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魔王♂は勇者♀を溺愛したい-捨てられ勇者、魔の地で家族ができました!-  作者: 三嶋トウカ
【第一部】第四章:人間領の一手

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第56話:手土産は誰が為に_2


「……いいかもしれない」

「わしもそう思うのじゃ。……しかし、流石に市場の道が通れんの」


 ――全員、黙る。


「小さい版、一応あるんだが……」

「最初にそれを出して!?」


 ガァトはどこからか、今の壁の小さい版を取り出した。サイズは枕の大きさほど。厚みは変わらないらしい。

 見た目は巨大版に比べて頼りなかったが、ミトスが試しに頭を預けてみると、支えられる範囲が狭くなっただけで、安心感そのものは変わらなかった。


「これは……こっちの小さいほうなら、チャンスはあるかもしれないわね……。私がほしいくらいだもの」

「なら、一つはやろう」

「いくつかあるの?」

「あぁ。帰ってきたら持っていく」

「嬉しい!」


 思わぬ副産物に、ミトスは微笑んだ。


「最後は私からも」


 ミトスは小箱を一つ出した。

 蓋の内側に花歌いの紋、芯は誰かを待つ歌を覚えた灯りの器。


「本命はやっぱりこれ。『家に帰れる』灯り。――でも今日は勝負だから、器に『それぞれの案の小片』を添えたい」


 ミトスは指を折って数える。


「イェレナの皿の欠片に、ミリアの辛味ナッツをほんのひとかけ。それから、クルシュの封蝋、ソリンの鞘布の刺繍糸、ガァトの小さい抱ける壁の模様」

「ミトスは欲張りさんじゃのう」

「だって、折角なら、みんなの欠片を残しておきたいんだもの。それに、そのほうが、私だけよりも強いでしょう?」


 思わぬ打算に、よく考えたと言わんばかりに皆が笑う。


「で、どう勝負する?」


 ミリアが腕を組む。


「三本勝負!」


 ミトスは指を立てる。

「まずは味。味覚を使う味、じゃなくてもいいし、それに沿うように考えてもいい。それから、実務。使えるものなのか、使えないものなのか。手段や意味は問わない。最後は、外交。相手への影響と、その中に込められるものは何か」

「その中で勝負できないものは? 僕のに味を求めるのは、ちょっと色んな意味で難しいかもしれないじゃない?」

「それなら、その項目は参加しなくてもいいわ。出た分だけ、見極めの点が増える。えっと審査員は――ウィルにお願いしましょう? 顔がかかっているんですから」


 全員の視線が一斉に玉座の主へ。

 ウィルは一拍置いて、逃げ道がないことに気付き、諦めの笑みを浮かべた。


「栄誉だ。当然ながら、贔屓はしない」

「ギャラリーの意見がほしくない? 折角だから、城の外へ出ましょうよ」


 ミリアの一言に同意した一行は、それぞれ品を持って街へと向かった。


 会場は市場の試食通り。屋台の親父たちが腕を組み「よくわからんが、審査だってよ」とにやついている。


 まずはミリアの皿。


「唐辛子蜂蜜のローストナッツ、外交辛度は三段階なの。入門――少しばかり辛い――に、中堅――まぁまぁ辛い――、そして最後に上級――目が覚めるほどの刺激――よ。さぁ、召し上がれ」

「それならば上級だ」


 ウィルが躊躇なく手を伸ばす。

 ――口に含んだ次の瞬間、目が細くなり、背負う空気がいつもと変わった。


「……旨い。この辛味が『距離』を作る。礼で近づきすぎる相手に呼吸の間合いを戻せる」

「やったわ!」


 ミリアがガッツポーズをした。

 続いて心臓果のコンフィ。

 ウィルはひと口で頷き、私もと試食したミトスは、ほわっと頬が緩む。


「美味しい……けど、少し強いわね。成人向けだと思う」

「子ども席には『燃えない火の飴』よ。一粒は守ってもらうわ」


 飴を口に入れると、胸の真ん中がじんわり温かい。辛いわけでも甘いわけでもない灯りだ。


「これ、器の横に一つ置けるね」


 次はイェレナの逆さ蜂蜜壺。

 逆さにしてもこぼれない……が、上を向けて出そうとすると、中身がなかなか出てこない。スプーンを何度か入れて、ようやく出たと思うと――ドバッ。


「あははははっ! 威勢がよいのじゃ!」

「威勢がいいとか言ってる場合!?」


 慌てて器に戻す。周囲は笑っている。


 ミトスの器は味では勝負できない――が、蜂蜜屋が器の横へハーブ蜂蜜をちょん、と置いた。


「灯りの匂いに合うのはこいつだ。薄くパンに塗って灯の前で食うと、腹じゃなく胸が満ちるぜ。ホッとするんだ。その感覚、知ってるだろ?」


 その言葉に、ウィルとミトスは顔を見合わせてが静かに頷き、少し考えてウィルが紙にこの試合の結果を書く。


「第一戦はミリア。ただしミトスの持つ器との相性点を全員に分配」

「のうのう、わしの壺にはどどん! と加点が入ったりせんかのう?」

「加点? まさか。壺は減点だ」

「そんなぁ……」


 イェレナの反応に、周囲は「そりゃそうだろう」と笑った。反応を見るに、本人としてはいい線をいっていたのだろう。


「行方の気になる者たちはついてこい。城へ戻って第二試合の開始だ」


 ウィルの言葉に、ぞろぞろと市場の人間たちが後をついていった。平和の象徴なのかもしれない、人間たちが、自ら魔王城へ向かっていくということは。


 ――次の場所は城の小広間だった。机と椅子、灯り、給仕口に扉、窓。――ここに、小さな『式典』を仮構する。

 クルシュの書記具セットで模擬合意文を作り、封蝋、配布、保管までの一連を実演して見せた。無駄も隙もない、丁寧な所作。


「なるほど。インクは乾きが早いくて滲みにくい。封蝋は『花歌い紋・簡易版』か。相手の机に乗っても喧嘩を売らないな。悪くない」

「光栄でございます」

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