4話
それぞれ個室と五人集まれる大部屋を与えられ、
部屋を確認すると桜華学園の生徒五人は同じ階の談話室に集まった。
「これから長い付き合いになりそうだし、自己紹介をしよう。」
そう提案したのは何かと仕切りたがってる宇都宮流依だった。
宇都宮流依の言葉に同意した小笠原拓也はそれぞれの顔を確認し、
最後にヒナを見た。
「といってもほとんど知っているが。君は?」
「・・・・・」
自分はどうせ皆と違って何の取り柄のない地味な一般生徒だ
それをわざわざ再確認させられたような気がして黙り込んでしまった。
「俺たちも自己紹介したほうがいいかな?」
「・・・知ってます。皆。全員二年生で
宇都宮流依先輩と、小笠原拓斗先輩、吉原レン先輩。月島絵莉依先輩。」
「これから長い付き合いになるというのに、
苗字で呼ぶなんて堅苦しいじゃないか
下の名前で呼んでくれ。なっ」
同学年の男子ですら下の名前で呼んだことなどないのに
ましてや先輩を下の名前で呼ぶのは相当勇気のいることだったが
流依の期待を込めた輝かんばかりの鬱陶しい笑顔のせいで「NO」とは
言いづらかった。
「じゃあ・・・流依・・・先輩」
「流依先輩!」
流依が立ちあがった。
「今まで高城先輩と呼ばれることが多かったが
流依先輩は新鮮だ!
可愛い下級生の女子にそう呼ばれるのは中々いいものだな」
(可愛い・・・?馬鹿にしてるのかしら・・・・)
そこまで酷い容姿ではないとは思うがお世辞にも可愛いとは思えない自分に
流依のその言葉は劣等感を更に促進させた。
「私の事は先輩ってつけなくていいからね、女の子同士だし仲良くしましょ
だからあなたのお名前も教えて。」
(うわぁ、美人なだけじゃなくってとっても優しい・・・)
普段は意地っ張りのヒナも絵莉依の優しさに少し心を緩ませることが出来た。
「水野ヒナ・・・一年生です。」
「一年生か、知らないはずだ。」
「ヒナちゃんね」
「じゃあヒナよろしくな」
4人がヒナを認識すると拓斗が改めて口を開いた。
「それにしても興味深いものだな。
この世界は実際魔法の類が薄れつつある状態ではあるが確かに存在し
召喚されたのが魔術オカルトや宗教の類とは最も縁遠いはずの国
日本出身の俺達とはな」
「クリスマスにハロウィンにと
無節操という言葉がぴったりよね、日本人て」
「ま、平和な証拠なんだろうけどたまに見てて恥ずかしくなってくるよな」
「冒涜もいいとこだ。
平和は悪いことではないが、もっと我々日本人は視野を広げるべきだな
宗教に関心が無いの事も仕方がないが、知らなすぎるのも時に罪だ。」
「うちの家は敬謙なクリスチャンだぞっ。
しかし宗教に縛られないのは賛成だ!」
ただのマイペース集団かと思われたが世間の高校生より確実に視野が広く
自分の意見を持っている人たちだとヒナは少しだけ見直した。
だがそれと同時に何故5人の中に自分がいるのかまた疑問が浮かんできた。
夜、指定された魔導師のローブを着てそれぞれ塔へ向かった。
真っ黒で長いローブを踏みそうになりながら階段を登る。
一番魔力が弱まっている塔にはレンと絵理依の二人が宛がわれた。
それぞれ十五人から二十名程度の魔導師が配置されている。
一人で知らない人達の中に混ざるのはとても勇気がいった。
外国人どころか異世界人であり、なんと言っても全員魔術師などという
未知なる怪しい職業についているのだから。
キョロキョロと塔の中を見渡しているとヒナと同い年くらいの
髪を三つ編みに垂らした少女が声をかけてきた。
「今日はよろしくお願い致します。」
ヒナも挨拶を返す。
「あ・・・よろしくお願いします。」
今日はなんだか挨拶ばかりしている気がする。
「あの・・・私何をしたらいいか・・・・」
「神官様の詠唱の後に続き私たちと同じように言葉を紡げばいいだけですから、そんなに緊張なさらないで」
少しすると衣装が自分達より確実に豪華な初老の魔術師が入ってきた
のと同時に魔術師達は円を描くように並んだ。
きっと彼が神官なのだろう。
神官が詠唱し、魔術師達も後に続く。
(何だか本っ当に怪しい宗教みたい。本当に大丈夫なの?私騙されてない?)
今はむしろ皆に合わせて口を開かない方が逆に目立つことに気づき
ヒナは決心した。
(ええい、これが終わったら家に帰れるんだから
今は取り合えずあわせるのよ!家に帰るためなんだもの!)
ヒナも他の魔術師同様、神官の詠唱に続いた。
それが15分ほど続いた。
「つ・・・疲れた・・・・」
自分の体に魔力が宿っているなんて正直信じられないが
詠唱中、確かに体からどんどん力が抜けていくのを感じた。
疲れて壁に寄りかかっているとまた先ほどの少女が声をかけてくれた。
「大丈夫ですか?初めて魔力を放出されたんですもの。お疲れですよね」
「あ・・・はい、あはは大丈夫ですよ」
「私たちの国の為にありがとうございます。
あなたがたに精霊神様のご加護がありますように。」
(なんか調子狂うな・・・恥ずかしい・・・)
一晩開けた朝、放課後のあの時間に戻された。