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第2話  邪眼の魔女 4

「僕の名前は『ダン・ケルナー』。君の名前は?」

「私は『マダハルト・パイン』だ」

 店主が答える。

「だから、『パインパイン魔具店』なのか」

 ダンは納得する。


「ねえ、マダハルトは学校には行かないの?」

 ダンが尋ねると、店主は不機嫌そうな顔をする。

「パインが名前だ」

 獣人国や、一部の国は名前が後で、苗字が先に来る。

「わかったよ、パイン」

 ダンがそう言うと、パインが頷く。可愛い名前と、迫力のある顔のギャップがすごい。

「私は学校に行く必要が無いそうだ」

 パインが答える。確かに、魔具師をしていれば、仕事には困らない特別すぎる才能だ。それにこうしてお店を持っているんだ。その点は、大人と言ってもいいだろう。

 


 右の肩からは、まだ何か細長い物が生えて、ウニョウニョ蠢いている。

 よく見ると、小さなコウモリの羽のような物が生えていたり、気味の悪い目玉が何個か開いたり閉じたりしている。

 更に恐ろしいのは、尖った口のような者がいくつか生えており、そこには鋭い牙がびっしり生えていた。

「パイン。・・・・・・ところで、その肩のは何?」

 ダンは恐る恐る尋ねてみる。これは確かめないと、夜眠れそうも無い。

「ギイだ」

 パインは当然の様に答えるが、「ギイ」が何なのか分からない。

「『ギイ』って?それ生きてるの?魔法道具なの?」

 そう尋ねると、パインは少し考えて、面倒くさそうに話し出す。

「これは、竜に喰われた子どもの竜たちだ。倒した竜の腹から、半分溶けて出て来た。生きていたから、まとめて一つの卵に戻して、ここで育てている」

 ダンはパインの言葉を一つ一つ噛み砕いて考えてみる。

 すると、とんでもない事をさらりと言っている事が分かる。


 まず、竜を倒したと言う事。

 その竜が子どもの竜を食べていた事。

 溶けて死にかけの竜たちの命も体もひとまとめに卵に戻した事。

 そして、魔法道具として、防具の中で孵化させて、一つの生命体として使役しているという事。

 魔具師の作る魔法道具は、普通の魔法では出来ない事を平然と行う事が出来るというのは本当のようだ。


「き、昨日は、もう片方にも何かいたよね?」

 これも確かめなければいけない。

「アイだな」

 パインが言うと、左の肩アーマーが盛り上がる。

 黒い大きな獣の上半身が姿を現した。黄色い目に鋭い牙と爪を持ったクロヒョウだ。

「これは冒険者に胴体を半分にされた猫だ」

 猫では無い。クロヒョウだ。

「死にかけだったので、ここで飼っている」

 アイと呼ばれたクロヒョウは、パインに甘えるようにのどを鳴らして頬ずりをする。パインの細い首に掛かる負担が心配になってしまうくらい傾く。

 驚きの連続である。

 

 だが、これも尋ねなくてはいけない。

「パイン。その額の赤いのは、本物の眼なのかい?」

 するとパインは額の眼に手を当てて頷く。

「私の眼だ。危ないから使わない時は封印している」

 「危ない」とはどう言う事なのか気になったが、ダンはそれ以上聞くのはやめておいた。

 

 手の中の鉄の棒を見つめる。


「・・・・・・じゃあ、パイン。これは貰っていくよ」

 ダンは火付け棒(?)を受け取った。パインは当然の様に頷いた。

「何か困った事があったら、すぐ前のパン屋に来てよ」

 パインが頷いたので、「じゃあね」と店を出て、階段を降りて家に帰った。



 興奮していて、火付け棒の事は両親に話せなかった。特別な宝物を貰った様な気になってワクワクしていた。

 エドにも話してやるつもりは無い。

  


 それが、ダンとパインの出会いだった。

 まだ季節は春も終わりに近い3月の事だった。


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