白面
「・・・・・という事で、学園紹介は以上ですかね」
「理解しましたわ。ところで、一対一専用の道場のような場所は無いのでしょうか?」
「此の学園のことを傭兵育成学園だと勘違いしてませんか・・・?」
放課後、彼女へ学校施設の紹介を行う。
ツバキさんが御友人と自称していたこともあり、自分がガイドを務めることになった。
本来は先生方の役割ではあるのだが、突発的な転校ということもあり、職員会議と重なってしまったらしい。
別に案内程度ならば苦では無いが、更に噂が蔓延してしまうのは困る。
友人として付き合う分にはいいが、恋仲というのは話が広がるのはちょいとばかしアレなのだ。
自分、あんま恋とか深く理解してないし・・・・・。
「・・・・・さて、話しておくべきですかね」
「心配されなくとも、週一の戦を終えた後にティータイムの時間を設けますわ!」
「そこに関しての相談をしようとした訳ではなく」
そうなんだ。
ティータイムの用意をしてくれるんだ。
へー・・・・・。
別に物に釣られた訳じゃないけど、モチベーションが急に上がってきたぞ。
チーズケーキとかあるかな・・・!
「ウチの世代、つまり現一年生は”厄災の四十五期”と呼ばれてましてね」
「!!!!!!!!」
「相変わらずアイスピックみたいに尖り切った笑顔ですね」
「・・・お嫌いでしたか?」
「少なくとも嫌いではありませんよ」
我が学園、私立珪碓学園にはとんでもない実力者が沢山いる。
そして、今代はクレイジーでファンキーな新入生が多い。
故に厄災と呼ばれている訳だが、やはり話すべきでは無かったか?
だがしかし、別に彼女は誰彼構わず勝負を仕掛けるような人間ではない。
意外と理性もあるのが彼女だ。
どうにかなるやろ!
「ところで、ツバキさん。その手に持ったレイピアは何ですか」
「獲物ですわよ?」
「そういう事じゃなくて」
やっぱダメかも。
剣先を撫で、闘志を燃やしに燃やしている。
もう無理っぽいッス。
忌憚の無い意見ってヤツっス。
「・・・そして何より、敵に回すべきではない方々が居ましてね」
「四天王的な御話ですか!?」
「ええ、はい。”特別指定生徒BIG5”と呼称されています」
失落の四十期における三銃士、金字塔の三十六期における六ツ指のようなものだ。
特別指定生徒というのは、戦闘力や影響力といったものが非常に高く、学校側から直々に危険視されている生徒のことを指す。
ハンデ付きタイマン勝負であっても勝てる気がしないような怪物揃いだ。
“黄金郷の開拓者”
手綱丸貴一
“綺羅星事件”
月光花燕
“ちみどろありす”
有栖川アリストテレス101
“懐古の糸”
一途ヶ咲初恋
“羽ばたきの壺”
榊天命
天地が引っ繰り返っても敵わないような強敵揃いだ。
しかも、殆どは拘りや意思が常人と比べて遥かに強固だ。
そして、藍縁ツバキさんはキャラが濃い。
つまり出会って仕舞えば、トラブルは避けられない。
出来ることならば相対しないことを祈るが、そうも上手くいかない。
いつかは邂逅し、争いが始まってしまうことだろう。
だから今、詳細を伝えたとしても戦争が早まるだけである。
「しかし貴女のことだから、契約や奸計を弄して戦おうするでしょう?」
「ええ、正当な手段で戦うのが一番後腐れがありませんわ」
「自分の時は?」
「・・・・・少し、嬉し過ぎまして」
あ、そんなにハッピーだったんだ。
そうなんだ。
照れる。
顔を仄かに赤く染めて、ぷいと外方を向く。
可愛らしい仕草だ。
思わず恋しそうになる。
「・・・・・しかし、不思議ですね」
「何がでしょうか」
「いえ、BIG5メンバーの誰一人として貴女に逢いに来ないのは流石に妙かな、と」
一途ヶ咲さんは兎も角として、他四人は好奇心等がゲキツヨ。
派手な演出と共に現れても可怪しくないが、兆候すら感じない。
「不可解を感じたら即時に戦闘態勢を取らなければメッ、ですわよ?」
「赤子扱いは止めてください」
「ならば此方ですかね、お姉ちゃんですよ〜♡」
「そういうプレイは望んでませんよ・・・?」
姉プも妹プも母プもお断りだ。
あの手この手で好きに落とそうとする手腕は見事の一言だが、手の平の上で踊らされるだけの自分ではない。
それに付き合ったら、毎日バトルすることになりそうだし。
絶対に恋に落ちないからな・・・!
「腑に落ちませんね、わたくしの美貌は世界一の筈ですのに」
「確かに超絶可愛いですけど、自分はその程度で魅了されませんよ」
「可愛いと認めましたわね?」
「・・・・・・・そうです、ね」
ヤバい。
端的に言うと、非常にヤバい。
話せば話す度に自身の内部を引き摺り出されてしまう。
このまま一緒に居たら、完全に自分の好きを把握され、その流れで恋仲になってしまうやもしれない。
彼女、想定以上に強い。
恋愛面に関しても、戦闘面に関しても。
チクショウ・・・・・!
或の日レベルの戦闘、週一ならまだしも毎日は本当にキツイからな・・・・・!
「あと、此の学園では世界一可愛いは禁句ですからね」
「・・・・・変な校則ですわね」
「いえ、学園のルールと言う訳ではなく———」
刹那。
違和を肌で感じる。
意思を持って誰かが此方へ向かってきているのだ。
全方位に感覚を集中させ、拳を握り、戦闘態勢へ移る。
「上だ・・・ッ!」
ぽわん、と。
間の抜けた音が廊下に響く。
天井に穴が空いたのだ。
楕円状の穴だ。
戦闘意欲や集中を削ぐような音だ。
それによって生じる隙を狙うつもりなのだろう。
穴を覗いてみると、内部の壁はパープルとブラックのチェック柄で彩られている。
「早速ですか・・・・・!」
「死合の時間ですわね、了解致しましたわ!」
穴から人影が落ちる。
言霊という概念があるが、こうも話題にした瞬間に出て来られると信じざるを得なくなる。
まさか、BIG5の一人が登場するとは———!
白と青、そして赤と黒を使用した、雄々しくも狂気的なコスチューム。
鋭利で前衛的な金のヘアー。
白塗り顔にぎょろりとした水色の双眸。
そして何より目を引くのは、Aliceと彫られたエレキギター。
「クハハハハハハ!!御機嫌麗しゅう、外から来たる者よ!」
或る生徒は、魔王と評した。
或る生徒は、聖者と評した。
或る生徒は、怪物と評した。
或る生徒は、神才と評した。
或る生徒は、少女と評した。
「おっと、すまぬな小娘!此処は吾輩から名乗るのが礼儀であるな!」
百の貌を持つと恐れられる、我が学園屈指のアーティストにしてエンターテイナー。
神をも殺めるメタルバンドを手繰る者にして、自称永遠の象徴。
ヤツの名前は———。
「吾輩の真名は、有栖川アリストテレス101!」
「メタルバンド”ナーサリー・ライム”のボーカル兼ギター担当、そして・・・・・」
「世界で最もアリス・リデルなアリスである」
束の間の静寂。
恐らく、BIG5の中でもトップクラスに濃い人間だ。
そんな人が彼女と相対してしまったぞ。
これは一体、どうなっちゃうんだ〜!?
本当にどうなる・・・・・?
吉と出るか、凶と出るか、はたまた大凶と出るか。
「メタル、ですか?失礼ですが、わたくしはクラシックしか聴いたことが無く・・・・・」
「ほう?ならば良い機会だ!吾輩のライブチケットを授けてやろう!」
おや?
有栖川さんが彼女にチケットを手渡したぞ。
更に言うと、想定以上に平穏な雰囲気だぞ。
これは意外だ。
「・・・・・宜しいのですか?わたくしの様な初心者が聞いたとしても、良さが分からないのでは?」
「クハハ!初心雛容易く沼に落つ、というだろう?」
「知らない諺だ」
片手でチラリとスマホを弄ってみたが、どうやら存在しない諺らしい。
それらしい造語を生み出しやがりまして・・・!
「それに吾輩の芸術は貴様等のようなニュービーにもグッドポイントが分かるような造りをしておるからな!」
「ふふ、それならば安心して鑑賞できますわ」
腕組みドヤ顔で語るバンドマン。
だが、実力は本物。
学生の領分を大きく超えた演奏術はプロ顔負けのメロディーを奏で、そして激しく脳髄を揺さぶる。
正にメタルバンド界のモーツァルト。
サリエリも思わず賞賛の拍手を送ってしまうぞ。
それにしても、彼女ったらクラシックくらいしか聴いたことないのか。
パブリックイメージの御嬢様そのままだが、何を聴いているのだろうか。
やはり、シューベルトかな?
「・・・・・うむ、温室育ちと聞いていたが、存外話せるではないか。吾輩驚嘆」
「それはそれは、お褒めに預かり恐悦至極です。これも全て、名花さんのお陰ですわ」
「何もしてませんよ?いやマジで」
謙遜はする方だと自負しているが、これは大真面目だ。
自分、彼女に教えを残してないし、気の利いたアドバイスもしていない。
したとすれば、細やかな助言くらいだ。
「名花さんが死合の契りをしてくれたからこそ、こうして学園へ通おうと思えたのですから」
「・・・・・週一ですからね?」
「週六!」
「刻みましょうよ!」
一気に六倍に増えるのは、流石に無法が過ぎる。
労働基準法的なものにスレスレの労働、もとい戦闘を行うことになってしまう。
時間と体力とその他諸々の大切なものを失ってしまうぞ・・・!
バトルフィールドが彼女の邸宅である以上治療やらは早いだろうし、死亡の二文字は無いと思われるがそれでも!
「・・・・・貴様等、仲睦まじいな」
「勿論ですわ。わたくしと名花さんは、所謂マブでございますから」
「三行では語り尽くせないようなあれやこれやがありましてね」
原稿用紙三枚でも足りないくらいだ。
出逢い、そして遊戯の数々。
後日談である館での騒動。
芸術家渾身の一筆にも負けず劣らずの濃さだ。
「委細理解。永遠の少女たる吾輩、有栖川アリストテレス101が貴様たちの出逢いを祝福してやろう!」
「・・・失礼ですが、男性ですわよね?」
「多様性に配慮しなくとも良い。根っからの漢である」
永遠の少女。
此処で一つ思い出したが、確かアリスという名にはそのような意味が込められていたと聞いたことがある。
発言は素っ頓狂なものにも映るが、アリス・リデルと自称していたのもあり、意外とキャラと設定は一貫している。
彼奴の良さの一つである。
初対面の彼女にとっては中々に衝撃的な登場だったが、窓硝子を破りながら現れるよりはマジだろう。
彼と関わって二ヶ月経つが、一つ分かったことがある。
他四人に話が通じなさそうな方が居る故、このバンドマンがマトモ枠を一身に背負っていることだ。
ギャップ萌えとは正にこのことである。
「そう言えば、紹介が未だでしたね。彼女の名前は・・・・・」
「構わん。貴様等の噂話は学園の隅から隅まで届いている。藍縁ツバキであろう?」
「・・・・・そんな噂になってるんですか?」
「そうであるぞ。イチャラブカップルだと話題だ」
随分古臭い表現だ。
イチャイチャでラブラブだなんて、尾鰭が付きに付いた噂話だ。
何処からどう見てもただの愉快な二人組だ。
「貴女としては嬉しい筈で・・・・・ツバキさん?」
「そ、そうですか。うふふ、恋人のように見えたんですわ、ね」
ああ、恥ずかしいらしい。
他人からやられるのは苦手なタイプだったのか。
無論、コッチも死ぬ程恥ずかしいが、テレビのお陰で事なきを得ている。
赤面を見られずに済んでいる。
その代わり、スクリーンには感情に対応した記号やマークが出るので、何を考えているのかはまる見えだ。
現在、赤面の絵文字が浮かんでいる。
普通に赤面見られた方がマシじゃないですかコレ?
「・・・さてと、そろそろ本題と参りましょうか。他にも用事があるのでしょう?」
「む、貴様には御見通しであったか」
「そういう目をしてましたから」
「具体的には、どのような目でしょうか?」
「何か、こう、隠してるよー、みたいな・・・・・」
「感覚派ですのね!」
誉め殺しかな?
実際に人を見る目には自信があるのだが、こうしてやられると・・・・・そうだな。
身体が疼く!
悪い意味で!
あまり他人から褒められた経験が無い故の衝動を抑えようとしていると、肩部分のパーツから紙切れを取り出した。
それも二枚。
受け取り、紙面を確認してみる。
「・・・・・ライブのペアチケット?」
「商店街に棲まう幸運の女神は吾輩が好きなようでな。回転車輪で二等を獲得したのだ」
ははあ、商店街のガラガラで銀玉を当てたと?
随分タイミングが良い話だ。
「掻っ払うのも良かったが、貴様にプレゼントしてやる。態々部屋まで取りに行ったのだ、平伏して謝意を捧げるが良い」
「それでは、有栖川アリストテレス101様、この度は・・・・・」
「小娘!今のはアリスジョークだ!」
「アリスジョークって何ですか」
本当に土下座しようとする美少女を慌てながら止める白塗りバンドマン。
うむ。
面白い絵面だ。
それと本当にアリスジョークって何ですか。
チェシャ猫とかドードーとか、トカゲとかハンプティダンプティ要素をふんだんに盛り込んで下さいよ。
だが、貴重な品をタダで譲ってくれたのだ。
これは感謝しかない。
感謝以外もあるタイプの感謝しかない。
見た目と違い、超のつくほどの善人だ。
後で菓子でも奢ろう。
「しかし、ペアチケットですか」
「わたくしは大歓迎ですわ!」
「・・・・・音楽は好きですからね。付き合いますよ」
また更に宜しくない噂が広がるのは困るが、折角の機会をふいにするのもアレだ。
それに彼女の笑顔を曇らせるのも嫌だ。
是非、彼女とのライブデートと洒落込もうではないか。
「それでは名花さん、そのライブでプリマドンナを務めるのはどのようなアーティストなのでしょうか!」
「天蓋魔教のミゼっち」
「何と仰りましたか????????」
お前ちょっとエタリタ脳すぎるな




