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魔王♂は勇者♀を溺愛したい-捨てられ勇者、魔の地で家族ができました!-  作者: 三嶋トウカ
【第一部】第一章:迎えの日

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第12話:城内案内_4


 ミトスは部屋へ戻る。自分が、目を覚ました時にいた部屋――ウィルの部屋だ。あそこを使っていいと言っていたが、使ってしまえばウィルの部屋がなくなってしまう。こんなに広いお城でそんな心配は不要かもしれないが、何となくそう思っていた。『自分がいない今であればウィルはあそこにいるだろう』と踏んで、ミトスは呼吸を落ち着かせると、髪の毛と服に着いた砂埃をパッと払って身なりを整えた。そして、深呼吸してからノックをする。


 ――コンコン。


 一拍置いて、中からこちらへ向かってくる足音が近くなった。


 ――ガチャリ。


「ミトスか、どうした?」

「あ、あのね? 入ってもいいかしら……?」

「勿論だ。お前のための部屋でもある」

「えへへ、じゃあ、遠慮なく」


 ふわりと香る、あの目を覚ました瞬間に嗅いだニオイ。間違いなく、アレがウィルの持つニオイだと確信した。同時に、恥ずかしさも湧き立つ。


「城の案内は終わったのか?」

「えっとね? まだ全ては終わっていないのだけど。ちょっとだけ、報告したくて」

「……ほう?」

「あのね、さっき、中庭でみんなの訓練を見てきたの! メリアはとってもカッコ良くて、みんな一生懸命で。それで、手合わせをお願いされたの」

「手合わせ、を?」


 ピクリとウィルの耳が動く。


「そうなの! あ、勘違いしないで! 誰も私のことを傷つけたりしていないから! それでね、リオっていうお耳の可愛い子とね、剣を交えたのよ」

「リオか。まだ若い、未来ある兵士だ」

「よね! わかるわ! 彼も凄く楽しそうだったし、動きを一つひとつ丁寧になぞっていて。思わず「私も負けられない!」って思っちゃったの」

「それは……良いことだ」


 始めは緊張した面持ちで話を聞いていたウィルも、ウキウキしながら話すミトスを見て、その緊張を解いた。


「あのね、私、勝ったの! みんなが褒めてくれて、物凄く嬉しくなっちゃった! リオも「またお願いします!」って言ってくれて!」


 楽しそうに話す彼女の頬は赤く染まり、潤んだ瞳はキラキラと輝いていた。思わず抱き締めそうになったのをグッと堪え、ウィルはミトスの話を聞くことに注力している。


「また、手合わせしたいのか?」

「勿論! だって私……だって私、勇者だったんだもの。戦うことしか知らないの。もう必要ないのかもしれないけれど、ソリンの言う通り「自分の身は自分で守れたほうが良い」ものね」

「いや、私が全力で守るから心配ない」

「でも、ウィルはみんなも守らなきゃ、でしょ?」

「全てを守る。ミトスを筆頭に」

「じゃあ、私がウィルを守る」

「はははっ、勇者に守られる魔王か……。いや、悪くない」


 お互いに背中を預ける姿を想像し、ウィルは微笑んだ。――人間たちとは、不可侵条約を結んでいる。だから、そんな状況はあり得ないかもしれない。だが、ミトスがそう言ってくれたことに、ウィルは温かい気持ちになった。


「ミトス、少しだけ……」

「何?」

「抱き締めても、良いだろうか?」

「それ聞いちゃうの!?」


 思わず目をパチクリさせて、ミトスはそう口に出した。


「き、聞いたほうが良いのかと思って」


 同じく思わぬ反応に、しどろもどろになるウィル。そんなウィルの姿を見て、ミトスは自らウィルを抱き締めた。


「聞かなくても良いのよ。だって私、恋人なんだから。……でも、時と場所は選んでね?」

「心得ておく」


 ウィルはミトスを抱き締め返す。お互いのぬくもりに目を閉じて、しばらく二人は無言のまま身体を預けた。


「……あっ、やだっ!」


 パッと身体を離すミトスに、ウィルは「何かしてしまったのだろうか」と、不安げに呟いた。


「私、手合わせした時のままなの……。砂埃が付いているし、きっと汚れているわ。そんな状態で、ウィルに抱き着いちゃった……! ごめんなさい」

「それは……気にすることなのか?」

「気にするよ! だってウィルが汚れちゃうじゃない!」

「私はそれくらい気にしない。ミトスがいなければ、砂埃で汚れるどころか、血肉で穢れていたのだから」

「ウィル……」


 自嘲気味に笑うウィルを、一瞬躊躇ったが今度は先ほどよりも強く抱き締めた。「今抱き締めなければならない」と、強く感じたからだ。それ以外理由はない。その気持ちに応えるように、ウィルもまたミトスを拭抱き締める。


「お言葉に甘えて」


 スリスリと頬を胸元に摺り寄せ、ミトスは文字通りウィルに甘えた。ウィルもそれに応えるように指先で髪をすくい、ゆっくりと口づけた。


「……城の風呂は広いぞ? 誰かに教えてもらったか?」

「えっ!? そんなの聞いてない!」

「常に清潔さと綺麗さを保っているし、いつでも入りたい放題だ」

「私も使って良いの?」

「当たり前だ。お前が使わずして、誰が使う」

「んー……メリアとか?」

「話を聞くと良い」


 ミトスがソワソワとし始める。お風呂に今までいい思い出はなかった。だが、今日その記憶を書き換えられる気がしたから。


「行っておいで」


 頬にキスをして、ウィルがミトスの身体をそっと離した。


「うん。……ウィルは、まだ寝ない?」

「あぁ。仕事もあるからな。だが、ミトスが寝る前には必ず顔を見せる。声をかけてくれ」

「わかった!」


 お返しに、ミトスも一つ彼の頬へキスすると、そのまま部屋を後にした。

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