魔法ギルド
魔法ギルドは何やら奇妙な建物だった。
何が奇妙と言えば,まず,建物の構造として奇妙だった。
まるで木が枝分かれしたようにそびえ立つ塔がいくつもある。
一言でいうと『もっさり』した感じだ。
入り口だけはまともで,その横には「触れて下さい」と書かれて板があった。
だから触れてみた。
すると,宙に文字が浮かび上がり,「魔法を究めんとする者に,道は開かれる」と書かれていた。
俺はこの世界にきて初めて少しワクワクした。
少し期待しながら,俺は中へと入っていった。
中に入ると,空中を彷徨う四角い物体,色が次々に変わっていく柱など色々なものがあるホールだった。
受付は目の前にあり,下を向いている女がいた。
俺は近づいて話しかけた。
「ども」
「………………」
「もしもし」
「………………」
「あの~」
「………………」
女は何やら手元にある本に集中しているらしく,まるでこちらに気づきもしない。
俺はどうするか考えていると,受付の脇に,「御用の方は鳴らして下さい」と書かれたベルらしきものを見つけた。
ダメ元で俺はそのベルを鳴らしてみた。
ドガガガガガガ!ドギャーーン!!
「ひゃああああ!」
「うおおおっ!!」
てっきりもっと淑やかな響きの音かと思ったら,とんでもない騒音だった。
まるで,パソコンの起動音を爆撃音にされた気分だ。
「あわ,あわわわ」
女は持っていた本を落として,ずり下がったメガネを慌ててかけ直した。
「ああ,す,すみません。本に集中していて」
「いえいえ」
女は少し落ち着くと畏まったように何度もペコペコ頭を下げた。
俺もついつい許してしまう程だ。
「すみませんでした。それで,どのような御用でしょうか?」
「ああ,このギルドに入ろうか迷っているんだけど,まずは説明を聞きたいんだが」
「ああはい。入学希望の方ですね」
「入学?」
「ええ,対面的にはギルドとしていますが,本来の活動は学校のようなものですので」
「なるほど」
ギルドだが,魔法を研究するところだから,学校として機能してるのか。
というか,この世界には学校という施設があるんだな。どの程度かは分からないが。
「ではまず,こちらに触れていただけますか?」
「ん?これは?」
「あなたの魔法力を調べるものです。素質がない方は残念ですが入学は許可出来ないので」
「なるほどね」
素質が無ければ,努力のしようもないもんな。
俺は言われた通りに,四角い透明な箱に手を触れた。
触れたが,箱には何の変化もなかった。
「ああ,残念ですがあなたには魔法の素質がありません」
「そうか。まあ俺も期待はしていなかったけど」
だって俺,召喚士だもん。
召喚する時,MPみたいなものは使うけど,実際にこの世界でいうところの魔法力じゃないし。
本当に期待なんかしてなかったよ。本当だよ!
「まあ,折角来たんで,このギルドの説明だけでもお願いするよ」
「ええ,その程度でしたら」
そう言ってメガネをかけた女は快く引き受けてくれた。
「このギルドは,簡単に言いますと『魔法』を研究し,その成果を売ることで運営されています」
「成果を売るっていうのは?」
「簡単なところですと,例えば薬草の効用を最大限に引き出すために魔法を使い,それで出来上がったものがポーションです」
「へえ,つまりポーションはここで調合されてるわけだ」
「そうですね。後は,新しい魔法技術を発明して,その方法を売ることなどが大きなものとして挙げられます。良い研究成果であれば,その国のお抱え魔法士になれる場合もあるんですよ」
「なるほど」
「まあ私どもギルドではそういうことはまだ一度もないのですが」
「はは,頑張ってくれ」
この世界で魔法というものが,割りと重要な扱いであることがわかったような気がする。
「大雑把ですが,説明できるのはこれぐらいですね。何かご質問はございますか?」
「うーん。そうだな……」
俺が何か聞こうか迷っていると,視界の隅ある扉が開いた。
そこに現れたのは,真紅のローブを着た女だった。
「アリッサ! お願い! あと少し研究費用を私のところに回して!」
「……またですかコーリアさん」
コーリアと受付のアリッサに呼ばれた女は,俺のことはお構いなしに受付の前を陣取った。
「あとちょっとなの! あとちょっとで,研究が完成するのよ!」
「前もそう言ってたじゃないですか。学長からしばらくコーリアさんには費用を出さないように言われてますから無理です」
「あのクソジジイぃ~。……ねえ,いいでしょ? お願い♪」
「猫かぶっても無理なものは無理です」
「けちー!どけちー!」
完全に空気です俺。はい。
「じゃあ,俺はこれで……」
俺は出ていくことにした。
が,服の袖を誰かに掴まれた。
「…………あの」
俺が袖を掴んでいるコーリアに話しかける。
すると彼女はニヤリと笑いこちらを見つめてきた。
「ねえ? お兄さん? 私に資金援助しなぁい?」
「しないが?」
「即答!? ちょっ酷くない! こんな美女がお願いしてるのに!」
「俺の好みはもっと淑やかな女性なんで」
俺がそう言うと彼女はすっと身を整えて,控えめこういった。
「お願いしますわ。あ・な・た」
「いや,やっぱり強気なしたたかな女性が好みで……」
「どんと私に任せて投資しなさい!」
コーリアは胸をドンと叩いて高々に宣言する。
「いや,実はもっと淫靡な感じの女性が好きだから……」
「夜の方もサービスしてあ・げ・るぅ」
コーリアは体をクネラせて,寄り添うようにして俺の耳元でそう囁く。
「いやいや,本当はもっと甘える感じの年下の妹的な女の子が……」
「おねがいぃ。おにいちゃん♪」
コーリアは上目遣いで,目を輝かせながら満面の笑みで俺に言う。
「あんた面白いなー」
「ホント! じゃあ資金援助してくれる!?」
俺はニヤリと笑い,彼女も期待に満ちた目をして,
「だが,断る!」
「この悪魔あああああああああああ!!」
なんて,からかいがいのある女だろう。
「もういいから有り金全部置いてきな!」
コーリアはキレたのか俺の襟首を掴んで脅してくる。
「受付のお姉さんどうにかして」
俺がそう頼むと,アリッサは拳ほどの大きさの球体を手に持ちこう言った。
「町の自警隊に通報しました」
「いやあああ!やめてええええ!うそ!うそです!」
コーリアはその場で悶える。
「もう! どうしたら資金援助してくれるのよ!」
怒った様子のコーリアは,その場で地団駄を踏む。
その様子を見て,俺は一言こういった。
「そのままの君が可愛いよ」
「はあ!? ちょ,ちょっと,このタイミングで口説くとか,い,意味分かんないんだけど///」
コーリアは,そういうものの照れたように頬を赤くし,顔を背ける。
そしてそんな彼女に俺はこう言った。
「あ,リップサービス1ギラ(この世界の通貨の単位)になります」
「死ね!死んでしまえ!! もう知るか! うわーーーん!」
そう言ってコーリアは,建物の中に帰っていった。
「なんか騒いでわるかった」
「いえ,うちの学生がご迷惑をおかけしまして」
「いや,楽しかったからいいよ。それじゃあ俺はこれで」
「はい。何か御用がありましたら,魔法ギルド『レーテス』にまたお越しください」
俺はそうやって魔法ギルドを後にした。
なかなか面白いギルドだった。
さて,最後は盗賊ギルドだ。
戦士ギルド『スラッシュ』から『ドーデン』に変更。
ダサかったので