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第1話:まおうとゆうしゃ_1


 魔王が存在する世界。その魔王討伐のために、一人の人間に白羽の矢が立った。名は【ミトス】。身寄りのなくなった子どものころ、今住む村の村長に拾われて、勇者見習いとして研鑽を積んでいた。少女のころからただ愚直に、言われた通り魔王を倒すべく生きてきた。何があろうと従い、嫌なことも辛いことも飲み込んできた。全ては、拾われた恩のために。


「ミトス、話がある」

「村長さん? どうしたの急に」

「いやな……お前には、魔王に立ち向かうための勇者見習いとして、今までやってきてもらったんじゃが……」

「……それが? どうかしたの……?」


 キョトンとするミトス。ミトスは今まで、このハイネル村の村長の下で、村長の言う通り、文字通り【勇者見習い】として育てられてきた。動く邪魔にならぬよう、長さは少しあるものの、一つに引っ詰めて結ばれた艶のない髪の毛。魔法や剣術、柔術の練習のため、小さな生傷や痣は絶えない肌。破れた服はホコリと砂に塗れている。

 ――村長は、実は百パーセントの善意でミトスを迎え育てていたわけではない。


 この村は、元々勇者と呼ばれた人間の生まれ故郷だった。魔王が世代交代を繰り返し、人間を滅ぼしにかかってきたことは何度かある。その度、この村から勇者を輩出し、魔王討伐へと繰り出していた。

 初めて魔王が現れた時、この村の人間が勇者となったのは偶々だった。魔王討伐チームを大きなお城のある地域が募集し、それに応募した青年がいたのだ。その結果、青年は討伐チームのリーダーとして周りを統率し、見事魔王を打ち取った。リーダーとしてチームを率いていた青年は【勇者】として崇められ、青年の故郷は【勇者を輩出した村】として、有名になった。

 その名残として、勇者と言えばこの村、ハイネル村となり、魔王が生まれると同時に、ハイネル村から勇者を送り込むことが続いている。


 その歴史を何度か繰り返した結果、勇者は必ずしも魔王に勝てるわけではないと気が付いた。いや、気が付いてしまったのだ。

 例えば、今から三代前の魔王。圧倒的な強さと統率力で魔物たちを率いり、勇者たち人間勢は手も足も出なかった。あわやこれまでかとなった時、このまま滅びるくらいならば、と、ほぼ全人類が命を懸けて魔王軍と戦ったのである。なり振り構わず、ただ『生きたい』気持ちで戦った人間は辛くも勝利を収めた。

 結論から言うと、その時の勇者は、その戦いが終わった後廃人になった。戦いの途中でとっくに心の折れていた勇者は、人としての心を失っていたのだ。大規模で見た戦闘には勝利したが、勇者の心は負けたのである。


 その後も、この村から勇者は誕生した。が、村の人間は心の後で『この村の人間が犠牲にならなくても良いのでは?』と思い始めていた。勇者は素晴らしいという考えかたから、勇者は人道的な扱いを受けないという考えかたに変わっていったのである。そうなれば、誰も身内を、親しき人間を、勇者にしたくないと思うようになってしまった。悩みに悩み、次世代の勇者は村の人間になってもらった。その次も、村の人間にお願いした。名声は簡単には捨てられなかった。しかし、村人の勇者に対する考え方が変わることはなかった。


 そんな中、偶々村長に拾われたミトス。村人にとっても、村長にとっても、好都合な存在となった。『ハイネル村から勇者を輩出するが、その人間はハイネル村の人間ではない』という、村の威信は傷付けることなく、かつ、実は村の人間ではないという構図ができあがったのだ。皆喜び、ミトスは上辺だけは大変好意的に村に受け入れられた。今まで勇者として魔王討伐に出たのは男性だけであったが、ミトスは女性だった。しかし、そんなことは関係ないと感じていた。


 結果、初めての女勇者としてミトスはこの村で育てあげることとなった。『どうせこの子は拾い子、村の人間ではない』という、都合の良い身代わりとして。 まだ一桁の歳のころにその名を受け、十二になったころから見習いとしての修行と指導を受け、今に至る。修行を始めてから六年が経過し、今では村のどの男性よりも強くなっていた。


 汚れを落とした後の、その可憐な容姿とは裏腹に。


「ミトス……その……」

「何よ? 何かあったの?」


 要領を得ない村長を、ミトスは不思議に思った。いつもはこんな喋りかたもしないのに、と。


「……嫁に」

「え?」

「嫁に行ってもらいたいんじゃ」

「……は?」

「魔王の」

「……は?」


 ミトスは村長が何を言っているのか全く理解できなかった。倒すはずの魔王の元へ嫁に行けなどと、理解できるはずもなかった。何かの悪い冗談なのか。それとも、おかしなことを言って自分の精神力でも試そうとしているのか。


「何でこんな悪い冗談を……」


 どちらにせよ、ミトスはそう思い口にも出していた。冗談にしては、面白くもなんともない。むしろ、不快感さえ感じるだろう、と。


「何を……言っているの?」


 しかし、あくまでもミトスは平静を装った。私は【勇者見習い】なのだ。そんな正反対な話があるわけない。……やはり、自身の精神力を試しているのだろう。それ以外あり得るはずがないのだ、そう思っていた。

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