一週間後
ゼーの町に到着してから一週間が経った。
その間の経緯を簡単に書き記そう。
・依頼を順調にこなす。
・町で部屋を借りた。
・町での知名度が「誰だこいつ」から「たまに見かけるやつ」ぐらいに上がった。
・教えてもないのに,アミュットが俺の部屋に頻繁に顔を出すようになった。←何これ恐い……
・ギルド長のじじいと依頼あがりに酒を飲みに行くぐらいの仲になった。
・未だにギルドの他のメンバーに会ったことがない。
さて,こんな感じだ。
今現在の俺はというと,今日は近くの開放鉱山(基本誰でも入れる)から依頼内容の品である「鉄鉱石」「天然粘土」を採掘してきて,丁度ギルドに着いたところだ。
「ただいまー」
「あ,ケンイチさんお帰りなさい♪」
「ほい,依頼達成の確認ヨロ」
「はい。ちょっと待っていてくださいね」
俺は依頼品をアミュットに手渡すと彼女は手馴れた手つきで確認していった。
「なあ,アミュット」
「はい。なんですか? 今日のデートのことですか?」
「んー?おかしいな。そんな約束はした覚えがないのだが」
「私が勝手に決めておきました」
「俺の予定は俺が決めるので却下だ」
「え~。いい加減,手ぐらい出してくださいよ」
「無理。なんか恐いから」
「ぶ~」
アミュットは頬を膨らませてむくれている。
人の住所を勝手に調べて押しかけるようなスト子(ストーカーな女の子)にどうして好意を持って行為に及べようか。いや及べまい。
「そんなことよりさ。俺まだこのギルドの他のメンバーに会ったことないんだけど,……いるの?」
「……それはいますよ。当たり前じゃないですか……」
「じゃあなんで目を反らすんだよ」
「気のせいです」
「いやいや事実ですよ」
何か後ろめたい事情でもあるのだろうか?
俺がそんなことを思案していると,二階からギルド長のじじいが降りてきた。
「おうじじい,ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「それが,人にものを聞く態度か!」
「まあまあ,そんな細かいことは気にするなよ。俺とじじいの仲じゃないか」
「馬鹿もんが!親しき仲にも礼儀ありと言うじゃろうが!それにお前さんなんかと仲良うなりたくないわ」
「安心しろ。俺だってじじいでフラグ立てるとか,死んでもお断りするぜ」
じじいEDとか誰得だよ。
「まあ下らないことはその辺に置いておいて,俺まだ他のギルドメンバーと会ったことないんだけど,そいつらについて教えてくれよ」
「ふむ。なんじゃそんなことか。お前さんの他に二人おるぞ。以上!」
「説明みじかっ!しかも少なっ!」
「じゃかあしい!うちは少数精鋭なんじゃ」
おそらく,このじじいの気難しさに多くのメンバーが去って行ったに違いない。
美少女のツンデレはまだ許容できるし,時と場合によっては,むしろ好感さえ抱く。
しかし,誰が好き好んで小汚いじじいの元で働きたがるか,しかも無意味に若干ツンデレ……,ウザさ1200%!!って感じだな。
「じじいが全て悪い」
「なんじゃと!」
「もっとじじいが近所に住むような当たりの柔らかい老人みたいな性格だったら,きっとこのギルドはもっとメンバーが増えるだろう。完」
「勝手に終わらすんじゃない!それに余計なお世話じゃ。中途半端なやつが来られても困るからのう」
それは言い訳だろう。
「まあでも,そのピンチに現れたのが,この俺ってわけだ!感謝しろよ!」
俺がそう言うと,アミュットはうんうんと頷いているが,じじいは苦虫を噛んだような顔をしている。
「ふん。お前さんがいなくとも,このギルドはやってけるわい。自惚れるじゃあない」
「あ,そ,じゃあ俺辞めるわ」
「え?」
「は?」
「世話になったな。それじゃあ!お元気で!」
「ちょ,ちょっと待ってくださいよー!ギルド長!!」
「おおおおおお,落ち着くのじゃあ,」
お前が落ち着けって。
俺は慌てた様子のじじいを見てほくそ笑みながら,二人の方に振り返った。
「冗談だよ。冗談」
「な,なんじゃ。紛らわしい……」
「もう。こういう冗談はやめてくださいよ~」
ってか二人のリアクションを見て,如何にこのギルドが窮地に立たされているか分かったような気がする。本気で辞めるか検討しなくてはいけないな。
「さて今日はまだ日が出てるし,簡単な依頼でもしようかな」
「はい。あ,でも溜まっていた依頼のほとんどはさっきのやつで,終わったんでした。今は依頼待ちの状態ですね」
「あーそうなんだ。そんじゃま暇つぶしに町でもぶらぶらしますかねー」
俺は体を伸ばしてそう呟く。
「若いもんが昼間っから遊ぶもんじゃないわい。ほれ,新しい依頼じゃよ」
じじいは懐から封に入った依頼書を取り出して,俺に手渡した。
それを見たアミュットは軽く目を開いて驚いた表情を見せた。
「珍しいですね。ギルド長に直接依頼願いが出されるなんて」
「まあのう。協働依頼じゃから,わしのサインがないと受けれんからのう」
「協働依頼なんて久し振りですね」
「なあ,協働依頼ってなんだ?」
俺がそう聞くと,アミュットはこちらを向いて説明を始めた。
「あ,協働依頼っていうのは,うちのギルドと他のギルドや施設が協力して行なう依頼のことです」
「へえ,そんなのがあるのか」
「まあ,他所のギルドは結構あるんですけど,うちの場合は割りと一人でこなせるものばかり扱っているので」
「なるほど。確かにね」
つまりその協働依頼ってのが俺に回ってきたということか。
「まあ,お主は口は悪いが腕は確かのようじゃからのう。ものは試しというわけじゃ」
「褒めるなら素直に褒めろよ。周りくどい」
「うるさいのう。お前さんみたいのは,そうやって付け上がるからこっちとしても素直に褒めれんのじゃ!」
「はいはい,気をつけるよ。んで,どこのギルドとの協働依頼なんだ?」
「戦士ギルドとじゃ」
「ふーん。依頼内容は?」
「自分で読むんじゃな。わしは疲れたから部屋に戻る」
「あ,おい」
じじいはそう言い残すとのっそのっそと二階にあるだろう自分の部屋に戻っていった。
「なんだ。あのじじい」
「取り敢えず,依頼内容の確認をされてはどうですか?」
「それもそうだな」
アミュットに促されて,俺は依頼書を確認するために封を開けた。
依頼内容はこうだ。
依頼形態:協働
依頼内容:バーレーイ山の中腹に生息する月光草を3枚採集
注意:1.月光草は数が少ないため,3枚以上の採取は行わないこと。
2.途中,町近郊には生息しないような凶暴なモンスターがいる可能性あり。
契約金:10銀棒
報酬:1金棒(経費も含んで)
依頼内容を確認した俺は,初の金棒報酬の依頼に少しワクワクしてしまった。
報酬が高いということはそれだけ,依頼の難易度が高いということだ。
「なあ,アミュット」
「はい何でしょう」
「協働依頼の場合の報酬の分け前ってどうなんだ?」
「ああ,それは大丈夫ですよ。こちらの依頼書に書いてあるのが,うちのギルドで支払われる報酬になります。他のギルドの方はそのギルドの依頼書に書かれた報酬を受取るはずです」
「なるほどね。……でもということは,ギルドによって報酬額が違う可能性があるのか?」
「はい。そうなりますね」
「依頼の報酬額のことは,他のギルドのやつに言わないほうがいいかな?」
「そうですねー。言っても基本的には,そういう仕組みであることを理解して依頼を受けているはずなので,問題ないと思いますけど,聞かれない限りは答えなくてもいいんじゃないですか」
「それもそうだな」
下手なイザコザはゴメンだしな。
「よし。それじゃあこの依頼受けるよ」
「はい。わかりました。それでは受諾印を押しますね」
こうして,俺は他のギルドとの初の協働依頼を受けることになった。
アミュットが確認したところ,戦士ギルドの方でも依頼受諾が成立したそうなので,夕方から出発することになった。
アミュットには勝手に俺の部屋に侵入しないように言い聞かせておいて,おそらく依頼中に野宿をするだろうから,その準備のために町の商店へと向かうべくギルドを後にした。