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初めての金棒と災難との遭遇

 月光草を無事に取り終えた俺とニノンは特に脅威に遭遇することもなくゼーの町に戻り、門の付近でニノンと別れ、依頼完了の手続きと報酬を受け取りに採掘者ギルド(ミレラリオ)へと戻ってきた。


「ただいま~」

「あ!ケンイチさんお帰りなさい♪」


 ギルドに入るとアミュットが俺を満面の笑みで出迎えてくれた。

 ん?おやおや?

 カウンターの奥で笑顔を浮かべるアミュットの向かいに見知らぬ人がおわすった。

 全身を外套で隠していて、目線だけをこちらにくれているが、ご丁寧な事に顔まで隠していらっしゃる。


「アミュット、こいつは?」

「ビーズさんの事ですか?あ、そう云えばケンイチさんはお会いするのが初めてですよね。ビーズさんはミレラリオ所属のメンバーの一人ですよ」


 おお!この人が爺さんが言っていた俺の他に二人いるって言ってた内の一人か!


「……アミュット」

「ああ、そうでしたねすみません。ビーズさんは外見通りご自分の事を話されるが大嫌いな方でして」

「…………」


 アミュットがビーズの事をそう説明すると、ビーズは何も言わず、カウンターに置かれた恐らく報酬が入った皮袋を手に取り出口に向かって歩み出す。

 俺とすれ違う際に一応挨拶をしようと思い声をかけた。


「ども。ケンイチだ。よろしく」

「…………ああ」


 それだけ言って、ビーズはさっさとギルドを出て行ってしまった。

 何というか無口なやつだ。


「あまり気にしないでくださいねケンイチさん。ビーズさんは誰に対してもあんな感じですので」

「ん?いや、全然気にしてないけど?むしろ、勝手に人の部屋に押しかけ来る人より好感を持てるけど?」

「ちょっと! それが、3日ぶりに会った運命の恋人(マイハニーに言うセリフですか!?」

「うん全然言えるよ。超言えるよ。というかあなたの頭の中では僕はすでに恋人なんですか?そんな妄想認めないからね俺」

「そんな私にあんな事までしたのに!? 認知してくれないの!?」

「いや、そのセリフ、事後どころか、色々その後の結果まで出てるからね。そんな責任取れませんからね」

「捨てるのね!? 捨てちゃうんですね!? 非道い!あんまりだわ!」

「さー茶番は終わりにして依頼完了手続きお願いね」

「あ、はい」


 俺は遠出して少し疲れているので、さっさと話を戻すために強引に漫才を切った。

 俺は依頼品をカウンターに乗せる。


「はい、確かに月光草3枚ですね。今、鑑定しますから少々お待ちくださいね」


 そう言ってアミュットはカウンターの下から縁のない眼鏡を取り出してスチャッとそれを掛けた。


「それはなんだアミュット?」

「はい?ああ、これは『鑑定』の魔法付与がついた眼鏡ですよ。私、薬草とか基本的な鉱石なら普通に鑑定できるんですけど、月光草のような珍しいものになると報酬も高額になるので、間違いが無いようにこれを掛けるようにしてるんですよ」

「なるほどな」


 そうすると門に付けられた『解析』の魔法もその魔法付与ってわけか。


「ん?というか初めて俺が薬草持ってきた時、それ使えばよかったんじゃね?」

「あー、まあそれは、私も採掘者ギルドの端くれですから、何というか、その職員の矜持と言いますか」

「なるほど。見栄を張ったってことか!」


 俺がそう言うと、アミュットは歳不相応に頬をぷくーっと膨らませて子供らしく顔を赤くする。


「もおお!過去の事を愚痴愚痴いう男性は嫌われますよ!減点1点です!」

「なんだその減点1点って」

「そりゃあもう、私の好感度得点ですよ。あ、ちなみにケンイチさんの私への好感度得点はまだ1345点あるんで気にしないでくださいね♪」

「ちなみにその得点ってどれくらいの好感度なの?」

「0から10が知り合い、11から50が友達、51から80が親友、81から100が好きな人、101以上は最愛の旦那様ですね♪」

「ん~?あれ~?なんだか大分振り切っちゃってるぞ~?」

「そりゃあもう、最初の登録の書類の時点で1200程加点されてますから♪」


 ちなみに残りの346点はどこで加点されたのかは聞かないでおこう。

 怖いから。


「それで、依頼品はどうよ」

「あ、はい大丈夫ですね。確かに月光草です。では今手続きしますね」


 そう言ってアミュットは書類を手慣れた手つきで書き進め、契約金の10銀棒(ジラ)と報奨金の1金棒(ゼラ)をカウンターの上に置いた。


「おお、やっぱりゼラを貰うとなんかこう、やり遂げたなって感じがするな!」

「ふふ、ケンイチさんにはもっともっと稼いでもらわないといけないんですから、二人の将来のためにも頑張って下さいね♪」

「……前から思ってたんだけど、アミュットさんや、あんたどこまで本気なん?」

「?なにがですか?」


 いかん。この人、目が本気や。俺の質問の意図とか全然分かってない。


「ま、まあいいや。取り敢えず今日のところは部屋に帰って休むとするよ」

「はい。じゃあ私も仕事終わりましたら、すぐに帰りますね」

「……ちなみにどこに?」

「ふふふ、今夜は楽しみですね♪」


 俺はすぐさま周れ右をして、ダッシュでギルドを後にした。

 今日は町の宿にでも泊ろう。うん。






 ということで、俺は今ゼーの町をぶ~らぶらしている。

 折角大金が入ったことだし、今日は日頃の疲れを癒すために上手いもんでも食べてゆっくりしようという算段だ。

 娯楽に興じてもいいのだが、この程度の文明では、ハイテクノロジーな時代に生を受けた俺には物足りないものしかないだろう。

 どうにもこうにも俺に適正のある世界はどこもかしこも、いわゆる中世・近世ヨーロッパ系のファンタジー世界で、最初の頃は色々嘆いたりしたものだが、今ではそんな事も慣れっことなってしまった。


 町の露店で売っていた俺の腕ぐらいある焼き魚を買って、それを頬張りながら賑やかな露店街を俺は歩く。

 新鮮な魚と絶妙な塩加減が舌鼓を打つといった感じだ。

 ハムホムしながら日中の町中をご機嫌な様子で歩いていると、少しだけ異質な雰囲気を漂わす空間が前方に見えた。

 何やら町の人々がヒソヒソしながら、ある一角を避けるように歩いている。

 なんだろうかと野次馬のごとく近づいてみると、10個程のキャリーケースの上に重厚な本を山ほど積んだ荷物の間に体育座りしながら顔を伏せているおそらく女性がそこにいた。

 旅行者にしては随分とまあ哀愁が漂っているなぁとそう思いながら、焼き魚を頬張りながらその前を横切る。


 グギュルルルルルルルルルルル!!


 何やらとても人類が発するような音じゃない音が女性の方から聞こえてきた。

 聞こえてきたと思ったら、ガバッと彼女は顔あげてこちらを見た。


「ん?あれ?お前」

「あ、の、その、食べかけで良いので、その魚、くれません、か?」

「あ、ああ、こんなので良ければ」


 俺はそう言って、目の前の顔が少しコケた女に手渡した。

 焼き魚を手渡すと、女はガツガツと勢い良く食べ始め、「う、うううう」と泣き始めてしまった。

 あっという間に食べ終わると女は立ち上がり俺の方に頭を下げてきた。


「ありがとうございました。おかげ様で助かりました」

「いや、別に良いんだけど、というかお前、魔法ギルド(レーテス)にいた確か、コーリアじゃなかったっけ?」

「え、私を知って……」


 とコーリアが頭を上げて俺の方を見ると、しばしの沈黙。そして、


「あ、あああ!あんた、は!ゲホッゴホォ!」


 急に大声を上げたせいかコーリアはむせて、咳き込んだ。


「おいおい。大丈夫かよ」

「大丈夫よ。このぐらい。これまでの仕打ちに比べればね」

「なんかあったのか?」

「なんかあったどころじゃないわよ!あの時、あんたが資金援助してくれれば、こんなことにはならなかったのに!」

「え、ええぇ~」


 何があったかは知らんが、濡れ衣もいいところである。


「責任取りなさいよ!責任!」

「いやいや、まだ会って二回目だろうが。それに意味わからんし」

「何よ!あんなに私のこと弄んだ癖に捨てる気!」

「おいおい、なんて聞こえの悪い……って」


 コーリアとそんなやり取りをしていると、俺たちの周りに知らぬ間にギャラリーが出来ていた。


「やだ。痴話喧嘩かしら」ヒソヒソ

「なんでもあの男が彼女を弄んだみたいね」ヒソヒソ

「ということは飽きたから捨てたってこと」ヒソヒソ

「そりゃそうだろう。あの荷物が事実を物語っている」ヒソヒソ

「ひでえ野郎だな。男の風上にも置けねえ」ヒソヒソ


 ちょっ、まっ!なんかとてつもない誤解が生じている。


「おい、コーリア! この状況の弁明をしてく、……れ」


 俺がコーリアの方を向くとこいつは目を手で覆って泣いているように見せているが、まるで俺だけに見えるように口元がニヤついていた。


 こいつ俺にたかる気かアアアアアアア!!ふざけんなアアアアアア!!


「おい、コーリア!お前!」

「きゃっ♪」


 俺がコーリアの肩を掴むとコーリアはわざとらしく可愛らしい悲鳴を上げた。


「あいつ暴力を振るう気か」

「だ、誰か衛兵を!」

「ふてえやろうだ!俺がとっちめてやる!」


 うおおおおおお!さらに誤解が広がっているぅううう!


「来い!陰に生きし者!《アシカゲシノビ》!」

「参上仕る。我、《アシカゲシノビ》」

「煙幕最大出力!急げ!」

「う、承った」


 急に呼び出されて、訳の分からぬ状況でいきなり命令された《アシカゲシノビ》は、戸惑いながらも煙幕を立てた。


「うわっ!なんだこの煙!」

「ゲホッゴホッ前が見えねえ」


 衆人環視の中、俺はコーリアの手を引いて急いでその場を離れようとしたが、コーリアは動かない。

 というより、荷物に手をかけて離れようとしない。


「お、お前なあ!」

「ほらほらいいから運んだ運んだ♪」


 ぶん殴りたい衝動に駆られたが、ぐっと我慢し、俺は律儀にもコーリアの荷物を半分以上持ちながらその場を離れた。

 くそぉ!絶対にこいつ許さねえ!


 こうして、俺は町での知名度が「たまに見かけるやつから」から「婦女暴行未遂のクズ男」になった。

 なんでこうなったの……トホホ。


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