第11話 あらゆる2人の視点に注目を
都内行きの電車に乗り数十分後、高層ビルが並び立つ新宿駅へと着いた。
そこから少し歩いた所に今日、俺がモデルの撮影とやらでお世話になる柊さんが待っているらしい。
「新宿駅を歩いて数分の所にこんな大きなビルの中に撮影スタジオがあるって。あの柊って編集長さん何者なの?」
「さぁ? 本人は自称カリスマ編集者って名乗ってたけど。何者何だろうな?」
「……今更言うのもなんだけど。その人本当にちゃんとしてる人なのよね? 光。私心配してるんだからね。(光は自分の容姿に無頓着過ぎよ。あの年の女の人なんて気に入った子が現れればお金で誘惑してくる生き物なのに。このままだと光が私に捧げる貞操が奪われちゃうわ。どうにかしなくちゃっ!)」
葵が心配そうな顔で俺の顔を見つめる。何がそんなに心配なんだろうか?
「あ、あのっ! ちょっと良いですか?」
「ふぁ~! 綺麗な顔の人~!」
「えっと……俺です?」
突然、どこかの学校の制服を着た女の子達に声をかけられてしまった。何の用事だろうか?
「お、お兄さん。この後だけお時間ありますか? 良かったら私達とどこかでお話しませんか?」
「そ、そうそう。それが駄目なら是非、連絡先だけでも交換して欲しいの。それなら別の日に遊んで……」
「は?……俺とお話? 連絡先の交か……」
「はい。駄目に決まってるわ。行くわよ。光~! 撮影に遅れちゃうわ」
葵は俺の腕にしがみつくとそのまま俺を撮影スタジオがあるビルの中へと無理矢理歩かせ始めた。
「うおっ! いや。ちょっと待て。葵、あの2人との話がまだ途中なんだぞ」
「あれはナンパよっ! ナンパ~! くぅぅ! これだから警戒心ゼロの光は困ったちゃんなのよ~!」
などと叫んだ葵と共に俺は撮影スタジオへと向かった。
しかし俺に声をかけて来た2人の女の子達をその場に放置してしまった。後で会えたりしたら謝っておかないとな。
……つうかあの2人。七宮さんの所の双子姉妹達だよな? なんで他人の振りなんてして話しかけて来たんだろうか?
◇
「……行っちゃったね。麗」
「行かれましたね。芽愛」
プルプルプルプル……ピッ!
『はい! もしもし……』
「「雪乃お嬢様。申し訳ありません。汐崎 光を誘い出すのを失敗してしまいました。申し訳ございません」」
『まあ? そうですか……うーん。では今回の尾行はここまでにしておきましょう。麗さんと芽愛さんはそのまま今日のお仕事は終わりにして遊んで来て良いですよ。ゆっくり遊んで来て下さい』
「雪乃お嬢様」
「ありがとうございます」
『はい。ではまた来週学校でお会いしましょう。さようなら……ピッ!』
「流石、雪乃お嬢様。」
「お優しいお方ですね」
「あっ! でも汐崎光の隣に」
「お嬢様のライバルの織姫 葵が居たこと伝えていませんでした」
「「……報告を怠った事を怒られたくないので黙っていましょう。そうしましょう。そうしましょう」」
七宮さんに仕える双子姉妹の麗さんと芽愛さん達は。
後日、葵が俺のモデルの撮影に同行していた事を七宮さんに報告しなかった事が俺の口からバレた事で俺の目の前でお仕置きされる事になるのだった。
「芽愛。これからアキバに遊びに行きましょう」
「えー、やだ。行くならシブヤが良いよ。麗~!」
◇
《撮影スタジオ》
「今度から私と一緒に外を歩く時は肩を組んで歩くのよ。光っ! じゃないと獰猛な女の子達にそのうちパクッと食べれちゃうんだかね。気をつけなさい」
「いや。そんな恥ずかしい事出来るわけないだろう。第一そんな光景を葵に好意を寄せてる奴等の前でやったら俺が処されるだろう」
俺の強引に引っ張る葵は何故か不機嫌だ。腹でも減っていんだろうか?
そして、そんなやり取りをしている間に柊さんに指定された撮影スタジオへと辿り着いてしまった。
「おっ! この声は噂をすればなんとやらね。お~い! 汐崎君。こっちこっち~! 5日振りくらい? 元気にしてた?」
高そうなスーツを着て、髪を一纏めにしてポニーテールに結んでいる女の人が俺を見つけると大きく手を振り声をかけて来た。
そして、その隣には……桜色の髪にサングラスをかけジャージ姿の女性か? いや年齢的に俺や葵と変わらない位の娘が俺をジーッと見詰めていた。
「光君。(どうしよう~、会うの数ヶ月振りくらいかな? 私の事覚えててくれているかな?)」
……しかしあのジャージ姿の娘。どこかで会った事がある様な。無い様な。
「ね、ねえ、光。あの柊って人の隣に居る女の子ってまさか……」
葵は俺の服を引っ張って驚いた表情をしていた。何だろう? 頼むからこんな場所で学校に居る時の様なレスバトルはしないでくれよ。葵……
「ん? どうした? あの女の子が気に食わないからレスバトルを吹っ掛ける気なのか? 止めてくれよ。葵。俺が恥ずかしいからな」
「つっ//// そんな事するわけないでしょう。私を誰だと思っているの?」
「いつも五月女や七宮さんと罵倒し合ってる陽キャレスバトル好きギャルで俺とは住む世界が根本的に違う生き物だと思ってる」
俺はスラスラと学校での葵の生態系を述べてみた。
「どんな珍獣よ。私は人間なんですけど……それよりもあの娘。有栖川 可憐ちゃんじゃない。日本のトップアイドルの」
「有栖川 可憐?……それってたしかウチのクラスメイトでたまにしか学校に来ない女の子だよな? 理由は何でか知らないけど」
「芸能人活動の為でしょう。同じクラスメイトなんだから事情くらい把握しておいてあげなさいよ。大切な仲間なんだから」
この陽キャ発言。陰キャの俺には思いつかない発想である。流石、陰の道を脱却し。
見事に社交性と狂暴性を覚醒させ陽キャへと反転せし金髪ギャル葵さんだ。
発言に重みがある。
「ちょっと。黙ってるって事はまた何か私に対して失礼な事を考えているの?」
「…………いや。今日も葵は可愛いなと思ってただけだ」
「へぁ?!……わ、私が可愛いだなんて……光ったら突然何を言っているのよ。もう……そ、それよりもさっさと柊って人とカレンちゃんの所に挨拶しに行きましょう。エヘヘ////」
葵は俺に褒められると嬉しそうに撮影スタジオの奥へと入って行った。
しかしあの有栖川って女の子………どうして俺をずっと凝視しているんだろうか?