雷火
「それでは、此方からッ!」
先手必勝と言わんばかりに、西洋剣による大胆な横振りが飛んできた。
バックステップで避けるが、更に追撃が迫り来る。
「せいやっ!そいやっ!」
掛け声は可愛らしいが威力は全然可愛くない。
研がれた剣による強撃、喰らって仕舞えば無事では済まない。
当たり所が悪ければ骨までバッサリだろう。
自分、頭が脆いから一撃当たったら即アウトだぞ?
頭というか、被り物というか。
「辞めましょうよッ・・・!争いは何も生みませんよ!?」
「無窮の幸せを生みますわ!」
「貴女みたいな人初めて見ましたよ⁉︎」
ダメだこの人。
血潮を流す事と強者の屍を作る事でしか興奮できない人間だ。
有り体に言えばバトルジャンキー、それも重症である。
相手が御嬢様ということもあってどうにかなると鷹を括っていたが、想定以上に太刀筋が鋭い。
最近の令嬢はピアノとバイオリンと剣術が基本装備なのか?
「だがッ!まだまだですねッ!」
「・・・・・!」
連撃を躱し、剣だけを的確に蹴り上げる。
幾ら強靭御嬢様と言えど、筋肉量には限りがある。
刀身蹴られたら離さざるを得ない。
武器没収だ。
剣は縦回転しながら飛び上がり、数十メートル遠くの床に刺さった。
比較的荒削りであったが、それでも筋は悪くない。
これから更に成長すると考えるとゾッとする。
引越しセンターへ電話すべきか?
「あら!蜂鳥に負けず劣らずのスピードですわね」
「相も変わらずのテンションですね・・・。兎も角、獲物が無い以上は貴女の負けです」
よ。
最後の一言を発した瞬間、天井に穴が空いた。
空いた、と表現するより。
開いた、と言うのが正しいかもしれない。
きっかり正方形の穴が開くと、棒状の何かが落ちてきた。
薙刀である。
彼女はそれを右手でキャッチすると、再び笑顔を見せた。
「女性の武器は一つだけじゃないのですよ?」
「・・・・・武芸百般志望者ですか」
え?
嘘でしょ?
剣の腕前も中々のものだったのに、薙刀も?
セカンドシーズン突入?
「わたくしの全力、受け止めてください♡」
「拒否します!!」
跳躍し、薙刀の振り下ろし。
ローリングで避けると、程なくして粉砕音が響いた。
ワンテンポ置き、返す刀で空を斬る。
カーペットの下は大理石であったようで、破片が静かに絨毯へ落ちた。
心臓、ずきゅんずきゅんしてきた。
死への恐怖で拍動が増し、血液が激しく廻る。
どうしてこんな目に・・・・・。
ただ、バイトをしたいだけだったのに。
「あーい!しーて!」
「ますます不味いッ!」
「相性バッチリですわね・・・!」
「ではそのラッシュを止めて貰えれば!」
先程よりも過激な攻勢が続く。
右上段振り下ろし、横薙ぎ、回転大払い、下段振り上げ、切先刺突。
様々な種類の技を織り交ぜており、反撃を許さない。
飛んで跳ねての動きでどうにか無事でいるが、そろそろ武器を弾かないと死ぬぜ!
上半身を極限まで反らし、横薙ぎを回避。
柄を掴み、動きを強制的に止め、そして膝で蹴る。
バキリと軽快な音と共に折れ、無用の長物へと変化させた。
「バトルジャンキーモードでもういっちょ、ですわ!」
「ずっと血狂いですよ貴女は!」
予想できたいたことだが、第三形態があった。
今度落ちてきたのは斧。
トマホーク二刀流である。
真っ赤に染まっているが、まさか血濡れの斧ではないだろうな?
満面の笑みで斧を投擲する。
頭を下げると、ドスドスと後方の壁へ刺さった。
余程力を入れて引っ張り出さないと抜けないくらいには、深く深く突き刺さっている。
「おかわりですっ!」
元気溌剌に叫ぶと、穴から次々に斧が落ちてきた。
ガチャガチャ、ガチャガチャ、と。
刃同士が触れ合い、耳障りな金属音を奏でている。
数は目測約五十個。
掴んだ瞬間から投げつけており、その姿はまるでマシンガンの様である。
階段を駆け上がりながら逃げているが、直ぐ後ろから風を切る音と突き刺さる音が聞こえる。
きっと、今頃階段は針鼠になっているのであろう。
一通り投げ終えると、次は鈍器が彼女の手に渡った。
「消費物じゃないんですから・・・・・!?」
全長百六十センチ余り。
スレッジハンマーとしては規格外のサイズだ。
少しばかし重そうだが、難なく両手で構えた後、妙な持ち換えを行った。
いや、待て。
自分はあの構え方に見覚えがあるぞ。
柄の先端部分だけを持ち、身体を素早く捻り、独楽よろしく回転し・・・・・。
「———愛しき人よ、死なないで下さいね?」
ハンマー投げである。
事前に勧告していることもあり、先程までよりもキレのある投擲だ。
重量もかなりのものであるのに関わらず、スピードはトマホークの三割り増しだ。
破壊力も洒落にならない。
違えた。
過剰な想定外に摂取により、反応が遅れてしまった。
予定が瓦解する音が耳元で囁く。
文字通り、ハンマーによって全てが壊されてしまうのだ。
ああ、不味い不味い!
完全に全てが狂ってしまった!
このままだと、自分はこのままだと・・・・・!
「プランBを発動せざるを得なくなる」
限り限りまで引き付け、渾身の力で蹴り上げる。
重量等の問題もあり、足がとても痛んでしまった。
だが、上空へ飛び上がった大槌はエネルギーを増しており、大抵の壁なら赤子の手を捻るより簡単に破壊できるであろう。
尤も、今回ばかしは違う。
壁ではなく、天井を破壊して貰う。
エネルギーは足りるだろうか?
無事に蹴り上げられるだろうか?
タイミングは合うだろうか?
様々な要因故に次善の策としていた、天井破壊脱出術。
メジャーリーガー顔負けのクリーンヒット。
天井には大穴が空いており、青空が此方を見下ろしている。
「〜〜〜〜ッッ!!」
が、当然と言うべきか。
此の行為は篝火に松の実を入れると同意。
理由は単純明快。
「真に素晴らしいですわ・・・!わたくしの目に狂いは無かったのですね!」
「そうなるよなぁ・・・・・!」
至極当然の通り。
戦闘大好きな彼女ならテンション上がってしまうに違いない。
だけど、此方とて綱渡りの賭けだったことは気づいて欲しかったなぁ!
天井までハンマーが届くか不安だったし!
さて、突破口がこうして開けた以上、此処に留まる理由はホントに無い。
ドアノブを起点として跳躍し、穴に手を掛ける。
後はそそくさとクライミングすれば・・・・・
「外だ!自分はやったぞ!」
現在時刻午後二時。
無事脱出完了。
折角の日曜日にタイマンなんて野蛮なことしたく無かったぞ。
館の中に入れたのはやや嬉しくはあったが!
まあ、過ぎた事は良いだろう。
これも一つの貴重な経験として胸に取っておこう。
クレイジー御嬢様と戦うなんて機会、そうそう無いぞ。
「外に出たことだし、もう攻撃はしてこないでしょう———」
刹那。
轟音が鳴る。
「な、何だあっ!?」
当惑していると、更なる揺れが自分を襲う。
有り得ぬ、有り得ぬ、有り得ぬぞ!?
此処は紛れもなく屋外だ!
幾らセレブとは言え、実力行使は不可能に近いッ!
「・・・・・わたくしのテリトリーは、屋敷と庭にまで及びます。詰まるところ、ですね」
勢い良く影が飛び出す。
それは太陽を数秒だけ隠し、そして屋根へ降り立った。
打刀、ファルシオン、ツヴァイヘンダー、薙刀、ダガー、匕首、クレイモア、サーベル、パタ、双剣、グレイヴ、カトラス、長穂剣、フランベルジュ。
世界各地の剣たちが重なり合い、喧しく金属音を奏でている。
其れ等は歪に絡まり合い、一つの形を為している。
爛々と光る双眸。
文字通り、短剣になってしまった牙。
誇らしげな光沢を発する、ブロードソードの鉤爪。
全身危険物というのに相応しい四足歩行の風貌。
端的に言うのであれば、剣で模られた獣にして怪物。
それが、今の彼女こと藍縁家当主。
藍縁ツバキであった。
「門から出るまで、治外法権は終わりませんわよ?」
「巨頭の村ですか貴女は!?」
踵を返し、一目散に逃げ出す。
勝てて溜まるものですか、あんなもん。
まともに接近戦も仕掛けられないボディしてるじゃないですか。
ステゴロタイマンメインの自分じゃあ、どうやっても太刀打ちできない。
暗中に居るが如く勝機が見えないぞ。
ガションガション、と愉快な刀剣たちの悲鳴が鼓膜を撫でる。
ホールドされたら一巻の終わり、コマ投げからのマウントアタックでエンド直行だ。
生憎、まだ現世ではやり残したことが沢山ある。
老衰以外で死ぬのは御免である。
「せい・・・やぁッ!」
屋根の端を踏み、宙へ飛び出す。
アクション映画の主人公にでもなった気分だ。
虚空を踠きつつ地面へ転がる。
受け身は無事に行えた。
だが、しくじった。
上から向かうべきでは無かった。
受け身を取りながら駆け出す姿勢は取れたが、それでも少しばかしだが隙は生じる。
「・・・・・距離が足らないな」
故にこうなるのは。
真に口惜しいがら自明の理、というヤツである。
砲弾が如き衝撃とほんの僅かな鋭い痛みを感じる。
彼女に捕まってしまったようだ。
身体を引っ繰り返され、目と目が合う形となる。
御嬢様にしては人外染み過ぎている瞳が此方を覗き込み、鋭利な指で優しく顔をなぞった。
「・・・・・鬼遊びもお終いですわね」
「なぁんで、ちょっと寂しそうなんですか」
「いえ、ただ、楽しき時間は終わるのが早いなと」
数十分程度の付き合いであるが、彼女のパーソナリティはそれとなく理解している。
強きモノが大大大大好きな人間なので、こうして呆気なく戦闘が終わるのが悲しいのだろう。
しかも、自分は基本的に逃げに徹していたし。
確かに良かったが心の底から満足はできていない、といった心持ちなのだろう。
「ところで、一つだけ質問宜しいでしょうか?」
「首掻っ切れるような人相手に逆らうつもりはありませんよ。何でも答えます」
「それなら失礼ですが、出逢った時から気になっていたことを」
残念ながら、自分はただの人間だ。
近接戦闘は人並み以上に熟せるとは言え、マウントを取られた状態から逃げ出せるほどに卓越した技術を保持していない。
此処から形勢逆転は難しいだろう。
「どうしてテレビを被っているのでしょうか?」
生体電流。
生物に流れている微弱な電気信号である。
デンキウナギといった特殊な生物だけが電気を発すると思われがちだが、実際は異なるのだ。
では、その電気を増幅することが可能となったらどうなる?
普通は無理であろう。
最近のテクロノジーでも未だ不可能だと考えられている。
しかし、物事には例外が存在する。
此の場合は偶々、自分であっただけだ。
「雷火」
利き手たる右手から雷電が迸る。
金属生命である彼女にはよく効くであろう。
しかも、直の雷撃。
クリティカルヒットどころでは無いだろう。
「あ、ああッ、貴方は・・・・・ッ!」
「残念賞、今回ばかしは自分の勝ちです」
剣の群れが崩れ、内部から黒焦げた服を纏った彼女が現れた。
よろよろと立ち上がり、きらきらとした瞳で此方を見る。
寂しげなオーラは嘘のように消え失せ、メントスコーラのような爆発的な感情を吹き出させている。
「神が如き力・・・ッ!そういうタイプの人でしたかッ!」
「テレビマンですから」
電子機器を被ったことにより、様々な偶然と奇跡により、そして自分も分からぬナニカの力もあり。
テレビを被った自分は生体電流を強化できる。
とは言え、弱点は多い。
あくまで生体電流という微弱な電気信号を強化したものであり、触れ合わないと効果は薄い。
更に電気という特性もあり、自分自身をも傷付けてしまう。
何度も連続に使用できないのだ。
「ですが、最後に生き残ったのは自分ですッ!」
それでも、自分は勝ったのだ。
今日もクソデカい理不尽に勝ち取ったのだ。
ようやったな自分。
やはり天才か?
ルンルン気分で門へ向かおうとし、逡巡。
振り返って蹲み込む。
青空を仰いでいる彼女へ言葉を投げ掛ける。
「救急車呼びます?」
「いえ。自らの無力を噛み締めたいので」
「そうですか」
しっかり意識は残ってるようで、仰向けになりながらそう返した。
中々にタフだ。
「・・・・・自分は好きでしたよ、貴女の戦い方。カッコよかったですし」
「!!!!!!!!」
「まあ、些か波瀾万丈な出逢いとなりましたが」
肩を貸し、立ち上がる。
外に放っておくのも忍びない。
せめて、屋内でないと風邪を引いてしまうぞ。
「恋人とかじゃなくて、友人から始めませんか?」
「・・・・・・・・め、め、めめめめ」
熟れた林檎くらい顔を真っ赤に染めて、全身をわなわなと震わせている。
挙動不審なまばたきをし、鯉のように口をぱくぱくさせ、全身に熱を帯び。
そして彼女は。
「め!」
「め?」
一言発し、気絶した。
オーバーヒートしたいみたいだ。
「・・・・・・・・愉快な人だなぁ」
的外れな感想を抱きつつ、館へと戻る。
彼女が無事に眠る為に。
————————————
「昨日は大変だったなあ」
翌日。
何事もなく平穏に帰宅でき、平穏に朝を迎え、平穏に登校できた。
ホームルームまでの余暇時間をスマホで潰しつつ、昨日のことを思い出す。
応接間のソファに寝かせたが、風邪は引いてないだろうか?
幾らメイドを呼んでも出てこないし、自身が破壊した館の中で彼女が起きるまで待つというのも居心地が悪い。
なので帰ってたが、大丈夫であろうか?
流石に心配なので、放課後に再び訪れてみよう。
「菓子折りはどうするべきか・・・・・」
謝罪土産を何にしようかと勘考していると、電子の鐘が鳴る。
時間だ。
丁度先生が入ってきたので、起立の準備を行う。
「お早う御座います。少し当然にはなりますが、皆さんに良いニュースがあります」
「?」
良いニュースだけだと?
何であろうか。
学食のメニューでも増えたのかな?
それとも、学校内イベントが新設されたのかな?
鼻息荒く発表を待っていると、チョークを黒板に走らせた。
おお。
何であろうか・・・!?
「転校生です」
その台詞が放たれると、クラス中のボルテージが一瞬で最高潮へ達する。
爆発でもしてしまいそうだ。
それにしても、転校生とは!
学園生活でもトップクラスの希少度のイベントだ!
テンション上がりますねぇ!
「入って下さい」
扉が開かれ、一人の少女が教室へ入る。
純白の制服。
篝火のように赤い髪。
サファイアが如き双眸。
・・・・・む?
ん?
待てよ?
え?
存じ上げてる方だぞ?
「御機嫌よう皆さん、藍縁ツバキと申しますわ。藍縁家当主兼」
不適に素敵な笑顔を浮かべ、自己紹介を行う。
紛れもなく、ヤツだ。
やりやがったあの人・・・!
入学しやがりましたよ・・・!
いつから計画していた!?
お金とかの力で無理やり入学した訳では無いだろうでしょうね!?
かつてない動揺をしていると、彼女は此方に気付き、にこりと微笑む。
な・・・何やこの気分は・・・・・!
まるで大切な諸々が崩れていくかのような予感が・・・!
「名花さんの御友人です」
臆面もなく、そう答えた。
当然、クラスメイトは騒めく。
好奇と奇異と怨恨、その他エトセトラの視線が刺さりまくる。
「・・・・・・・・愉快な人だよ、ホントに」
小説 いっぱい並べる やり方




