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カノープスの手帖  作者: あいはらしのや
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幼馴染

「何をした?⋯何者だ。」


 突き付けられた剣先は、震えもせず真っ直ぐにモントを捉える。

 クンペルは異変を感じたのか、前足を鳴らして加勢せんとばかりに白い息を荒々しく吐いている。臨戦態勢と言ったところだろうが、小さな馬一頭など冒険者の三人には何の妨げにもならないだろう。


(どうする!?交戦したって負けるのは目に見えてる。木々に囲まれて逃げることは不可能。となれば⋯選択肢はひとつ!)


「ぼ、僕は見誤っていたようです。ま⋯まさか、冒険者様一行の迫力が魔獣を追い払ってしまわれるとは!!⋯見ず知らずの僕達を助けていただいて感謝いたします!」


 モントは土下座でも何でもして、剣先というか意識をずらそうと考えたのだった。


(無茶苦茶だ⋯。何とかなるわけない!いっそ灰をぶつける⋯?この距離なら当たるけど⋯)


 下げた頭で手元を隠しそっと握る灰は、熱く掌がじわりと焼ける。

 キンターは、モントを見下ろしたまま暫く沈黙した後、剣を収めた。長い刃が全て収められる時までの数秒間がとても長く感じた。


「そうか、そうか!俺らの威圧感はすごいだろぉ!」


(あ、馬鹿な人で助かった。)と思ってしまったことを頭を振って消したモントは、キンターにぽんぽんと背中を叩かれ驚いた。


「ほら見ろ!シュラウスが変なこと言うから、殺しちゃうところだっただろ!ちゃんとした商人じゃないか!」


(ちょっと危ない人だ⋯。良かった。怒りを収めてくれたみたいで⋯。)


「キンターが極端なんだよ!俺はただ、この少年が何かしたんじゃないかって言っただけだろ!」

「だからって、魔獣を追い払うなんて出来ないわよ!魔法を使った様子も無かったし。それぐらい私だって探知出来るんだから!」

「ミュプフィア!シュラウス!もういいだろ、折角出会えた縁だ。少年と此処で夜を明かそう。良いよなッ!」


 キンターにガシッと肩を組まれるモントは、突き付けられていた剣先が脳裏に蘇りつつも、キンターの子供のような無邪気さに心の内が読めず少し怯えていた。


(怖い⋯断れない⋯。でも、敵より味方にしておくべき人達だ⋯と思う。)


「は、はい。冒険者様が一緒にいてくれるなら、僕も⋯安心⋯です。」

「そうだろう!じゃ、改めて!俺はキンターだ!此奴らは同じパーティーで⋯」

「私は魔法使いのミュプフィア。」

「俺はシュラウス。弓使いだ。少年の名前は?」

「僕はモント。旅をしています。」


 シュラウスとモントはしっかりと手を握り挨拶をするが、シュラウスの目が笑っていない気がした。あとの二人よりも、機転が利くというか何かキンターとは違う怖さを感じた。


「じゃあ、モント!お前幾つだ?一晩一緒に過ごすんだ。自己紹介でもしようぜ。」

「えっと、12歳です。キンター⋯さんは?」

「思ったより若いな!俺は19。ミュプフィアは17。幼馴染なんだ。」

「シュラウスさんは?」

「20歳だよ。俺はあとからこのパーティーに入ったんだ。」

「シュラウスをスカウトしたのは俺なんだ。丁度、後方支援を探しててな。ミュプフィアは至近距離の攻撃は良いんだが、長距離は安定しないんだ。」

「なっ///!?そんな事言わないでよ!気にしてるんだからぁ〜/////」


 キンターにポカスカ軽いパンチを繰り出すミュプフィアを、からかって楽しそうなキンター。言い争う内容から、互いの長所短所を良く知っているのが分かる。


 モントは幼馴染というのを初めて見た。

 二人の関係性はむず痒いような、友達という枠組みとは別の絆みたいなものを感じていた。


「二人、仲良いでしょ。」


 シュラウスがモントの隣で木を焚べながら、しみじみとキンターとミュプフィアの様子を見る。シュラウスは二人の間には入れない疎外感からか、寂しそうに見えた。


「はい。幼馴染って良いですね。僕は居ないので新鮮です。シュラウスさんは居ますか?幼馴染。」

「⋯うん。居たんだけど、別れてきちゃったんだ。いや、置いていかれた⋯のかな?」


 シュラウスは顔を曇らせ言葉が詰まる。置いていかれたと感じる出来事に、シュラウスの冷静さが形成されたのだろうか。


「聞いても⋯良いですか?」

「面白くないよ⋯?」


 眉を顰めつつも苦い笑顔を浮かべる顔は、揺れる焚き火で明るく照らされる。


「俺がいた街には魔術師が多く輩出される学園があってね、俺はそこの学園に通っていたんだ。俺の幼馴染で一緒に通ってたアリッサって言う子は今のモントと同じくらいかなぁ、小さくて可愛い女の子だった。」


 思い出を話すシュラウスは、星空の下だからか幼く見えた――。



「家系は子爵家で成績もそこそこ。彼女は学園内で目立つ存在じゃなかった。反対に俺の家系は代々魔術師で、兄達は王都の結界魔法師として働いてて、自分で言うのもあれだが有名人だった。


「シュラウスまた囲まれてて、話し掛けるの躊躇っちゃった。ほんと、凄いね!」

「凄いのは兄上達だよ。俺は何者でもない。みんな家系しか見ていないんだ。」

「そんなことないよ!成績上位なのに他の人達みたいに私を突き放したりしないし、努力もしてて、ちゃんと周りを見てる。シュラウスが優しいから人が集まるんだと思うよ?」


 花のように柔らかく笑ってくれるアリッサが、唯一俺の情け無い部分を曝け出せる相手であり、陽だまりのような存在だった。


 だが進学が迫った3年の時、そんなアリッサを俺は突き放してしまった――。

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