5話
高校に通うごく普通の生徒であった水野ヒナは放課後使われていなかった
教室の鏡を通して異世界に渡ってしまった。
それからと言うもの毎週金曜日の放課後に異世界へ行き、
異世界で三日間過ごしてから元の場所と時間に戻してもらうという
ふざけた日常が始まろうとしていた。
朝学園の門を潜り生徒達と共に校舎へ向かう。
私立の名門校である桜華学園高校の生徒達は談笑しながら登校する中でも
決して騒いだりせず穏やかに歩みを進めていた。
そんな中突如大きな声が響き渡る。
「ヒナー!!」
宇都宮流依がヒナに向けて大きく手をブンブン振りながら近付いて来る。
「あ、流依先輩。おはようございます」
(今日も無駄に元気だな・・・)
「うん、おはよう。」
今日も流依は満面の笑みをヒナに向けてくれる。
しかし視界に映った彼の姿には違和感があった。
「なんですかその荷物・・・家出みたいですよ」
大きなリュックにボストンバック2つ。脇には学校指定の鞄を挟んでいる。
決して学校へ登校途中の高校生には思えない。
「うむ、これからあそこで暮らすんだ色々持ってきたぞ」
「へぇ・・・・・楽しそうですね・・・・・。」
「そういうヒナはそれだけか。
何か足りない物があったら遠慮なく言うんだぞっ」
流依は先輩らしく振舞いたいようだが、度を過ぎて妹を気にかける兄みたいになっている
それが兄弟のいないヒナには少しむずがゆく感じた。
ヒナも多少は生活用品などを学校鞄とは別の小ぶりな鞄に詰めている。
「それじゃ、また放課後☆」
(しかも無駄にタフだ・・・・)
あの華奢な体であの大荷物を息切れせずに運んだと思うと驚きである。
感心しつつ呆れているとクラスメートの悦子がヒナに声をかけた。
「ヒナ、どうしたの?宇都宮先輩と仲良くなっちゃって・・・」
「いや・・・なりゆきで」
「いいなー。それにあの先輩のあの荷物・・・・まさか二人でお泊り!?」
「そんな訳ないでしょ!!??」
あまりにもムキになったヒナに気圧された悦子は少し引き気味に謝罪した。
「そ、そっかそうだよね。あはは、ごめんごめん。」
異世界に召喚されてから一週間が経った。
何のへんてつもない日常が帰ってきて7日という日数がとても遠く感じられる。
今日も平和に学校生活を終えるはずだったのだが・・・
昼休み、昼食を食べ終えた頃に”それら”はやって来た。
「水野ヒナさんはいらっしゃいますか?」
一際可憐な声が響き渡った。
自分の名前が呼ばれたことにより目を向けると案の定
月島絵理依が立っていた。笑顔で駆け寄ったが
後ろには流依、拓斗、レンが立っており三人の姿を確認すると一変して表情を戻した。
「なんですか皆揃って・・・・」
ヒナの問いに流依が答えた。
「今から部活の申請をしに行こうと思うんだ」
「部活?」
流依の口から思いがけない言葉が流れた。
「これから毎週金曜日の放課後にあの教室に集まるんだ。
教室を確保するために部活動の教室として確保しておこうと思う。」
「正確には人数が足りないから同好会だがな」
拓斗が腕を組みながら言った。
「へー、何部ですか?」
ヒナの問いに流依が自信満々に答えた。
「異世界部だ!!」
「は・・・・・・・」
ヒナの思考が停止した。
(ネーミングセンスおかしい!!!)
「いやいや、何やってる部活か全然分かんないですよー!
っていうかマンマ!?そんなんで申請通るんですか!?」
焦るヒナに対しレンがのんびりと発した。
「まーなるようになるだろ」
絵理依も後に続いた
「面白そうじゃない」
(この人たちの思考本気で羨ましい・・・・きっと悩みなんて無いんだろうな)
羨ましいのか馬鹿にしてるのか、自分でもよく分からない
複雑な気持ちが生まれてきた。
「異世界・・・部・・・・?」
職員室で部活申請のプリントを目にした先生はしばらく紙を眺めた。
(うわーうわーどうすんのよ!?先生困ってるじゃない!!)
そして先生が五人を見渡すのと同時にヒナは目を合わせないように伏せた。
「・・・このメンバーだったら
皆成績もいいしきっと安心なんだろうけど・・・・。」
「しかし、何をする部活なんだね?この異世界部とやらは」
先生の疑問に拓斗が一歩前に出て口を開いた。
「まず我々は次元に着眼点を置くことで、数学的要素、時間、座標から割り出し
または多様体の次元、複体のホモロジー次元、相似次元、スペクトル次元
とさまざまな次元の概念を考慮した上で次元を一つの世界とし
異次元、または異次元世界を異世界と称することにしました。
我々の世界は3次元世界ではありますが表面上の緯度や経度だけをみると
2次元であり空間や時間を足すと4次元的要素も加わっていきます
そして・・・」
「分かった!分かった分かったからっ!!
申請は認めるから頑張ってくれっ!なっ!」
困惑した先生が拓斗を制し、勢いのままに許可すると口に出してしまった。
なんと読解不能な言葉を並べたてて先生を丸め込んでしまったのである。
ヒナは心から先生に同情した。