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盗賊ギルド

盗賊ギルドに足を運ぶと日が暮れそうだったので,俺は先に宿屋を探した。

最初に見つけた宿屋は一泊8ギラとお手軽な値段だったので,そこに決めた。


この世界の通貨は,鉄棒ベラ=10円,銅棒ギラ=100円,銀棒ジラ=1,000円,金棒ゼラ=100,000円という形で成り立っている。

つまり8ギラは800円として計算できるので,かなり感覚としては安いと分かるだろう。


そういうことで,宿の決まった俺は,夕暮れと共に盗賊ギルドのある場所に向かった。




人に聞いてようやくたどり着いた盗賊ギルドは,清潔感のない建物で,場所も町の中でも狭い路地を通らないと来れないような分かりにくい場所にあった。

如何にもな感じを漂わしている。

しかし,これより危なげなところに,他の世界でも行ってきた俺は,別段躊躇すること無く入っていった。


建物の中は,大きなホールになっており,ホールの中にはテーブルがいくつか置いてあり,奥にバーのように酒が並んだカウンターがある。

カウンターの脇には階段があり,二階の部屋につながっているようだ。


ホールのテーブルに腰掛けている男たちは如何にも荒くれ者といった感じで,品性という言葉には無縁な人間だろう。

男たちは入ってきた俺をジッと睨むように視線を浴びせた。


俺は取り敢えず,奥にあるカウンターにいるバーテン?に話しかけるため,足を進めた。


カウンターの席に座ると,バーテンがこちらを見てきた。


「………………」


しかし,バーテンは何も話さない。

しばらく,バーテンが話しかけてくるのを待ってみると,バーテンは顎を上げて自分の後ろにある酒棚を指した。

酒を頼めということだろう。


「あんたのオススメで頼む」


俺がそう言うと,バーテンは黙って体を動かして,すぐに瓶に入った酒をグラスに注ぎ,俺の前に置いた。

俺は少し口をつけると,深みのある味わいが広がり,悪くないと思った。


「依頼は?」


唐突にバーテンが口を開いた。

どうやら俺を依頼人と間違えているらしい。


「いや,このギルドが何やってるかの説明を聞きに来たんだが」

「………………」


バーテンはもう話すことがないかのように俺から距離をとった。

そしてその後すぐに爆笑の嵐がホールに響いた。


「おいおい。聞いたかみんな!『このギルドが何やってるかの説明を聞きに来たんだが』だってよ!ギャハハハ!」


そう言いながら,俺に近づいてきたのは,ガラの悪いやせ細った男だった。


「お前。馬鹿か?それとも頭でも腐ってんのか?」

「いや,本当のことだ。説明を聞きに来ただけだ」


俺がそう答えると,男は下品にまた笑った。

そして俺の襟首を掴んでこう言った。


「ばあああかか?テメェ。このギルドにそんなもんはねえよ。『金になる依頼は何でも受ける』それだけだ」

「ああ,なんだお前が説明してくれるのか?悪いな?」

「あっ!? ふざけんのかテメェ?」


男の顔が険しくなる。

このチンピラAはどうも短気らしい。


「ま,ようは済んだみたいだから帰るよ」


俺がそう言って男の手を振りほどいて,出口に向かおうとするとチンピラAがその進路を塞いだ。


「バーカ,逃すわけねえだろ? 痛い目見たくなきゃ身ぐるみ全部置いてって,返って母ちゃんのおっぱいでも吸ってな!」


チンピラAはニヤニヤと笑い,そんなことを言った。

その返しとして俺は取り敢えず,こう言った。。


「顔を近づけるな。息が臭い」

「んだとっ!」

「臭っ!この世のものとは思えないほど臭っ!マジ止めて!」


俺が鼻をつまんで,嫌悪感を丸出しの表情をする。

いや,本当に臭いんだよ。

するとチンピラAは顔を真っ赤にして,青筋を立てた。


「て,テメェ。ぶ,ぶっ殺してやる!!」


チンピラAは懐からナイフを取り出して,構えた。

俺は,どうしたものかと安い挑発をしてしまったと後悔しつつ思っていると,一息間を置いて,ホールが急に静かになった。


「何を騒いでやがる」


野太い男の声の方を振り向くと,そこには二階から降りてくる髭面の男がいた。


「だ,ダンナ……」

「おう,パッチ。テメェ何してやがる」


髭面の男は,険しい顔でチンピラAを睨む。

チンピラA改め,パッチはそれだけで,体がすくみ上がってしまった様子に見えた。


「だ,ダンナ。こ,この野郎が俺をバカにしやがったんですさあ……」

「あ?テメェはそんな理由で,俺のこの『黒猫の宴シャムシャティ』を薄汚ねえ血で汚そうとしやがったのか?」

「す,すいやせんでした!!」


パッチは髭面の男に凄まれ,その場で膝と両手をついた。

まぁた俺空気ですか。


「じゃ,俺帰るんで」

「待ちな坊主」


俺がそう言って立ち去ろうとすると,呼び止める声がかかった。


「なに?」

「テメェも誰に断ってこの場所に入ってきてんだ?」

「いや,誰にも断りなんか入れてないけど?」

「あん?」


俺の態度に,髭面の男は眉をひそめた。


「オメェ,何のようでここに来やがった」

「このギルドの説明を聞きに来ただけだけど」

「……,それでこの騒ぎか」

「あんたが収拾つけてくれて助かったよ」


俺はにこやかにそう答える。

髭面の男はそれを見て,口を開く。


「死にたいのか?」


男がその言葉を発した途端,場の空気が異様に暗く,重いものとなった。

周りを見ると,先程まで馬鹿騒ぎしていた男たちの表情も固くなっている。

その空気を読んで,俺はこう答えた。


「あんたアホか?好き好んで死にたい奴なんかそう簡単にいるかよ」


場の雰囲気にあったナイスチョイスなセリフと思って俺がそう答えると,場の空気は和やかに…………はならなかった。

むしろ,余計緊張が走ったような気がする。


髭面の男はしばらく,こちらをジッと睨んでいる。

…………このおっさんがガチホモだったらどうしよう。


「テメェ今から俺の質問に答えろ」


髭面の男はそう言って口を開いた。


「だが断る!」

「それを決めるのは俺だ」


な,なん……だと,俺の「だが断る」を打ち破る返し方があったのか。

髭面の男は別段気にした様子もなく言葉を続けた。


「今お前は,三日間何も食わずに平地を放浪している。

最寄りの町にはもう少しで着く。

しかし,前から化け物モンスターに追われている男がこちらに向かってきている。

男はお前に助けを求めた。

男は報酬を支払うと言っている。

しかし,男を追っている化け物モンスターは,今のお前では勝てるかどうか怪しい。

さてこの時,お前はどうする?」


「男から金だけ奪って,その場を去ってさっさと町で飯を食う」


髭面の男の禅問答のような質問に俺は即座に答えた。


「理由を聞こうか」


髭面の男は,こちらを値踏みするように見てくる。


「そりゃあ,全く見ず知らずの他人のために,命張るわけにも行かないし,その話だと,自分は金を持っていない可能性が高い。つまり,町にただ着いても食料を確保する可能性は極めて低い。すでに三日も食ってないわけだしな。そしたら,金を持っているやつから有り難く頂いて,ついでにモンスターの身代わりになってもらう,まさに一石二鳥とはこのことだよな。さらに平地で他に誰も見てないところが美味しいよな」


俺がスラスラとそう答えた。

俺の答えにパッチは青ざめたような表情をしていた。

しかし,髭面の男はそれを聞いてニヤリと笑った。


「合格だ」

「なにが?」

「オメェはこれからこの盗賊ギルド『黒猫の宴シャムシャティ』のメンバーだってことだよ」

「は?」


何を言っているでしょうか?このおっさん。


「嫌だ」

「それを決めるのは俺だ」

「だが断る!」

「無理だ」

「じゃあ逃げる」

「逃がすと思ってんのか?」


髭面の男が右腕を上げると,周りの男達が一斉に立ち上がった。


「俺の名前はアーカムズ。これからお前のボスになる男の名前だ。覚えておけ」

「四文字以上の名前は覚えられないんだ。悪いね」

「なら覚えさせる。……やれっ!」


アーカムズが上げた右腕を下げると,周りの男たちが飛びかかってきた。

俺は焦ること無くこう言った。


「来い。影に生きしもの,《アシカゲシノビ》」

「参上仕る。我,《アシカゲシノビ》」


何もない空間から顔のない黒ずくめの男が現れた。

襲いかかってきた男たちに動揺が走る。

俺はその好機を逃さない。


「俺を隠せ」

「承った」


そう答えた《アシカゲシノビ》は,両手を活き良いよく広げた。

広げた両手から白煙と黒煙が立ち,そして弾けた。


「うわ,なんだこの煙!」

「ゴホッゴホッ!くそ!」

「何も見えねえ!ちくしょう!」


男たちは急に起きた現象に戸惑い怒鳴りあう。


「全員落ち着け!」


アーカムズの一喝で男たちは落ち着きを取り戻した。

だが,彼らの視界が回復する頃には,俺はもういない。




ちょっと禍根を残しそうな逃げ方をしたが,まああの状況では上出来な方だと思う。

これで,この町の全てのギルドを見て回った。

さて,どのギルドに入るかは,宿屋で落ち着いて決めよう。

そう思いつつ,俺は宿に帰っていった。

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