第12話 金髪ギャルは目立たない
《有栖川ビル 撮影スタジオ》
「お久しぶりね~、汐崎君。元気にしてた? 今日も綺麗な顔してるわね~、羨ましいわ。目も綺麗だしね」
「あ、ありがとうございます。(は? 綺麗な顔? この俺が? いつも葵にアホ面呼ばわりされている俺の顔が綺麗な顔?……何を言ってんだ。この人は)」
「それに私が買ってあげたサングラスちゃんと付けてきたのね。良かった良かった」
それにしてもフレンドリーな人だな。会うのは二度目の筈なのに、慣れなしさが学校の後輩である佐伯並みだ。
うん。この人多分腹黒い人だな。佐伯もかなり腹黒いし。つうかこの人と佐伯と顔が凄く似ている気がするが姉妹とかだったりしないかな?……いや。まさかな。
「ひ、光君。ひ、久しぶり。私の事覚えて……」
「あら~! 何? 何? 友達も一緒に連れてくるとか連絡してくれてたけど。女の子じゃない~、何々? 汐崎君の彼女さん? それにしてなんか大人しそうな娘ね」
この人と人との話の間合い気にしないで自分のペースで会話する姿。佐伯にそっくりだ。
柊さんの隣に居た有栖川さんが俺に話しかけ様としていたのに柊さんのせいで有栖川さんの言葉が遮られてしまった。
「こ、こんにちは~、汐崎君の彼女の織姫葵って言います。それはもうお互いラブラブでぇ…」
「嘘をつくな。葵。嘘を……」
「何よ。別に良いじゃない減るもんでもないし。そのうち事実になるんだし」
コイツ。なに真顔でとんでもない事を言ってるんだ? それが当然でしょう? 光。みたいな顔で俺を見詰めるな。恥ずかしいっ!
「へー、織姫ちゃんって大人しそうに見えて面白い娘なのね。服装とかは大人しめのコーディネートなのにね。(お化粧でわざと綺麗に見せない様にしてるのかしら?……帽子とか眼鏡を取っ払って素顔を見せてほしいものね)」
柊さんは葵をジーッと品定めでもするかの様に見詰めている。
そして俺はその光景を見て葵にアイコンタクトを飛ばした。
(……もしかして葵。今日の葵の服が2年前みたいな大人しめのコーデなのってわざとか? 今日、ここで 《撮影スタジオ》で目立たない為に)
(へ? な、何で分かったのよ?)
(いや。普段はもっと可愛い私服着ててだろう。スカートとかもかなり短かいの履いてたし。良く俺の部屋から着替え見えてたから覚えてる)
「そうなのよ。私って目立っちゃうから。スカウトなんてされたら光が困るでしょ……てっ! あ、アンタ。この2年間。私の部屋を覗き見してたの? エッチっ! スケベェ!……んーんー?! (何で私の口に手を当てるのよ?! 離しなさよぉー!)」
「……静かにしろ。目立つだろうが。スカウトされたら俺が困るのが嫌なんだろう?」
……コイツ。俺とのアイコンタクトでどれだけ。読み取れるだよ。エスパーか?
「へ? 何? なんで織姫ちゃん。いきなり怒りだしてんの? 反抗期?」
「……光君が女の子と仲良くしてる……私よりも仲良くしてる……私どうしたら良いの? ひー君」
柊さんはポカーンっと俺と葵のやり取りを見ていたが。
その隣で同じく俺達のやり取りを見ていた有栖川さんはどこか嫌そうな顔をして目のハイライトが消えている。
そして、首元にかけていたブック型ロケットのペンダントの中身を開くと小さい男の子の写真があり。それにブツブツと喋りかけ始めた。
そして、そんな有栖川さんの姿を見た柊さんは慌てて俺達に有栖川さんを紹介し始めた。
「……おっと。可憐ちゃんのこの状態不味いわね。は~い。お友達同士のお2人~! 注目注目~! こちら今回のプール特集記事の主役。日本が世界に誇るトップアイドル。有栖川可憐ちゃんよ。ほら~! スタッフの皆も拍手~!(アンタ達。分かってるわよね? 可憐のモチベーション保立せるのよ。じゃないと仕事にならんぜよ)」
「「「了解っ! うおぉぉ!! 可憐ちゃんサイコーっ! (ここで可憐ちゃんに落ち込まれると不味い!!)」」」
何だ? なんか柊さんも撮影スタッフの人達も無理矢理盛り上がり始めたが。どうかしたのか?
「ほら可憐。皆、貴女に注目してるわ。今日は貴女が主役なんだから落ち込んでちゃ駄目でしょう? それに今日は汐崎君と再会出来るのを朝から楽しみって言ってたじゃない。ちゃんと挨拶しないと……ほれ。頑張れ」
「へぁ?! は……はい。柊ちゃん」
……なんか柊さん。有栖川さんに対してやけに親切だな? つうか? 有栖川さん。柊さんの事を今、ちゃん付けしてなかったか?
「ひ、久しぶり……光君。去年の4月に廊下ですれ違った以来だね。元気にしてた。有栖川可憐だよ? 覚えてるかな?」
有栖川さんは俺に話しかけると照れ臭そうに微笑んだ。その瞬間。俺の中で何かが弾け飛んだ。
ジャージ姿の絶世の美少女がそこに居た。先程までは全然意識していなかったが。
有栖川さんの顔はまさに黄金比率の様に可愛いらしい顔をしていた。
いやそれだけじゃない仕草や笑顔まで完璧に計算作らせた可愛い女の子が俺に優しく微笑んでいた。
これが日本のトップアイドル。そう言われるだけの圧倒的カリスマ性と可愛いさが有栖川さんにある。
「んーんーんんんんんんんん!! (ちょっとっ! 何。私以外の女の子に見惚れているのよっ! 駄目よ。そんなのーっ!)」
いや。俺が今、口を抑えている葵も可愛いんだけど。凄く可愛い。黎明高校ではマドンナとか言われる位にな。
だが有栖川さんは眼の色が違う。眼力がある不思議と人を惹き付ける。凄まじく綺麗な瞳が……あー、やっと思い出した。小さい頃に彼女と似た様な娘と良く遊んでたな。
そして、時たま学校内でもすれ違い様にあの有栖川さんの綺麗な目が俺と良く目線を合わせてたんだよな……不思議と。なんでか分からないが彼女の眼には惹き付ける何かがあるんだろうか?
「あ、ああ……覚えてるよ……その綺麗な眼……でも改めて自己紹介させてくれ。汐崎光だ。よろしく」
「うん……昔から知ってるよ。忘れた事ない」
「ぷはぁーっ! はぁー、はぁー、やっと抜け出せたわ……織姫葵。同じ黎明高校のクラスメイトよ。可憐ちゃんよろしくね」
葵の奴。俺の手の拘束を無理矢理解いたか。もう少し葵を拘束したかったな……てっ! 変態か俺は。
「はい。よろしくお願いします。光君」
「お、おう……」
そして、有栖川さんは葵の事は眼中にないのか。何故か俺の両手を掴んで嬉しそうに笑っている。
「ちょっと……なんで手を握り合ってるのよ」
葵は不機嫌そうに俺と有栖川さんのやり取りを見ている。
「ふふんっ! スポンサーとしてあんな嬉しそうにしていると私も嬉しいわ。テンション上がるわ。そうよ。そうっ! 可憐のあの可愛い反応が欲しかったのよ。それじゃあ撮影始めましょうか。可憐のやる気が落ち込む前にね」
柊さんのその一言で挨拶はお披楽喜になり。《可憐の秘密の夏休み》特集で使われる写真の撮影が始まったのだった。