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猫とASMR


 世にはASMRなるものがあるらしい。

 らしい、というのは、私は人の咀嚼音が苦手であるが故に、そのジャンルの音や動画を視聴したことがないからである。

 興味がない癖に、どうしてASMRのことを話題に出したかというと、それは猫のせいである。

 私は根っからのインドア派であり、休日も必要な用事を済ませたらずっと家に篭っていたい、典型的なオタクである。必要物資の買い物を済ませ、家事を終わらせた後、お茶を飲みながら映画やアニメを消化したり、漫画を読んだり、推しのグッズを整理整頓したりするのが最高に幸せなのである。

 我ながら暗い性格だが、子供の頃からこうなので仕方がない。

 が、しかし、運動不足は健康に良くない。

 数年前から推しているコンテンツは、何かが起きない限りあと二十五年くらい続くと思われるため、私はその日まで健康に生き続けねばならぬのである。

 食い意地が張っているため栄養はしっかり摂っているし、毎日六時間くらいは寝ているため、残すところ必要なのは運動なのだが……運動が大嫌いなのである。

 故に、最低限の運動はしている、という免罪符を己に与えるため「一分間のプランクと五回のワイドスクワットをしなければ就寝できない」という縛りを作っている。

 余程体調が悪くない限りは、やりたくないなぁ、嫌だなぁと数十分悪足掻きしてダラダラ時間を浪費しようが、最終的にはやっている。たった一分間のプランク程度が何だっていうんだよ、そうそう変わらんわという意見は尤もであろう。だが、全くやらないよりは多少なりともマシではないかと信じて行っている。

 この細やかな筋トレは一人の部屋で行っているのだが、近頃、私がプランクをしていると、猫がいそいそやってくる。

 彼はプランクをしている私を踏み台にしてソファや棚の上に飛び乗ったりしてくる訳だが、そこで崩れ落ちる飼い主ではない。

 まあ猫の重さなどたかが知れているし、一瞬のことなので、野太い声で「うぉっ!」と驚きの声を上げるくらいで済んでいるのだが、最近になって新たなバリエーションが追加された。

 謎の咀嚼音である。

 私の顔の真横にやってきた猫は、何も食べていない筈なのに「ちゅく、ちゃむ……ちゅむ……。」みたいな感じで、やたら湿った音を超至近距離で聴かせてくるのである。

 初めてやられた時には、触れられてもいないのに何故だか耳に違和感があるような気がしたし、なんならこれまで、共に暮らしてきた11年という歳月の中で一度もやってこなかった謎の行動を取ったことに笑ってしまい、そのまま崩れ落ちてしまった。

 その後も、どうしてなのか定期的に猫はプランクをする私の所にやって来て「ちゃむ、ちゃく、ちゅむ……。」とやたら湿っぽい音を聴かせてくるのである。

 彼が何故、何を思って強制ASMRをかましてくるのかは分からない。

 たまに気になって、プランクを維持したまま首だけ横を向いて猫の表情を確認するのだが、いつも通りの感情を読み取れぬ猫のデフォルト表情である。

 目が合うと咀嚼音を止めるが、ジッ……と見詰めあった後に、目を逸さぬままにまた「ちゃむ、ちゅく、ちゅむ……。」と再度の強制ASMRが再開されるので、ここでテンドンを食らった飼い主は崩れ落ちて大笑いするしかない。

 とんだ腹筋ブレイカーである。

 しかもたちの悪いことに、彼の気紛れは忘れた頃にやって来る。

 油断し切った人間の元に、不意打ちで強制猫ASMRが始まるため、笑いによって「ンフ、ふぐっ……!」とおかしみと重力のダブルパンチによって腹筋が試されるという訳だ。

 猫は筋トレを邪魔する生き物であるとは有名な話だが、まさか音で攻めて来るとは思わなかった。

 今夜も、猫による腹筋への抜き打ちテストが起きないよう祈るばかりである。



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