顔の黒い猫と暮らす
私は猫と暮らしている。
ラグドール、ニューター、11歳。
ブルーポイントミテッドという模様であり、要するに白い手袋と靴下を履いたような柄であり、顔の中心と耳と尻尾が濃いグレーということである。
ニューターとはなんぞやというと、去勢手術済みの雄猫のことである。
彼は、先代であるサモエドを失い、ペットロスでどうしようもなかった人間のエゴイズムによって我が家にやってくることになった。
大きな犬の次は大きな猫をという安直な飼い主の身勝手により運命が決まったのだが、しかし、彼は本日も絶好調に走り回り、私の座椅子を占領し、ベッドの半分に広がりを見せ、腹を出して「オラ、撫でてけよ」アピールを欠かさず、更には本日もドライフードを56グラムも完食する超健康優良キャットであるため、たぶん不幸ではない。と、人間としては思いたい。
因みに、彼の名誉のために追加しておくと、彼は11年間に及ぶ猫生の間に一度として太ったことがない。
彼はとてもよく走る猫である。
我が家に来たその日からもうノンストップで走り回っており、今を持ってしても、まだ毎日飽きずに走り回っているのである。
運動量が凄いことになっており、いつも一階から二階までの階段を何往復も走り回っている。
飼い主たる私も同じように階段を往復させられている。
そう、彼はなんと、追うよりも追われたい派の猫なのだ。
なので、飼い主の義務として、私は日々会社に行く前のひととき、逃げる猫を何往復も追わねばならないのだ。
たまに家族を巻き込み「今ここに顔の黒い猫が来なかったか!? バッカモーン! それがルパンだ!」などという小芝居を挟みつつ日々、猫がハァハァ息切れして満足するまで追うのである。インターポールの刑事のように。
このように彼はかなりアクティブな猫である訳だが、残念なことに私は運動という概念を憎む人間であるため、特に意味もなく階段を往復するのがちょっとつらい。
大抵は5往復目ぐらいで嫌になり、サボって別なことを始める訳だが、そうすると怒りを迸らせた猫がやってきて爆音ボイスで「ニャー!!!!!」と抗議をしてくるため、謝罪し、また追い掛けるのである。
こんな生活を送っている私だが、自分を猫の奴隷とは思っていない。
猫好きにとっては猫を飼っている人間は全て猫の奴隷であるという解釈であるようだが、私は別に猫好きではないのだ。
他所の猫も可愛いとは思うが、しかし、私が好きなのは私と一緒に暮らしている猫だけなので、他所の猫が追いかけっこを所望しても応じるつもりは毛頭ない。故に、猫の奴隷ではないと考えている。