作戦会議
モントの解説は実に論理的で、4人とも目の前に座る小さな男の子が考えたとは思えず、開いた口が塞がらなかった。
口火を切ったのは鉱夫だった。
「き、君の名前は?」
「モントです。」
「そうか、俺はエルツだ。いやぁ~こんな子どもが⋯いかんな。助けて貰ったんだ。モント君、本当に君は凄い人だ。」
エルツは残った右手を力強く差し出した。モントはその手がどういう意味なのか分からず戸惑っていると、シュラウスがモントの右腕を取りエルツと握らせた。
「これは握手だよ。利き手を相手に差し出し、敵意が無いことを伝える。そして相手を称え親愛を示す行為だ。」
シュラウスの説明を聞きながら握ったエルツの手は、切傷と血豆だらけで鉱夫という仕事の大変さを物語っていた。
キンターも手を差し出し自己紹介をする。順にミュプフィアとシュラウスもエルツと握手を交わした。
「では、作戦会議といこうぜ!」
キンターの号令で岩陰で車座になって話し合う。クンペルは暫し湖の水で口を潤す。
「モントの話で条件は絞れた。太陽の出ている間は穴から出ず、攻撃してこない。となれば、午前中にかたをつけるのが良いだろう。」
「今夜はどうするのよ!?こんな所で襲って来る魔物と朝まで戦い続けるなんて無理よ!魔力量が足りなくなっちゃう!」
「朝まで持たせる方法か⋯。」
シュラウスの言葉にミュプフィアは憤慨する。確かに今夜が正念場だ。頭を悩ます3人を見てエルツが手を挙げる。
「話の途中で悪いが、俺はここでお前たちが来るまで2日凌いでいた。何か手掛かりになるか?」
「2日間、エルツさん独りで⋯ですか?」
「ああ。動けずに湖の水だけで過ごした。お前達が来た時が限界だったんだ。」
「火は焚きましたか?」
「出来なかったよ。腕もあんなだったからな。」
「⋯まさか、そんなこと⋯」
シュラウスの気付きは、モントの思考とも重なった。
「僕も確証はないですが…。あの魔物は魔力探知できるのかもしれません。火起こし等の小さな魔法も探知し、冒険者の不意を突く。だから魔法を使わないエルツさんは襲われなかったのかと。」
「やはり。となれば、夜は魔法を使えないと言うことか。」
シュラウスの言葉にコクリと頷くモントの頭を、キンターはガシガシと撫で回す。
「こんなに頭の良いやつだったなんて知らなかったぜ!モント偉いぞぉ〜!!」
「いっ、やっ、っっやめっ⋯////」
モントは皆の前で恥ずかしいのに嬉しくて、キンターの手を跳ね除けることはしなかった。くしゃくしゃに絡まった髪を見て、大笑いするキンターはまるで子どものようだ。
「よし!俺が夜、討伐すれば良いんだな!俺は魔法は使えねぇからな!」
キンターは相変わらず人の話を聞いていないようだ。
「ドヤ顔してるところ悪いけどそれは無理だ。鉱窟内は魔物の巣と化している。中はどう繋がっているか分からない。探す間に逃げられて鼬ごっこだ。不意を突かれたら⋯。」
まだ残る課題を話すシュラウスに、まるで分かっていない様な顔で首を傾げるキンター。
「お前達がサポートしてくれればいいだろう?」
「だ・か・ら!魔法使ったら駄目だって言ってるんじゃない!馬鹿なの!?」
「なッ!馬鹿だと!?」
「大馬鹿よ!」
再び喧嘩するミュプフィアとキンター。こうなったら収まるのは時間がかかる。モントは考えを巡らせる。
(⋯太陽⋯夜⋯魔法⋯穴⋯)
蚊帳の外だったクンペルは飽きて、ザントルツの結晶を蹴り飛ばして遊んでいた。コロコロと転がってモントの座っている背に当たり、目が合うとクンペルは不満そうに鼻を鳴らす。
「ごめんねクンペル。待ってて。」
モントはザントルツの結晶を掴み、クンペルに投げ返そうとしたその時、モントの中にピンとくるものがあった。
「これなら勝てるかもしれません!」
一番星が湖に映る頃、遂に魔の夜がやって来る。
モントの策に耳を傾ける一行は、魔物を迎え撃つ準備をするのだった。
湖の畔、4人はモントの持って来たマッチで火を起こし、只管にザントルツをすり潰す。
時折、すり鉢状の内壁に響き渡るズルズルとした嫌な音は魔物が穴を移動している証拠だ。夜行性であるのは確かなようだ。
後で聞いたが、エルツが隠れていた岩は魔物退治に冒険者が上から落とした物らしい。人諸共殺す気だったのだろうか。そんな冒険者も多いのか?
モントはキンター達に初めて会った時を思い出し(物騒だったな)と思う一方、キンター達の変化と今の状況に(人って不思議だな)と思うのだった。
「ところでコレ⋯どうするんだ?」
「キンターさん早いですね!この袋に詰めてください。あと⋯50個お願いします!」
「ご、50個!?」
朝が来るまで皆で削るザントルツは、月夜に舞って輝いていた。
「「「「出来たぁ〜!」」」」
空は明るくなり朝日が昇る。まだすり鉢状の内側には光は届かない。
「では、僕とクンペルが行ってきます。」
「本当に良いのか?」
「忌避剤があるので。シュラウスさんは気付いていたんじゃないですか?」
「ここまでとは思っていなかった。その機転には脱帽だよ。」
シュラウスは初めて会った時、モントが忌避剤で魔獣を追い払った事を分かっていた。なのにキンターに言わなかった。中々の食えない男だ。
「シュラウスさんには及びませんよ。じゃ、行ってきます。」
モントは割れた鉱夫のランプの皿に忌避剤を乗せ燃やす。一筋の煙を前に掲げながら、クンペルを連れ脆い土の道を進む。




