歴史などの講義を頼みたい。」




ディアスは異世界部員の顔を一瞥するなり


「男もか?」


と、不満げに呟いた。


それを見た流依は


「ヒナ、絵莉依。アイツあーみえて相当な女好きかもしれないから気をつけるんだぞ?」


と小声で諭したが。するとすぐさま


「誰が女好きだ」


と低く冷たい声が響き、流石の流依もビクリを体を振るわせた。





「どうもこの者の見た目や雰囲気が"アイツ"そっくりに思えてな」



瞬時に"この者"呼ばわりされた流依に視線が集中した。



「ああ、それは私も思ってはいたが・・・」


ディアスの言葉にクロードが同意した。

どうやら二人の共通の知人らしい。

そんな二人の様子に不満げに流依が呟いた。



「・・・・アイツとは一体誰だ?」


その問いに即座に返事が返ってきた。


「能天気で破天荒、周囲を巻き込んでは迷惑をかけるバカな知り合いと

そっくりだと言っただけだ、気にするな」


という嫌味たっぷりなディアスの言葉に

ヒナはなるほど、それはまさしく流依先輩そのものだと心の内で密かに呟いた。








午後の穏やかな日差しが射す一室でディアスの講義が始まっていた。



(ね・・・眠い・・・・)


本当なら夜の儀式までのんびりダラダラ過ごすはずだったのに


学校で6限を終えてきたヒナにとってこの講義は7限目の

始まりを意味するのと同じであった。



五人という事もあり、机は前に男三人、後ろに女二人といった並びになっている。

一番前の真ん中にはレンが座っている。



(丁度レン先輩に隠れて目立たないし寝ちゃおうっと)



机にうつぶせになり目を閉じて少しすると気配を感じたので顔を上げると




「ヒッ」



ディアスが目の前でヒナを見降ろしていた。


身も心も瞬間冷凍させてしまうような視線に

今までに出会ったことのない未知なる恐怖がヒナを支配した。




「いい度胸だな」

「ごっごめんなさいっ」



急いで手元にある分厚い本をガン見する。

しかし何と書いてあるか読めない。



「この国が気に入らなかったか?」

「えっ?」



何を聞かれたのか理解するのに少し時間がかかった。



「あまり興味はないか」



そう問うサファイヤの瞳には先ほどまでの威圧は感じられない。


そこでヒナは自分はとても失礼な事をやってしまった気がした。

遠い国からやってきた自分たちに文化や歴史を教えてくれているのに、

それを興味なさげにした挙句居眠りとは。


自分だって日本の事を伝えようとして「くだらない」という態度を取られたら

それはきっと悲しい事だと思う。



「そんな事ありませんっ

昨日食べたメーロやペスコって果物凄く美味しかったし

コノ前の夕食もかなり美味しかったし!

初めて飲んだアヴリコッコティーも美味しかったわっ

だから・・・ごめんなさい!」




そして何よりヒナ自信もこの国を好きになっていた。

だからちゃんと伝えなくては





「フッ」


一瞬ディアスがビクリと体を震わせ顔を背けるので何事かと見ていたら



「食べ物ばかりだな・・・ククククッ・・・・」



どうやら笑いを堪えきれなくなったらしい。

肩を震わせている。



(この人・・・こんな表情するんだ・・・)



顔を背けているものの、横顔から窺えるその相貌は穏やかだった。





「あ、あの、えと・・・いい人も・・・多いし」



段々照れてきて後半は少しごにょごにょ言ってしまった。

そんな和やかな雰囲気に包まれたのもつかの間、



(ヒィッ・・・!!)



新たに感じた殺気を感じ目を向けると


「恥をかかすな」と言わんばかりに拓斗がヒナを血走った目でにらんでいた。





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