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魔王♂は勇者♀を溺愛したい-捨てられ勇者、魔の地で家族ができました!-  作者: 三嶋トウカ
【第一部】第一章:迎えの日

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第13話:城内案内_5


 「……お風呂、どこ?」


 広い城内で、ミトスは迷子になっていた。まだまだ知らない魔族が圧倒的に多い彼女は、何人か見かけても声をかけることを躊躇っていた。人間が突然声をかけたら、きっとみんな驚いて逃げてしまうだろう。ウィルはみんなが知っていると言っていたが、そうであってもハードルは高い。


「なんじゃ、迷子かの?」

「――っ!?」


 少し下の位置から聞こえてきた、落ち着いていて可愛らしい声。思わず振り返ると、そこには耳と尻尾の生えた幼女が立っていた。


「のう、迷子か?」

「え、あ、そう、そうなの。お風呂に行きたかったんだけれど、迷子になっちゃって……」

「もしかしてお主が【ミトス】とやらか?」

「私のこと知ってるの?」


 『ウィルの言うことは本当だった』と、ミトスは安どした。同時に、この幼女の正体が気になって仕方がない。


「勿論知っておる! 元勇者の、ウィルの嫁じゃろうて」

「せ、正解」

「わしは何でも知っておる! ほれ、お風呂に連れてってやろう! 安心してついてこい」


 耳と尻尾のついた幼女は、その尻尾を振りながら、耳もピコピコさせてミトスの手を引っ張った。


「あ、名前……聞いても良い?」

「わしか? ……おぉ、すまんかった。わしは【イェレナ】じゃ。ケット・シーの種族を知っておるか?」


 ケット・シー。猫の妖精。彼女の見た目は、人に変身した姿なのだろうか。耳と尻尾以外は人間の子どもに見える。


「えぇ、実際にお会いするのは初めてだけど……」

「そうかそうか。わしはこれでも、齢三百と言ったところでの」

「三百歳!? 五歳くらいにしか見えないのに!? って、ごめんなさい……失礼……でしたよね」

「よいよい。知らん人間は、この姿のほうが油断するから色々と助かるんじゃ。わしはクルシュと旧知の仲でのう。ウィルも赤ん坊のころから知っておる」

「すごい」


 『クルシュと旧知の仲』と言われただけで、一気に信頼度が上がる。そして『赤ちゃんのころからウィルを知っている』の言葉で、急に近しい存在になった。


 二人は喋りながら風呂場までの廊下を歩く。


「あーあ、わしももっと早くこれば良かったのう。そうしたら、美味しい料理をたらふく食べられたというのに……」

「イェレナは普段どこにいるの?」

「わしか? わしは城の裏手の地域に住んでおるのじゃ。聞いたかの? あの辺は、人間とはまだ仲良くできん奴らばっかり住んでおる。わしはイレギュラー中のイレギュラーなんじゃ」

「お城にはよく?」

「しょっちゅうじゃ! 頼まれて、たまに人間領の偵察へ行くからのう、その報告と、ご飯を食べに」

「次は一緒にお食事ね」

「ミトスに言われれば、誰も断れまい。何か嫌なことがあったら、すぐわしに言うんじゃぞ?」

「ふふふっ、ありがとう」

「どういたしましてなのじゃ!」


 真っ黒で艶のある長い尻尾を大きく振りながら、イェレナはグッと親指を立てた。愛らしい、子ども特有の笑顔で。その姿は、とても三百年生きているようには見えない。確かにこの姿であれば、人間は油断するだろうと妙に納得した。実際、ミトスは油断している。濃いくすんだピンク色の長い髪は、その顔によく似合っていた。金色の大きな瞳は、吸い込まれてしまいそうなほど神秘的で心が惹かれる。ドレスを動きやすく改良したような淡いレモン色のワンピースは、そんなイェレナの可愛さを一層引き立てていた。


「あそこじゃよ」


 そう言って、イェレナが指さす方向。


「わかりづらいやもしれんのう。けれど、もう覚えたから問題ないな?」

「うん! 有り難う、案内してくれて」

「いいのじゃいいのじゃ。運よくミトスに会えて嬉しかった! ――ところで、このまま風呂に入るつもりか?」

「そのつもりよ」

「……わしも一緒に良いかのう?」


 おずおずと、ミトスの反応を窺うように小声で言う。


「勿論!」

「やったのじゃ! 一人で入る風呂は、落ち着く半面どうにも寂しい時もあってな。これだけ広いと余計に」

「良く入るの?」

「城に用事が会った時はのう。これが楽で良いのじゃ。お風呂もあってご飯も食べ放題。至れり尽くせりというやつじゃ」

「本当ね」


 二人はそのまま、風呂場へのドアを開けた。ふわりと香る、生花の良い匂い。そして、真新しい建材の匂いに、水分の載った空気がそっとミトスを包む。風呂場はいわゆる大浴場で、服をしまうスペースが設けられていた。


「ウィルがわざわざ、風呂場を改装しよったんじゃ。お主のためにのう。よきかなよきかな」


 それだけ言って、イェレナは上機嫌で服を脱ぎ始めた。同じくミトスも服を脱ぎ始めると、ふと誰かの気配に気づく。

 

「もしかして、先客がいる?」

「ん? あぁ、そんな気配がするのう。誰だって入れる場所じゃ。気にするでない」

「そうよね」


 全て脱ぎ捨て、二人は会話を楽しみながら浴室のドアを開けた。


 ガラガラガラッ――。


 お湯の匂いが鼻腔をつく。白い湯気が辺りを覆い、それでも、幾つか形の違う湯舟があり、どれも数人で入っても十分な広さを称えていることはわかった。


「――あら、ミトスちゃんにイェレナじゃない。奇遇ね」

「……あ。メリア?」


 感じた人の気配はメリアだった。

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